「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~

夏に新型コロナが流行する理由 (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授)【第64回】

故郷などからのUターンラッシュで混雑する東京駅(2019年5月)。今年の夏は同様の光景が見られそうだ

故郷などからのUターンラッシュで混雑する東京駅(2019年5月)。今年の夏は同様の光景が見られそうだ

  ◇お盆に人の移動・接触増える

 もう一つ、日本の夏の特殊事情と言えるのが、お盆という習慣です。

 お盆は祖霊信仰と仏教が融合した日本の夏の宗教行事で、この時期に多くの人は夏休みを取って里帰りをします。家族や親戚が集まり、食事をする機会も増えます。また、この時期には会社が休みになることが多いので、旅行をする人も増加します。この結果、8月中旬のお盆の時期は、人の移動や接触の機会が増して、新型コロナの流行が拡大しやすい環境になるのです。

 欧米諸国の人々も夏休みを取りますが、日本のお盆休みのように期間が限定されておらず、できるだけ人ごみから離れるような行動を取ります。家族や親戚が集まることもクリスマスなどにはしますが、夏の暑い時期にはしません。

 このように、梅雨の時期に発生した新型コロナの流行が、夏の暑い気候の中で拡大し、それがお盆の時期に増幅される。そんな特殊事情により、日本では夏も新型コロナの流行が起きるのではないでしょうか。

 ◇なぜインフルエンザは流行しないのか

 こうした特殊事情が日本にあるのなら、インフルエンザの流行が夏に起きても不思議ではありません。しかし、インフルエンザウイルスは古くから流行している病原体で、私たちは一定の基礎免疫を持っているため、飛沫感染の起こりにくい夏に流行することはないのです。

 その一方で、新型コロナウイルスは3年前から流行した新しい病原体で、日本でもワクチンによる免疫を持っている人は増えましたが、感染による免疫を持っている人は、最近の調査でも5割以下という状況です。欧米諸国ではこの数値が7割以上なので、この数値が低いことも日本の特殊事情になるでしょう。こうした基礎免疫が高まってくれば、今後、日本で夏に流行することはなくなると思います。

 ◇今夏も予防対策を

 このように、今年も日本では夏の新型コロナの流行が起きる可能性は大きいようです。夏休みを楽しむ行動を控える必要はありませんが、予防対策は引き続き取ってください。例えば、冷房している屋内では換気を頻繁に行い、密になる場面ではマスクを着用しましょう。また、体調が悪い場合は、食事会や旅行をキャンセルし、自宅などで療養することも大切です。さらに高齢者などのハイリスク者は、ワクチンの追加接種を受けておきましょう。

 今年の夏は新型コロナの流行が始まってから4回目の夏になります。この病気が日本で夏に流行する特殊事情をご理解いただいた上で、効率的な予防対策を取りながら楽しんでください。(了)

濱田特任教授

濱田特任教授


 濱田 篤郎(はまだ・あつお)氏
 東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授。1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大学で熱帯医学教室講師を経て、2004年に海外勤務健康管理センターの所長代理。10年7月より東京医科大学病院渡航者医療センター教授。21年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。

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