国の天然記念物「奈良のシカ」の保護活動に取り組む「奈良の鹿愛護会」で「十分な餌を与えないなどの虐待行為があった」とする内部通報を巡り、奈良市保健所は24日、「雄ジカのうち約2割が痩せており改善すべき点はあるが、虐待には当たらず刑事告発は行わない」とする報告書を公表、同会に行政指導した。
 市保健所は同会に所属する獣医師の通報を受け、10月から立ち入り調査を計6回実施。同会が運営する保護施設「鹿苑」のうち、農作物などに被害を与えたシカを無期限に収容する「特別柵」の状況を調べた。
 調査チームは、24日現在で雄124頭が収容されている特別柵について、動物愛護法が定める虐待の判断基準のうち「栄養不良の個体が見られ、給餌および給水が一定頻度で行われていない」とする項目に抵触する可能性があるとして、行政指導した。一方で餌の変更や追加などの改善策が講じられているとして虐待には当たらないと判断した。
 仲川げん市長は記者会見で、「不適切な管理が一部で散見された。現場の職員と意見交換をしながらサポートしていきたい」と話した。同席した日本獣医生命科学大の田中亜紀特任教授(動物福祉)は「特別柵の収容定数を定めずに、過密状態になっているのが問題だ」と指摘した。
 鹿苑を所有する県も6日、「収容環境が不適切だった」とする報告書を公表。特別柵の在り方について検討を進め、1年後をめどに方針を示すとしている。 (C)時事通信社