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アルツハイマー病(AD)のサイトカインによる神経再生治療の症例報告 -症例から示唆されるADの進行と腸内細菌叢の関連-

シンバイオシス・ソリューションズ株式会社
国際学術誌『Biomedical Journal of Scientific & Technical Research』に掲載

シンバイオシス・ソリューションズ株式会社(以下、当社)は、腸内細菌叢と疾病の関連性に関する研究と、腸内細菌叢の制御による疾病の予防・改善方法に関する研究・開発に取り組んでいます。このたび、当社とお茶の水健康長寿クリニックの共同研究の成果であるアルツハイマー病に対するサイトカインによる神経再生治療の症例と腸内細菌叢の関連についての論文が国際学術誌『Biomedical Journal of Scientific & Technical Research』(2023年7月26日付)に掲載されました。 当社とお茶の水健康長寿クリニックを含む共同研究グループでは、先行してMCIに関連する腸内細菌叢の異常(dysbiosis)について研究を行い、成果を論文として報告しております(Biomedicines 2023, 11, 1789)。今回の症例についての報告は、この先行研究の成果を活用したものとなります。本論文の治療症例は、AD治療に光明をもたらすとともに、腸内細菌叢の状態がADの進行に影響を及ぼすことを示唆するものといえます。


【研究概要】


アルツハイマー病(AD)は進行性の神経変性疾患であり、根治的な治療法は未だ確立されていません。お茶の水健康長寿クリニックでは、APOE ε4/ε4対立遺伝子※1を持つ70代の女性AD患者に対し、残存する神経幹細胞を再生させるためにサイトカイン※2による神経再生治療を行いました。その結果、萎縮した海馬の再生が観察され、認知機能の改善につながりました。また、当社と共同で患者の腸内細菌叢※3の解析を行ったところ、本症例の患者の腸内細菌叢に軽度認知障害(MCI)患者特有の腸内細菌叢異常がある程度認められましたが(図1)、他のMCI患者よりも軽度であることが判明し、それがAD病態の進行を抑制した可能性があることが明らかとなりました。

【背景】


AD治療として神経再生アプローチは広く研究されていますが、まだ前臨床試験の初期段階にあり、関連する治療法の症例報告は重要な情報となります。

これまでに当社と共同研究を行っているお茶の水健康長寿クリニックの白澤博士によって、特定のサイトカインの組み合わせの投与が、ADおよび前頭側頭型認知症(FTD)患者の萎縮した海馬の再生につながることが世界で初めて示されました。さらに、APOE ε4/ε4対立遺伝子を持つAD患者において、サイトカイン誘発性の神経新生により認知機能低下の改善が可能なことも白澤博士によって報告されています。

これまでに当社とお茶の水健康長寿クリニックを含む共同研究グループは、軽度認知障害(mild cognitive impairment, MCI)に腸内細菌叢の異常(dysbiosis)が関連することを報告しました。ADは進行性の神経変性疾患であり、多くの場合、MCIの段階を経て認知症に至ります。そのため、MCIを経たADの進行にも腸内細菌叢が関連する可能性が考えられました。
そこで本症例報告では、AD患者に対してサイトカインによる神経再生治療を行うだけではなく、腸内細菌叢の解析も行い、ADの進行と腸内細菌叢の関連についての知見を得ることも目的としました。

【研究手法と成果】


軽度の記憶機能障害を発症した本症例の70代女性AD患者では、APOE ε4/ε4対立遺伝子(ADの最も強力な遺伝的危険因子)を有するにもかかわらず、同年代の典型的なAD症例に比べて症状が軽い傾向がありました。この患者に対して、サイトカインによる神経再生治療を行った結果、萎縮した海馬の再生が観察され、認知機能の改善などが認められました(図2)。

本症例の患者の腸内細菌叢を解析したところ、MCIに特徴的な腸内細菌叢の異常(dysbiosis)が観察されましたが、その程度は他のMCI患者よりも軽度でした(図1)。このような腸内細菌叢の状態により、ADの進行が抑制され、結果としてMCI症状が軽くなった可能性があります。

【今後の展望】


サイトカインによる神経再生治療は、根治的な治療法が未だ確立されていないAD治療に光明をもたらすことが期待されます。また、本症例からは腸内細菌叢の状態がADの進行に影響を及ぼすことが示唆されたことから、今後のADの予防および治療においては、腸内細菌叢の改善を図るためのアプローチが重要となる可能性があります。

【用語説明】


※1 APOE ε4/ε4対立遺伝子
アポリポタンパクE(apolipoprotein E:APOE)遺伝子には、ε2、ε3、ε4の3つのアイソフォームがあり、ε4アレルをもたないものと比較してε4アレルを1つもつものはADの発症のリスクが2~3倍、ε4アレルを2つもつものは発症のリスクが12倍といわれている。

※2 サイトカイン
細胞から放出され、特定の細胞に働きかけるタンパク質の総称。

※3 腸内細菌叢
ヒトの腸内には1,000種以上、10~100兆個程度の腸内細菌が共生しており、重さにして約1.5 kgと考えられている。腸内細菌はそれぞれテリトリーをもって生息しており、その全体を「腸内細菌叢」と呼んでいる。

※4 β多様性
2つのサンプル間の多様性の相違度を表す。

※5 MMSE (Mini-Mental State Examination)
認知機能の点数化により客観的に認知機能レベルを検査する方法。

※6 Cognitrax(コグニトラックス)
コンピューターを用いてWeb上で検査可能な認知機能検査サービス。記憶力・注意力・処理速度・実行機能など広範囲の機能領域を測定でき、結果は数値化される。

【研究グループ】


お茶の水健康長寿クリニック
院長 白澤 卓二

シンバイオシス・ソリューションズ株式会社
代表取締役社長 増山 博昭
研究開発本部 畑山 耕太

Livant Neurorecovery Center(メキシコ)
Dr. Luis Carlos Aguilar Cobos

【原論文情報】


Takuji Shirasawa, Kouta Hatayama, Hiroaki Masuyama, Luis Carlos Aguilar Cobos. Cytokine-induced Neurogenesis and Gut Microbiota in Alzheimer’s Disease. Biomedical Journal of Scientific & Technical Research 2023, 51(5), 43080-43088.
https://biomedres.us/pdfs/BJSTR.MS.ID.008159.pdf

【研究内容に関する問合せ先】


シンバイオシス・ソリューションズ株式会社
研究開発本部 畑山 耕太
research(at)symbiosis-solutions.co.jp
※ (at) は@に置き換えてご連絡ください。

【取材に関する問合せ先】


シンバイオシス・ソリューションズ株式会社
広報担当
info(at)symbiosis-solutions.co.jp
※ (at) は@に置き換えてご連絡ください。

【企業概要】


当社は、腸内細菌叢から疾病リスク等を分析・評価する腸内細菌叢の検査・分析サービス(『SYMGRAM』、『健腸ナビ』他)の開発・運営および医薬・食品メーカー等と連携して腸内細菌叢の制御による疾病の予防・改善のための機能性食品の研究・開発などを行うヘルステック・バイオベンチャーです。

・会社名:シンバイオシス・ソリューションズ株式会社
・本社:東京都千代田区神田猿楽町2-8-11 VORT水道橋III 3F
・研究所:埼玉県和光市南2-3-13和光理研インキュベーションプラザ内
・設立:2018年4月※一般社団法人日本農業フロンティア開発機構と国立研究開発法人理化学研究所(旧辨野特別研究室)による研究成果を事業化する目的で設立
・資本金:17億5,797万円(資本準備金を含む:2023年6月現在)
・URL:
【コーポレートサイト】https://www.symbiosis-solutions.co.jp/
【SYMGRAMサイト】https://symgram.symbiosis-solutions.co.jp/
【健腸ナビサイト】https://kenchonavi.com/
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