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「死の病」でなくなったエイズ
併発症など依然課題も

 12月1日の世界エイズデーに合わせ、各地でエイズ(後天性免疫不全症候群)に関する啓発を目的としたイベントが開催された。エイズという病気が知られるようになったのは、1980年代だ。当初は「正体不明の、治療法もない恐ろしい病気」とされ、患者やその家族は激しい偏見に苦しんだ。現在は発病メカニズムの解明や治療法の研究などが進んでいるが、延命が成功した患者への支援策や併発する病気への対応、エイズが発症するまで自覚しない患者が一定数残るなど、まだ課題も多い。

 ◇ウイルス抑える治療進歩

世界エイズデーを前に啓発用ポスターを手にする白阪琢磨エイズ予防財団理事長(右)【時事】

 エイズは「HIV」というウイルスに体液や血液などを介して感染し、数年以上の長期の潜伏期間を経て免疫活動が大幅に低下することで発病する病気だ。かつてはエイズを発病すると、健康な人には無害な感染力の弱い細菌やウイルスに感染してしまう「日和見感染症」と呼ばれる一部の肺炎肉腫を起こして死亡する事例が相次いだ。しかし、現在は違う。

 「特にHIVの活動を抑える治療法が大きく進歩した。たとえ免疫力の低下が始まりエイズを発病しかけても、治療によりHIVの増殖を抑制して免疫機能を回復させることも可能になった。日和見感染症に対する治療の進歩も相まって、われわれの医療機関におけるエイズ患者の死亡率は20年前の20%台から3.8%にまで低下した。今では発病しても死を覚悟しなくてもいい病気になった」

 ◇薬剤減少、患者の負担減る

 大阪市内で開催された第32回日本エイズ学会学術集会で、国立病院機構大阪医療センター感染症内科の上平朝子科長は最新治療の成果をこう強調した。HIVの活動を抑制するための薬剤の研究も進み、当初は20剤以上を毎日服用しなければならなかったが、現在では3種類で済む。複数の薬剤成分を合わせた合剤も登場しているので、最少1日2剤の服用でも治療効果が出ているという。

 「90年代から通院して、HIVを抑制できている患者もいる。最初21剤だった薬は現在、副作用に対応するため2剤にまで減らした。しかも、症状は安定している。多剤服用を長期間続けるとどうしても副作用が出てしまうが、薬の種類が減れば、この問題も軽減できる」と、上平科長は患者側のメリットを指摘した。

大阪市で開かれた日本エイズ学会学術集会【時事】

 ◇発症するまで検査受けず

 治療の進歩に比べ、HIV感染者の早期発見・治療に欠かせないサーベイランス(調査監視)にはまだ課題が残っていることも、同学会で報告された。エイズ患者やHIV感染者のサーベイランスを担当している国立感染症研究所感染症疫学センターの砂川富正室長は2017年の調査を基に、HIV感染者とエイズ発症者の合計数が1389人で、数年ぶりに1400人を割り込んだ、と報告した。同時に、エイズを発症するまで検査も治療も受けないでいた患者が全体の30%前後を占めている点を問題視した。

 砂川室長は「抗ウイルス治療は早期に始めた方が効果がある。HIVへの感染を知っていれば、パートナーや周囲への感染を拡大する危険も減らせる。公衆衛生学的にも、できるだけHIV感染直後に患者を発見することが大切だ」と、サーベイランスの重要性を強調した。

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