「医」の最前線 緩和ケアが延ばす命

末期がんの終末期-緩和ケア〔7〕
苦しいのは痛みと限らない

 ◇最終末期に鎮静薬

 これらを踏まえてインターネットでよく見る、先の言葉を考えてみたいと思います。

 「モルヒネを増やしても効かなくてかわいそうだった」-。もしかしたら、身の置き所のなさが中心で痛みは感じていなかったのかもしれません。このようなせん妄による身の置き所のなさに関しては、鎮静薬を用いて対処します。

鎮静剤は写真のような点滴で必要時に使用する場合もあれば、皮下や静脈への持続点滴(あるいは持続注射)で行う場合もあります(イメージ)

 逆に鎮痛薬であるモルヒネ等の医療用麻薬は、意識を低下させる作用はそれほど強くありません。鎮静薬を使わないと取れない苦痛が、人の最終末期には起こる可能性があるのです。

 「モルヒネを増やしたら意識が低下して亡くなった」という、先に紹介したネット投稿はどうでしょうか。

 本来、モルヒネなどの医療用麻薬は「鎮痛薬」なので、がん自体による痛みがあって、基本的な痛み止めであるアセトアミノフェンやロキソプロフェンなどでは抑えきれない場合に、末期に限らず使うべき薬です。

 ◇何重もの誤解

 終末期になって初めて最終兵器のように使うものではないのですが、「意識が低下して亡くなった」と記されるエピソードは、モルヒネが最後の最後に登場している例が散見されます。モルヒネについて患者とその家族だけでなく医療者にさえ、「意識を低下させる」「呼吸を弱めて死を早める」という認識があって、終末期まで使用を控えている可能性も考えられます。

 特にモルヒネなどの医療用麻薬を使わずとも、終末期には意識が低下します。それでも、「モルヒネが始まった、その後亡くなった」という事態を、正しい説明が不足している中で体験すれば、「モルヒネで亡くなった」と思っても不思議ではありません。

 残念ながら、まだまだ人の死に関する情報は行き届いておらず、それがゆえに「末期がんの最後の症状がモルヒネで抑えられる」「ただしそれは意識を低下させ、命と引き換えになる」など、何重にも誤解されてしまっているのです。

大切なのは医療者との十分なコミュニケーション(イメージ)

 ◇疑問があれば口に出す

 このような誤解を解くにはどうしたらいいのでしょう。大切なことは、がんの終末期ケアに習熟している医師や看護師などの医療者に関わってもらうことです。

 また疑問を口に出さないでいると、間違った認識で理解してしまうのはむしろ当然です。人が亡くなってゆくさまは、分からないのが当然ですし、経験していても各人ごとに経過は違います。誰もが同じに亡くなってゆくわけではなく、だからこそ医療者とよくコミュニケーションを図って、知ることが大切です。

 終末期には痛み以外の症状が問題になることも多く、しっかりとした緩和ケアが必要になります。その時のために、利用でき該当する医療資源についてもよく知っておくことが重要なのです。(緩和医療医・大津秀一)

大津 秀一氏(おおつ・しゅういち)
 早期緩和ケア大津秀一クリニック院長。茨城県出身。岐阜大学医学部卒。緩和医療医。京都市の病院ホスピスに勤務した後、2008年から東京都世田谷区の往診クリニック(在宅療養支援診療所)で緩和医療、終末期医療を実践。東邦大学医療センター大森病院緩和ケアセンター長を経て、遠隔診療を導入した日本最初の早期からの緩和ケア専業外来クリニックを18年8月開業。
 『死ぬときに後悔すること25』(新潮文庫)『死ぬときに人はどうなる 10の質問』(光文社文庫)など著書多数

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