治療・予防 2025/06/12 05:00
親指に痛みも
~スマホ使い過ぎで(稲毛病院 佐藤務医師)~
がんや希少疾患などで闘病する患者とその家族は、有益な情報を欲している。同じような病気に苦しむ人たちの交流によって、正しい情報を得ることに加え、孤独感は和らぎ、希望を持てるようになる。学校でのがん教育に力を入れたり、希少性疾患の患者の就労支援に力を入れたりしている二つの団体の活動を紹介する。
神奈川県がん患者団体連合会に加盟する「ピアリング」
◇がん経験者が語る
神奈川県がん患者団体連合会は2019年に設立され、現在、肺がんや乳がんなどの患者会16団体が参加している。横浜市に拠点を置くが、参加団体が広範囲にわたることから、オンラインを積極的に活用している。重視している活動の一つががん教育だ。
文部科学省はがん教育を推進しているが、学校に派遣されるのは医師が多く、がんの経験者は少ないのが現状だという。連合会監事でがん経験者外部講師を務める福田ゆう子さんは「私もがんを患った。それを唯一無二の社会的価値として教育現場から発信したい」と話す。
◇自分の命か、子どもか
福田さんは10年前、妊娠初期に乳がんと診断された。その時医師から、「あなたの命か、それとも子どもか」という選択を迫られた。妊娠中に抗がん剤を使用すれば胎児に悪影響を及ぼし、出産後に治療を開始すれば子どもの成長を見届けることはできない。「当時は全く知識がなく、恐怖で震えた」。必死で情報を探し求め、妊娠中の抗がん剤治療に成功した人と病院を知る。無事に出産し、子どもと時々けんかもする普通の母親として暮らす福田さんは「そういう経験をした人がいると耳に挟んでいたら、あんな恐怖を味わうことはなかっただろう」と振り返る。
◇母親に「ありがとう」
福田さんの話を聞いた子どもたちの反応はどうだろうか。
「お話はショックでした。帰ったらお母さんに『ありがとう』と言います」
「親にがん検診を受けているかどうか聞いてみます」
そういう声は福田さんの励みになり、「この活動を続けていこう」と語る。
がん教育で学校に赴く講師を養成するための研修には、時間と費用がかかる。児童や生徒たちの前で自らの経験をきちんと伝え、共感を得るのは簡単ではないからだ。ファイザーの助成金が役立っている。
「両育わーるど」は希少疾患の患者らの就労支援に力を入れている
◇「働く」をキーワードに
やはりファイザーの助成金を活用する「両育わーるど」は、障害者や難病者の自立を目指し、12年に設立された団体だ。18年に難病者の社会参加を考える研究会を立ち上げ、「働く」をキーワードにした「難病白書」を刊行した。現在、第2弾の白書制作に取り組んでいる。企業向けの対話プログラムの作成もそれに準じる活動だ。
オンラインで結ばれるメンバーは北海道から九州までに及び、年齢も20代から70代までとさまざまだ。
理事長の重光喬之さんは、交感神経の機能低下で脳脊髄液が漏れる病気を抱えている。会話したことを覚えていない。時間が分からない。さらに強い痛みに襲われる。20代に企業を退職した経験がある。
◇「RDワーカーズ」を提唱
重光さんは「RDワーカーズ」という言葉を広めたいと願っている。RDはRare Disease(レアディジーズ)の略で、希少・難治性疾患と訳される。「難病」といわれるが、この言葉には「重篤な病気」というイメージが付きまとう。重光さんは「難病であっても、働きたいという意欲を持っている人がいる。実態とのイメージのギャップが大きい」と強調する。
フルタイム勤務、半日勤務、自分の体調に応じて週に数時間働くスーパーフレックス勤務。雇用する側に知識と配慮があれば、希少疾患の人たちは働く意欲を満たし、社会貢献ができるという。
◇自治体が雇用
両育わーるどは、国会議員や地方議会議員に働き掛け、就労の拡大に向けた取り組みを続けている。山梨県は25年度から、難病の人の採用を始めた。採用における「難病枠」の設定は全国で初めて。3人を募集したところ、8人が応募した。障害者らの就労中にヘルパーによる支援を認める自治体も増え、現在は100自治体に達したという。
◇体調を「可視化」しよう
メンバーの1人でキャリアコンサルタントの近藤菜津紀さん(札幌市在住)は、オンラインで就労の相談を受けている。画面にはかわいがっている文鳥が登場し、相談する人の気持ちを和ませる。近藤さんは中学生の時に慢性疲労症候群に罹患(りかん)したが、診断がついたのは20年後だった。仕事をする上で悩んだ近藤さんは「今、同じように悩んでいる人たちを助けたい」と力を込める。
自身の経験を基に近藤が強調するのは、体調の『可視化』だ。職場では人間関係などのストレスに加え、病気によっては室内の温度や騒音なども影響する。仕事に就いても無理をすると、体調を崩し、休職しなければならないこともある。
近藤さんは「日々の体調を記録することで、可視化してほしい」と言う。
◇助成金の申請募集
ファイザーの助成金は保健・医療・福祉分野での活動や研究に限らず、就労などの社会参加支援活動などの市民活動を対象とする。審査を経た上での助成金額は1件あたり50万~300万円。6月1日から第25回の募集を開始する。(鈴木豊)
(2025/05/26 05:00)
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