女性アスリート健康支援委員会 バセドウ病と泳げる喜びと

手術決断し、スイマー人生完泳
幸せ感じた3度目の五輪―星奈津美さん


 ◇日本の競泳女子初の世界選手権優勝

 星さんは手術から半年後には、トップスイマーとして見事に復活した。15年4月の日本選手権の200メートルバタフライで優勝し、6連覇を達成。8月にはロシア・カザンで開かれた世界選手権に出場し、後半に追い上げる得意のレース運びで、150メートルをターンしてから先行する2人の選手をかわし、2分5秒56で初優勝した。

 日本の競泳女子選手では世界選手権史上初めての金メダル。リオデジャネイロ五輪の代表にも早々と内定した。「手術を経て、日本代表に戻ることすら厳しいと思っていた。よくここまで来ることができたなと思います」。晴れやかな笑顔を見せた。

 

 リオデジャネイロ五輪200メートルバタフライ決勝で銅メダルを獲得した星奈津美さんの力泳(時事)
 競技人生の集大成となるリオデジャネイロ五輪は16年8月に開幕した。世界女王になってから五輪までの道のりもまた、平たんではなかった。自己ベストを更新して2分3秒台を目指そうと、前半から攻めの泳ぎをするペース配分の改造にも取り組んだが、結果が伴わずに試行錯誤が続いた。「手術した年とはまた違って、本当に苦しかった」と振り返る1年を経て、ようやく泳ぎの調子を上げ、体調は万全の状態だった。

 ◇連続の銅「病気もむしろプラス」

 順当に200メートルバタフライの決勝に進み、スタート台に立った25歳のスイマーは、幸せを感じていた。「結果はもちろん大事で、メダルを取るという明確な目標もあったんですが、この大舞台に立てた幸せをかみしめながら、持っている力を全て、1ミリも余らさずに出し切りたいという気持ちだけで、決勝のレースを泳いでいましたね」と話す。

 序盤からミレイア・ベルモンテガルシア選手(スペイン)とマデリン・グローブス選手(オーストラリア)についていく積極的な泳ぎを見せた。100メートルを体半分ほどの差で折り返すと、得意の後半に追い上げたが、届かなかった。タイムは2分5秒20。金メダルまで0秒35、銀メダルまで0秒32の差。だが、確かに全てを出し切った実感とともに、つかんだ2大会連続の銅メダルだった。

 リオデジャネイロ五輪の表彰式で笑顔を見せる星奈津美さん。「病気の経験をばねに、いろいろなことを乗り越える力を得ることもできました」(AFP=時事)
 星さんは今、「バセドウ病がマイナスの出来事だったとは捉えていない」と言い切る。「信頼できるドクターがいて、コーチも競技生活のために協力してくれた。何より家族のサポートが大きかった。もちろんバセドウ病の症状は人それぞれで、苦しんでいる方もいるでしょうが、私は病気の経験をばねに、いろいろなことを乗り越える力を得ることもできた。自分の中ではむしろ、プラスに捉えられるくらいですね」

 試練を乗り越えた星さんの競技人生は、同じ病気を持つアスリートはもちろん、多くの人たちに勇気を与えている。(水口郁雄)


◇星奈津美さんプロフィルなど

◇インターハイ優勝後、突然の発症(バセドウ病と泳げる喜びと・上)

◇2度目の五輪でつかんだ銅(バセドウ病と泳げる喜びと・中)




  • 1
  • 2

女性アスリート健康支援委員会 バセドウ病と泳げる喜びと