こちら診察室 介護の「今」
トイレ自立の妙案 第44回
「老いても子どもの世話にはなりたくない」と82歳の女性は思い続けている。「ましてや、下の世話を子どもにしてもらうくらいなら、死んだ方がまし」と考えている。
「自宅のトイレならはって行ける」と女性は思った
◇骨折
そんな女性が、貧血を起こして自宅の玄関先で転倒。左大腿骨頸部(けいぶ)を骨折した。太ももの骨の股関節の部分が折れてしまう骨折だ。手術後に目を覚ますと、病院のベッドに寝かされていた。そして、下腹部には何とおむつが。
おむつからは、管が伸びている。
看護師の説明によれば、ぼうこう留置カテーテルの管だという。菅は、尿をためるバッグにつながり、ベッドの柵に掛けられている。
◇おむつが外れない
「こんな状態では、家に帰れない」と悲嘆する女性に、看護師は「骨折が治れば、管もおむつも外せますよ」と言った。
しばらくすると、菅は抜かれた。一方、おむつはされたままだった。
女性は「おむつも外してほしい」と嘆願した。看護師は「歩けるようになったらね。それまで、少し我慢しましょう」と返した。
◇転院
女性は、一日でも早く歩けるようになるために、リハビリに集中できる回復期リハビリテーション病院に転院することになった。同病院では、疾患や重症度によって入院日数の上限が決められていて、大腿骨、骨盤、脊椎、股関節、膝関節の骨折の場合は最大90日だ。
「3カ月したら歩けるようになっておむつが外せるかしら」
女性は、不安を抱えながら懸命にリハビリに励もうとした。だが、骨そしょう症がそれなりに進んでいて、あまり負荷が掛かるリハビリができない。立ち上がり、歩くまでには、なかなか至らなかった。
◇おむつが外れない
回復期リハビリテーション病院に転院して1カ月がすぎ、2カ月がすぎても、立ち上がってトイレに行くことはかなわず、おむつが外せない。
女性は見舞いに来た知人に、「年だからねえ」と嘆いてみせ、「まあ、気長にやるわ」と続けてもみた。しかし、言葉とは裏腹に大いに焦っていた。入院できるのは、あと半月。退院したら、家に帰ることになっている。
もちろん家には帰りたい。でも、このままでは帰りたくない。女性は、困り果てたのだった。
◇退院に向けて
退院まで残り10日となった頃、ケアマネジャーなる女性が病院にやって来た。娘が手配したらしい。何でも、退院後の生活の困り事の相談に乗ってくれるという。
自宅には、娘の家族が同居している。とはいえ、数店舗の飲食チェーンを経営しているため、娘夫婦は忙しい。
夫は本店の店長兼経営者。娘は経理全般を取り仕切っていて、親の介護に費やす時間はない。
「だから、親の面倒を他人に見させようという魂胆なのね。だからケアマネジャーをよこしたんだわ」と女性は思った。
- 1
- 2
(2024/12/10 05:00)