2022年5月に神戸市の甲南医療センターで発生した男性専攻医の過労自殺は、医師の働き方や自己研鑽の在り方に一石を投じた。いまだ専攻医や研修医を安価な労働力と捉える施設が散見されるが、海外の事情はどうか-。米・Accreditation Council for Graduate Medical EducationのNicholas A. Yaghmour氏らは、2000~21年における研修医・フェロー(以下、研修医)の全死亡の動向を検討する全国調査を実施。2000~14年と比べ、2015~21年には腫瘍性疾患による死亡が有意に減少したが、その他の死因に変動はなかった。一方で、自殺は研修1年目の第1四半期に多発し、同期間における死因の約半数を占めるなど深刻な課題であることが示されたとの結果をJAMA Netw Open2025; 8: e259238)に発表した。(関連記事「専攻医を過労自殺に追い込んだ2つの巨大悪」)

先行研究を受けて行われた研修医サポート施策を検証

 米国卒後医学教育認定評議会(ACGME)が行った先行研究では、2000~14年における研修医の死因として、自殺は男性で第1位、女性で第2位だった。自殺による死亡のほぼ4分の1(23%)が入局1年目の第1四半期に発生しており、事故とその他の内科的・外科的疾患を合わせると同時期の死亡は全体の31%を占めた(Acad Med 2017; 92: 976-983)。

 この発表を受け、大学院医学教育(GME)関係者は、研修中の役割転換、研修プログラムの改革、共通プログラム要件の実施、プライマリケアやカウンセリングサービスへのアクセス強化など研修医のwell-beingをサポートする努力を重ねてきた。

 Yaghmour氏らは今回、こうした取り組みの成果を検証する目的で全国調査を実施した。対象はACGME認定の研修プログラムに在籍し、2015~21年に死亡した研修医。National Death Index(NDI)などを用いて死因を照合して死因別に発生率比(IRR)を算出し、①2000~14年に死亡した研修医、②年齢と性をマッチングした一般集団-と比較した。

一般集団に比べると死亡率は低い

 2015~21年の37万778人の研修医における96万1,755人・年の研修期間中に、ACGME認定プログラム在籍中の161人(女性31.1%、男性68.9%、年齢中央値31歳)が死亡した。161人中152人(94.4%)についてNDIデータを用いて死因を照合し、6人は死因不明だった。残る9人中4人は訃報記事または地元のニュース記事から死因を特定、5人は死因不明に分類した。

 2015~21年の死因で最も多かったのは自殺の47件(29.2%、男性35件、女性12件)で、腫瘍性疾患の28件(17.4%、男女各14件)が続き、女性の死因として最多だった。以降は、事故死および内科的・外科的疾患が各22件(13.7%)、中毒死が21件の順だった。

 解析の結果、10万人・年当たりの全死亡2000~14年の19.96に対し、2015~21年は16.74と減少傾向が見られたものの有意差はなかった(IRR 0.84、95%CI 0.69~1.01)。死因別に見ると、腫瘍性疾患による死亡でのみ有意差が認められた(10万人・年当たり4.93 vs. 2.91IRR 0.59、95%CI 0.38~0.90、P=0.05)。男女別に見ると、全死因で有意差は示されなかった。

 30~34歳の一般集団と研修医との比較では、全死亡(IRR 0.12、95%CI 0.11~0.14)をはじめ、全ての死因で研修医の死亡率が低かった。男女別に見ても結果は一貫していた。

個人的変化と職業的変化への適応、責任の増大への苦悩が関与か

 2015~21年における自殺の発生時期を見ると、フェローを除いた43件中9件が研修1年目の第1四半期(多くが7~9月)に発生2年目の第4四半期の6件が続いた図1)。全47件を四半期別に見ると、第1四半期と第4四半期が各15件と最も多く、全自殺者の63.8%を占めた。第2四半期は7件(14.9%)、第3四半期は10件(21.3%)だった。

図1. 研修期間別に見た2015~21年における研修医の自殺発生頻度

 研究期間全体では、研修1年目の第4四半期の56件が最も多かった。研修1年目の第1四半期における死因は39件中19件(48.7%)が自殺によるもので、約半数を占めた(図2)。

図2. 研修期間別に見た2000~21年における研修医の死因

(図1、2ともJAMA Netw Open 2025; 8: e259238)

 25~44歳の米国一般集団における同時期の自殺の発生率は7~9月が26.8%、10~12月が24.3%、1~3月23.7%、4~5月が25.2%と、研修医とは異なる時間的傾向が認められた。この点について、Yaghmour氏らは「研修1年目には医学部からGMEに移行する期間に個人的変化と職業的変化に適応するという2つの課題に直面すること、2年目の終わりには3年制プログラムの最終年度を前に臨床と教育の責任が増大することへの苦悩が関与しているのではないか」と考察している。

最も自殺リスクが高いのは病理学、腫瘍性疾患死は精神科、中毒死は麻酔科

 研究期間中に15件以上発生した死因について、最も数が多い内科研修医を参照として解析した。その結果、最も自殺リスクが高かったのは病理学研修医で約5倍(10万人・年当たり19.76、IRR 4.98、95%CI 2.25~10.32)、腫瘍性疾患死リスクは精神科研修医で約10倍(同9.67、2.56、1.19~5.25)、中毒死リスクは麻酔科研修医で約12倍(同15.46、11.69、5.14~29.95)だった。

 以上を踏まえ、Yaghmour氏らは「2000~14年と比べ、2015~21年に腫瘍性疾患死を除く研修医の死亡に変動がなかったのは、GME関係者らによるサポート施策が奏功しなかったためと単純に考えるべきではない」と指摘。その上で、「自殺発生時期に二峰性が見られた点などに鑑み、量的調査と並行して研修医の自殺傾向、過剰服薬事故、GMEへの移行期の苦悩、その他の健康関連行動を促す要因を探る質的調査の必要性が示された」と結論している。

編集部・関根雄人