「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~

夏に新型コロナが流行する理由 (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授)【第64回】

 新型コロナウイルスの感染者数は今年5月以降増加を続けており、6月末の時点で第9波が始まったとの見方もされています。現在、世界的には感染者数が増えている国は少なく、日本の流行状況は世界でもまれなものと言えるでしょう。特に、日本では過去2シーズンにわたり、飛沫(ひまつ)感染が拡大しにくい夏の流行が起きています。今回の第9波が夏の流行になれば、それは日本の気候や習慣といった特殊事情が関係しているように思います。今回は、日本で夏にコロナ流行が起こる理由について解説します。

梅雨時は雨を避けて屋内で過ごす人が増え、「密」になりやすい

  ◇6月末の新規患者数

 6月30日、厚生労働省は新型コロナの国内流行状況を発表しました。これは定点医療機関を受診する新規患者数に基づくもので、定点当たりの1週間の報告数は日本全国で6.13人でした。この数は定点報告を始めた5月19日の2.63人に比べると2倍以上で、厚生労働省は「緩やかに増加している」というコメントを出しています。

 報告数を都道府県別に見ると、沖縄県で39.48人、鹿児島県で11.71人と南日本で増えており、特に、沖縄県では医療の逼迫(ひっぱく)が起きるレベルになっています。この南日本での増加が日本全国に波及すると、それが第9波、すなわち夏の流行になる可能性があるわけです。

 現在の日本全国の緩やかな新規患者数増加は、5類移行に伴う感染対策の緩和によるところが大きいようですが、南日本での顕著な増加には別の理由があると思います。

 ◇少ない感染増加国

 このコラムでも何回か書いていますが、飛沫感染する呼吸器感染症は一般に夏は流行しにくいとされます。これはウイルス側よりもヒト側の要因で、夏は屋外で活動する時間が長いため、屋内活動が多い冬よりも人が密にならないからです。

 それにもかかわらず、日本では2021年、22年と過去2シーズンにわたり、夏に大きな流行が起きました。これは感染力の強い変異株が国内に入ってきた影響が大きく、それが21年はデルタ株、22年はオミクロン株BA5でした。

 それでは、現時点の世界的な変異株の流行状況はどうなっているか。6月末のWHOの報告を見ると、オミクロン株のXBB系統(1.16、1.5、1.9.1など)が主流ですが、いずれも免疫回避はしやすいものの、感染力の強い変異株ではありません。このため、現時点で感染者数が急増している国は、ほとんどありません。

 つまり、現在、南日本で見られている感染者数の増加は、世界でもまれな現象であり、このまま日本全国が夏の流行になれば、その原因には特殊な事情があるように思います。

 ◇梅雨時は「密」になりやすく

 この特殊な事情の一つとして考えられるのが日本の夏の気候です。

 日本では夏前に梅雨の季節があり、その終了とともに真夏になります。梅雨は東アジアに特徴的な気象現象で、特に、近年はこの時期の降水量が大変多くなっています。

 梅雨は日本の雨期と言えますが、雨期と乾期の二つの季節しかない熱帯地方では、飛沫感染が雨期に多く見られます。雨期は屋内で過ごすことが多く、人の間隔が密になりやすいためです。日本でも梅雨の時期は屋内で過ごす時間が長く、それだけ飛沫感染が起こりやすくなります。今年6月の国内の降水量を見ても、沖縄県や鹿児島県は400mm以上と、他の自治体よりも多くなっていました。つまり、これらの地域で6月は屋内で過ごす時間が長く、それが新型コロナの流行に火を付けたのではないでしょうか。

 そして、梅雨明けとともに日本では真夏になります。この暑さも最近はかなり厳しく、雨は上がっても冷房の利いた屋内で過ごす時間がさらに続きます。このため、梅雨の季節に始まった新型コロナの流行が夏の季節を通じて拡大することになるのです。

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