現代社会にメス~外科医が識者に問う

医師への苦情が断とつに多い医療相談
患者とのすれ違いはなぜ起きる?

 医療の質と安全を確保して将来にわたって持続可能な医療を実現するには、医療者だけに任せるのでなく患者やその家族も医療の現状や制度を理解し、主体的な医療参加と、積極的に協力していく姿勢が求められる。この課題を解決するには、患者自身が自立し、医療者とのより良いコミュニケーションを構築していく必要がある。患者の視点で活動を続けている「ささえあい医療人権センターCOML」の理事長を務める山口育子さんに医師と患者のすれ違いの原因や賢い医療の関わり方について聞いた。

山口育子氏

山口育子氏

 ◇無料医療相談35年間で7万件超

 河野 COMLではどのような活動をされているのでしょうか?

 山口 COMLは「賢い患者になりましょう」を合い言葉に、1990年9月に活動をスタートさせました。患者さんからの電話医療相談を柱としながら、患者と医療者の橋渡し役として双方がより良いコミュニケーションを築くための活動を続けてきました。同年は日本でもようやくインフォームド・コンセントが始まった年です。患者情報が閉ざされていた時代から、私たち患者は医療を医師任せにするのではなく、自立し主体的な医療への参加が求められるようになり、まさにそれを後押しする形のスタートでした。当時、まだ医療に関する相談窓口が少ない中、COMLでは研修後に実績を積んだ相談員が無料で対応し、35年間で7万件を超える相談が寄せられています。

 ◇根本原因はコミュニケーションギャップ

 河野 どういった相談が多いのでしょうか?

 山口 多くは自分が期待していたように病状が回復せず、治療結果に納得していないという内容です。医師が治療をどんなに頑張っても、病状の進行によっては必ずしも患者の期待に応えられるわけではありません。説明が不十分で、患者の理解不足や思い込みがあり、うまくいかなかった時に「ミスを隠されているのではないか」「医師が非を認めようとしない」といった医師への不信感が募って相談されます。根本的な原因の多くはコミュニケーションギャップによるものです。これは医療者側だけではなく患者側にも問題があり、分かっていないことを分かっていると思い込んで、医師に聞くべき質問をしていなかったことが多いです。

電話相談をしている様子

電話相談をしている様子

 河野 差し支えがなければ、具体的な内容を聞かせてください。

 山口 通常、治療を受ける前に医師から説明を受けますが、「あなたの場合はこの抗がん剤が比較的効くので先に抗がん剤治療を行ってから手術をしましょう」と言われたときの期待値を患者側に聞いてみると、「よく効くと言われれば、がんが100%消える。でも比較的効くなら7〜8割の確率で消える」と期待されることが多いのです。

 実際には、がんが消えるのは抗がん剤では血液がんの一部の分子標的薬ぐらいで、一般的には3割ぐらいの確率でひとまわり小さくなるぐらいでも評価の対象となります。医師は抗がん剤治療でがんを少し小さくし手術をする予定でいたのが、この時点で患者と大きな乖離(かいり)ができ、結果的に信頼関係にほころびが生じます。それを防ぐために、医師が説明した後に患者がどのように理解したかを看護師や研修医が確認することを私は勧めています。期待できる治療効果に共通のイメージを持つことで初めて同じ治療のスタートラインに立つことができるのです。


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