分娩時損傷〔ぶんべんじそんしょう〕

■軟部組織の損傷
□産瘤
 産道通過の際に先に進んでいく部分のむくみを産瘤(さんりゅう)といい、正常のお産では頭にできます。2~3日で消えます。

□頭血腫
 頭蓋骨は複数の骨が集まってできています。それぞれの骨は骨膜に包まれ、骨と骨膜との間に出血して血液がたまった状態を頭血腫といいます。生まれた直後にはなく、半日から1日してあらわれ、数日のうちにさらに大きくなります。1つの骨に限局して、さわるとブヨブヨしています。針を刺して血を抜くことは、かえって細菌感染を招くおそれがあるので、自然に吸収されるのを待ちます。2~3週間で自然に消失しますが、大きいものは吸収が遅れ、1カ月くらいからかたくなりますが、数カ月を要して消失します。

□帽状腱膜下出血
 皮膚の下にある帽状腱膜(ぼうじょうけんまく)という組織と頭蓋骨骨膜との間の出血で、出血が頭部全体に及び、高度の貧血や黄疸(おうだん)を伴うことがあります。


■末梢神経の損傷
□腕神経叢まひ
 腕を動かす神経は、くびのところで脊髄から出て腕に伸びていきます。骨盤位分娩(ぶんべん)や巨大児の分娩で、くびの片側が強く伸ばされたり圧迫されたりして神経が損傷し、片側の腕が動かせない状態が腕神経叢(そう)まひです(参照:腕神経叢損傷)。上腕型(腕は動かせないが手の関節、指は動く)と前腕型(腕は動くが手指は動かない)があり、上腕型は横隔神経まひを合併することがありますが、前腕型より治りやすいようです。
□横隔神経まひ
 横隔膜の運動を支配する神経も、くびのところで脊髄から出ているので、まひを起こすことがあります。
 呼吸運動は、横隔膜が上下することによっておこなわれています。横隔膜の運動がなくなり呼吸運動が制限されるため、呼吸が苦しくなります。酸素を吸わせたり、人工呼吸器を装着しなければならないこともあります。3~4カ月たっても治らないときは、手術も考慮します(横隔膜を縫い合わせて、上がらないようにする)。
□顔面神経まひ
 お産のときにほおを強く圧迫されたり、鉗子分娩(かんしぶんべん)の際に起こります。顔の筋肉を支配する神経のまひで、泣いたときに症状がよりあきらかになります(参照:顔面神経まひ)。
 障害された側の目は完全に閉じず、口角(くちびるの端)が下がります。多くは1~2週で自然に治ります。

(執筆・監修:自治医科大学 名誉教授/茨城福祉医療センター 小児科 部長 市橋 光
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