こちら診察室 医療チームの一員! ホスピタル・ファシリティドッグ
小児がん治療の現場ですべきこと
~マサの活躍で実感~ 【第9回】国立成育医療研究センター小児がんセンター血液腫瘍科 塩田曜子
病院という大きな建物の中で、私は小児がんの子どもたちと一緒に濃厚な日々を過ごしています。小児がんセンターの日常をご存じない方は「扉の向こうは、とても無機質で冷たい雰囲気なのではないか」と思っているかもしれませんが、そこには長期入院の子どもたちの特別な世界が広がっています。
家族がいない時間も、同じ部屋の友達や看護師たちをはじめ、たくさんの医療者と、まるで大きな一つの家族のように、笑ったり怒ったりしながら子どもたちは日々成長しています。その医療チームの中でも、ファシリティドッグのマサは、とりわけ喜びや安心を与えてくれていると感じています。

国立成育医療研究センターに入院していたタイラー君(中央)と父親のマークさん(右)、タイラー君を担当していた看護師
◇チーム医療、根付いていなかったが
当院(国立成育医療研究センター)の緩和ケアレクチャーで、細谷亮太先生(聖路加国際病院顧問)が先日、米国の「トータルケア」「チーム医療」「多職種連携」といった文化が日本の小児がんの医療現場に取り入れられた歴史を話されました。そして「つらい思いをしている子どもたちや家族に、私たちはつい、いい言葉を掛けようとしがちだが、普段から共に時間を過ごし、寄り添い、話を聞くことが大切なのだ」と強調されました。
こども病院にファシリティドッグを派遣するプログラムの取り組み開始は2008年。認定NPO法人シャイン・オン・キッズの前身である「タイラー基金」は06年発足で、当院で白血病の治療を受け、約2年の生涯を全うしたタイラー君の両親の「小児がんや重い病気と闘う子どもたちとその家族をサポートしたい」という思いから始まりました。
タイラー君の主治医だった熊谷昌明先生は、その活動をずっと支援していましたが、初めて「ファシリティドッグをこども病院に」という話題になった当時、実は「他にまだすべきことがあるだろう」と反対されていたことを覚えています。

検査や処置に立ち会い、子どもの不安に寄り添うファシリティドッグのマサ
この頃の小児がん治療医は現在の3分の1の人数で、主治医と受け持ち看護師によるチームが、患者の治療やケア、家族のサポートについても全て抱え、勤務時間を超えても献身的に寄り添い、悩み、心のつらさは気力で乗り越え、体力勝負といった時代でした。最近では当たり前になった多職種連携や緩和ケアチームといった考え方がまだあまり浸透しておらず、「チーム医療」と言っても今とはだいぶ異なる状況でした。
しかし、熊谷先生は「小児がん患者さんの病棟に心をケアする職種が常にいるべきだ」という考えをお持ちでした。そこで、心理士の派遣をシャイン・オン・キッズに要請し、治療中の子どもたちの「やりたい」をかなえる企画をたくさん生み出してもらいました。12年には、チャイルドライフスペシャリスト※が当院に採用されました。「多職種連携」という言葉になじみのないこの時代を振り返ると、海外からの潮流がさまざまな職種のそれぞれの思いに影響し、足並みをそろえることは簡単ではありませんでした。そして、これが「緩和ケアの第一歩」だったと言えます。
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(2025/03/21 05:00)