腸管出血性大腸菌感染症(O-157感染症など)〔ちょうかんしゅっけつせいだいちょうきんかんせんしょう(おーいちごななかんせんしょうなど)〕

 腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic Escherichia coli:EHEC)感染症の原因菌は、ベロ毒素(Verotoxin=VT、またはShigatoxin=Stx と呼ばれている)という毒素を産生する大腸菌です。大腸菌の菌体抗原であるO抗原を用いた分類では、O157、O111、O028などの血清型が、ベロ毒素を産生する腸管出血性大腸として知られています。
 歴史的には、1982年に米国でハンバーガーを原因とする出血性大腸炎が集団発生した事例において、大腸菌O157が下痢の原因菌として分離されたのが最初で。その後北米、欧州、オーストラリアなどでも集団発生が相次いで発生しています。わが国では、1990年埼玉県浦和市の幼稚園における井戸水を原因としたO157集団発生事例、1996年の大阪府堺市での5000人以上の集団発生事例が有名で、その後も散発例、食中毒による集団事例が毎年のように報告されています。
 感染経路は汚染された食物などの経口摂取が主体ですが、少ない菌量でも発症することから、手指などを介した人から人への二次感染も問題となります。
 多くの場合、3~5日の潜伏期をおいて、激しい腹痛を伴う頻繁な水様便のあとに、血便となります(出血性大腸炎)。発熱は軽度の場合が多いようです。有症者の6~7%において、下痢などの初発症状発現の数日から2週間以内に、溶血性尿毒症症候群(Hemolytic Uremic Syndrome:HUS)、または脳症などの重症な合併症が発症することがあるので注意が必要です。HUSは貧血、血小板減少、腎機能障害を特徴とする疾患で、発症した患者の致死率は1~5%とされています。
 治療は輸液や抗菌薬・生菌薬の投与が中心となりますが、抗菌薬の投与に関しては賛否両論があります。HUSを合併し、腎不全が進行すれば、人工透析もおこなわれます。

(執筆・監修:熊本大学大学院生命科学研究部 客員教授/東京医科大学微生物学分野 兼任教授 岩田 敏)
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