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子どもの弱視、見逃さない
~検査機器開発へーモス、名大、夏目綜研~

 子どもの弱視を見逃さないため、「モスバーガー」を運営するモスフードサービス、名古屋大学医学部附属病院、瞳孔反応に関する基礎研究を手掛ける夏目綜合研究所は、未就学児向けの視力検査機器の共同研究開発に乗り出した。乳幼児の視力を誰でも簡単に測れるようにするのが狙い。将来的に1歳6カ月健診での導入を目指したい考えだ。

 「子どもの50人に1人」とされる弱視は、早期に治療を始めれば改善が見込めるが、小さい子の視力低下は周囲が気付きにくく、視力を正しく測るのも難しいため、見過ごされるケースがある。この研究開発を資金面で援助するモスフードサービスの笠井洸取締役上席執行役員は「異色の3者で弱視という社会課題に向き合い、検査機器のデジタル化で子どもの目を守ることにつなげたい」と抱負を語る。

弱視について説明する名大附属病院の安田病院助教

弱視について説明する名大附属病院の安田病院助教

 ◇早期発見が重要

 目の機能は、生後1カ月~3歳ごろにかけ急速に発達し、6~8歳ごろまでにほぼ完成する。

 視力が発達する時期は「視覚の感受性期」と呼ばれ、感受性は1歳6カ月ごろにピークに達し、3歳を過ぎると徐々に低下し、8歳ごろで失われると考えられている。

 視力は脳の発育につれて成長するため、感受性の高い幼少期は両目ではっきり見て、目に映った物の情報を脳に正しく伝えることが重要だ。

 そのため、斜視や乱視遠視、まぶたが十分に開かないなどの理由ではっきり見えない環境ができると、脳が物を見ていると認識しないため、視力は発達せず、眼鏡などで矯正しても見えづらい状態「弱視」になってしまう。

 ただ、弱視になっても、視力の発達段階で矯正を始めれば視力は回復が可能だという。だが、感受性が低くなると、治療の効果は得られにくい。このため、治療のタイムリミットは8歳ごろと言われている。

 早期発見が重要なポイントだが、幼児は目が見えにくくても、自覚して言葉で伝えることが難しい。特に、片目だけが弱視の「不同視弱視」は、もう一方の目を使えば支障なく生活できるため、子ども自身は自覚できず、周囲も見えないことに気付きにくい。

 こうした状況も鑑み、名大附属病院の安田小百合病院助教(眼科)は「弱視を早く見つけて治療につなげるためには、視力の測定、弱視の検査ができる(体制を整える)必要がある」と指摘する。

TAC検査で使うボードを見せる視能訓練士の藤原久美さん

TAC検査で使うボードを見せる視能訓練士の藤原久美さん

 ◇視力測定がカギ

 2022年度に始まった国の補助制度を受け、3歳児健診で目のピントが合っているかを調べる「屈折検査」が普及。この検査では弱視の原因となる近視遠視乱視が分かるため、弱視のリスクがある子どもが見つかりやすくなった。しかし、安田病院助教は、屈折検査ではどの程度見えているかは分からないため、弱視の程度を把握するには、視力検査を行って視力を測らないといけないと説明する。

 一般的に、幼児の視力検査では「C字」の切れ目の向きを指などを使って答えてもらうが、指さしが難しい子らには、縞(しま)模様と無地が描かれたボードを提示して、その子が縞と無地のどちらを見ているかで視力を測る「縞視力(TAC検査)」を実施する。

 ただ、この検査を実施できる視能訓練士は慢性的な人手不足で、多くの子どもが適切な検査を受けられていないという。安田病院助教は「TAC検査は乳幼児の弱視を早く見つけるにはとても大事な検査だ。それが視能訓練士や施設が少なくてできない。弱視が見逃され、手遅れな年齢になってしまう」と警鐘を鳴らす。

記者会見に臨む(左から)笠井氏、安田病院助教、臼倉氏、弓削氏

記者会見に臨む(左から)笠井氏、安田病院助教、臼倉氏、弓削氏

 ◇28年の実用化目指す

 こうした現状の打開に向け、3者で取り組むのがTAC検査のデジタル化だ。

 視線の位置や瞳孔の反応を分析できる夏目綜合研究所の技術を活用し、乳幼児がモニター画面やタブレット端末などを見るだけで視力が測定できるようにする。視力は数値評価で表すことを想定している。

 同研究所の臼倉正社長は、28年には社会実装したいと表明。研究開発担当取締役の弓削八郎氏は「医師や視能訓練士でなくても、誰でも簡単に測定できるものにしたい」と話す。

 試験的な検査機器を使い、安田病院助教が精度を検証する。26年度には1歳6カ月健診で試行して有用性を確かめ、研究発表を行う予定。安田氏は「視覚の感受性が高い2~3歳で弱視治療の介入が行えると、良好な視力発達が見込めるため、弱視はなるべく早めに見つけたい。検査機器の1歳6カ月健診での導入を目指しているが、眼科や小児科でも使ってもらいたい」と意気込みを語る。

 モスフードサービスは資金援助のほか、全国の店舗で弱視に関する情報発信を担う。6月10日の「こどもの目の日」には啓発のリーフレットを配布。また、子ども向けのおもちゃなどの啓発グッズを作ることも検討中だ。笠井氏は「弱視を多くの人に知ってもらうきっかけづくりをしたい」と語った。(及川彩)


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