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【最終レポート】広島発「介護×働き方改革×DX」実証研究プロジェクト

医療法人社団明和会
ICTデータの活用は介護職員の働きがい向上、生産性向上につながるのか

ICT見守り機器の導入が介護職員の業務負担軽減に影響することはすでに実証されています。では、働きがいや生産性の向上には影響するのでしょうか?私たちはその疑問を解決するため実証研究を開始しました。 研究の結果、ICT見守り機器の導入は導入準備(リスキリングの機会)、データを活用するコミュニケーションの場づくり、業務改善の実施を条件に職員の働きがいや生産性向上に影響することが明らかになりました。



●参加法人、企業
医療法人社団明和会(広島県廿日市市、会長:久保隆政、理事長:曽根喬)
https://www.onoura.or.jp/
株式会社ZIPCARE(東京都千代田区、代表取締役:桑原弘明)
https://zipcare.co.jp
一般社団法人働き方改革実現ネットワーク広島(広島市南区、代表理事:藤原輝)
https://hatarakikata-net-hiroshima.or.jp

●検証の目的
ICT見守り機器の導入が介護職員の業務負担軽減や業務効率化だけでなく、働きがい向上にもつながることを科学的に実証する。

●検証内容
1.検証期間
2022年6月1日~2023年8月31日
2.検証場所
医療法人社団明和会 サービス付き高齢者向け住宅 さくらす大野
入居者数 43名
職員数(常勤換算) 9.2名(配置人数:施設長1名、介護士6.2名、看護師2名)
3.使用ICT機器
まもる~のStation
・ベッド上の脈拍・呼吸・体動、睡眠の情報
・室温、湿度、照度を把握 
・離床、ドアの開閉、トイレの開閉、椅子の着座をセンサーでキャッチ
・スマートフォンで複数の居室状況を管理
4.検証項目
1)利用者のQOL
睡眠状況、生活の様子などをICT導入前後で比較
2)職場のコミュニケーション
職員間のコミュニケーションに関するアンケート調査結果をICT導入前後で比較
3)職員の働きがい
職員の働きがい関するアンケート調査結果をICT導入前後で比較

●方法
1.フェーズ1:導入の準備をする(2022年6月~)
1)説明会
プロジェクト内容、ICT見守り機器の説明
2)研修
看護師による老齢期の睡眠特徴について
木谷教授によるリスキリングについて
2.フェーズ2:データに慣れる(2022年9月~)
1)グループワークの実施
1.目標
・データをよむことができる
・データを考察し援助計画に活かすことができる
・デジタル人材(中堅職員) 、アナログ人材(ベテラン職員)の交流機会が増える
2.方法
・データをよむ練習:少人数のグループワークを実施
・データを考察し、援助計画をつくる:デジタル人材(中堅職員)とアナログ人材(ベテラン職員)でペアを組みグループワークを実施

3.フェーズ3:データを活用する、業務を見直す(2023年3月~)
1)カンファレンスの実施
カンファレンス:看護師・介護士などが集まり、情報共有、認識のすり合わせ、問題の発見と改善策を話し合う。
1.目標
入居者がより良い生活を送るためのケアについて職員同士が情報共有、意見交換ができる。
2.方法
ICFシート(当法人作成)とICT見守り機器から得られるデータを使用しケアプランを立案、再評価を実施する。   
当日勤務の職員が参加、週1回日勤帯30分実施。
2)業務整理
1.業務量調査を実施、課題分析
2.業務内容の標準化、マニュアル化

●結果
1.利用者のQOL
1)事例紹介
80代、認知症あり。認知症高齢者日常生活自立度IIb、障害高齢者日常生活自立度A1。入居当初、
デイサービスが休みの日は落ち着かない。汚れたままの衣類をタンスにしまってしまう。眠れないと訴えるが、実際の自室内での生活の様子、生活リズムは不明。
1.データからの情報
就寝、起床のリズムは一定。19時過ぎに電気もテレビも消灯。夜間のトイレ回数は1回程度でよく眠れている。
デイサービスが休みの日は、昼間ベッド上で過ごし寝ていることがある。その後行動が落ちつかないことが多い。
2.カンファレンスを通しての課題解決
目標)日中の活動性の増加、自立した生活を支援する。
取組)デイサービスの利用日数を増やす。不眠の訴えはデータをもとに訴えを傾聴、眠剤は使用しない。洗濯は洗濯機の操作のみ支援し、干す、畳む家事を自立できるよう援助する。
3.結果(図1)
入居当初(3月)は火曜、木曜、日曜は日中もベッド上の生活であったが、2.の取組実施後(5月)には日曜日を除き日中は離床し、夜中から朝方も1度トイレに行く以外はよく眠れている。日中洗濯を自立して行うことで、汚れた衣類と洗濯後の衣類を混在させることはなくなった。

2.職員の働きがい
1)職場のコミュニケーションについて
表1にあるように職員同士のコミュニケーションの改善を認めた。ICT見守り機器から得られるデータをもとに、グループワーク、カンファレンスを実施していくことで職員間のコミュニケーションが活発になった。個で実施する業務からチームで実施する業務に変化していると考えられる。


2)職員の仕事に対するモチベーションについて
表2にあるように、職員のモチベーションは向上しているが、意味のある仕事(Q-SD201)については変化を認めなかった。その項目内の「仕事の誇り」では、表3にあるように中堅職員(40代)は向上、ベテラン職員(60代)は低下していた。職場での様子や個別面談の結果から、導入前は中堅職員はベテラン職員に対して介護の経験が浅いため自己肯定感が低く、言動も控えめで積極的な発言や提案が少なかった。しかし導入後、中堅職員はデジタル操作に慣れているという強みを活かしデータを介護に活用することで、問題意識が高まり提案やチャレンジ行動が増えたと考えられる。一方ベテラン職員は経験値で力を発揮していたが、経験値の部分をデータ化してしまうため自身の優位性が落ちたとも考えられる。今後はそれぞれの得意分野を活かした管理者によるマネジメントが必要である。


3)職員の働きがいについて
ハックマン・オルダムの「職務特性モデル(Job Characteristics Model)」において提唱されている計算式を用いて評価した。図2にある通り、導入前と比較すると80ポイント向上した。特に自律性、フィードバックの向上を認めた。
ICT見守り機器のデータを活用するための準備であるリスキリングの場づくり(フェーズ1、2)、実際にデータを活用するカンファレンスの実施(フェーズ3)により、介護職員自身のスキルを活かすことにつながった。これは介護職員自身で計画を立て目標達成できるというやりがいを感じる自律性の向上につながったと考えられる。また、カンファレンスを通して職員同士が成果を共有できることはフィードバックの機会を増やすことにつながった。

3.業務量の変化
当初はICT見守り機器導入と業務整理により直接業務の増加を予測していたが、図3-1,2,3にあるように直接業務は減少した。ICT見守り機器導入により、入居者の行動に合わせたタイミングのよいケアが可能になったことが影響。例えば排泄介助では、入居者が起きて離床するとICT機器が反応するため、そのタイミングで介助に入ることができる。ICT見守り機器導入前は、介護士が排泄の時間に声をかけるが入居者が拒否し後で介助に入るなど無駄になる時間があった。ICT見守り機器導入により効率的なケアの実施が可能となり、生産性の向上につながったと考えられる。
間接業務では、十分に実施できていなかった職員間の報告やカンファレンス、事務業務、居室外の環境整備などを実施できるようになった。業務量調査実施後に課題を分析した結果、マニュアル化されていない内容が多く属人化していることも明らかになった。そこで、業務内容の標準化、マニュアル化を実施した。
なお、時間外業務は職員一人当たり導入前1か月平均66分、最終評価1か月平均67分と少ない。

●まとめ
ICT見守り機器の活用は、職員の働きがいの向上を認めた。また無駄の少ない直接的な介護業務を実施するという点で生産性向上に影響したと考えられる。ICT見守り機器を効果的に活用するためには、導入準備(リスキリングの機会)、データを活用するコミュニケーションの場づくり、業務改善の実施が必要な条件であることが明らかになった。
現在、働きがい向上により職員から入居者へのケアの質を上げるための意見提案が増えるなど変化が出てきており生産性向上に向けた付加価値の高いサービス提供につなげていくことが期待される。また間接業務については、介護士が実施する必要のある業務であるか否かを検討し、そうでない業務については業務削減、アウトソーシング、IT導入やDXの推進などの対応が課題である。

●県立広島大学大学院経営管理研究科 木谷宏教授からのコメント
人事管理論の視点による今回の実証研究プロジェクトの背景は3つあった。ひとつは深刻な人手不足と低賃金に苦しむ「介護業」の窮状である。世界において前例のない高齢化が進むわが国において、国の施策や労働市場に委ねるのみでは介護業の崩壊は火を見るよりも明らかであり、過酷な感情労働に携わり、患者に寄り添っている介護職員への支援は喫緊の課題であった。次に2016年から始まった「働き方改革」のマンネリ感である。矢継ぎ早に関連法案を通過させ、企業も必死に取組みを推進した結果、以前よりは働きやすくなったと言えるだろう。しかし多くの人々は未だ働きがいを得ることが難しい現実がある。どうすれば仕事は面白くなるのか、答えは見えていない。そして最後がビッグデータやAIなどによって急速な進化を遂げる「DX」の波である。RPAや生成系AIによるリアルとバーチャルの融合は働く人々をどこへ導くのか、早急にラフスケッチを示す必要があるだろう。
本プロジェクトは、これらの背景を踏まえたユニークな実証研究となった。新進気鋭の医療介護企業とICT企業が地域団体の情熱によって結び付き、幾多の困難を互いの信頼によって乗り越えた結果、上記「まとめ」にある多くの結論と考察を導くこととなった。本研究は、1.介護業におけるICT機器(ハード)の有効性、2.DXと働き方改革(ソフト)の高い親和性、3.コミュニケーションを通じた意識と風土の変革(ハート)がビジネス・働き方・デジタルを媒介する双方向性、そして4.すべての働く人々のリスキリングの必然性を示唆した点は特筆すべき成果である。最後に、関係者の皆さんが1年3か月もの粘り強い取組みを継続したことにあらためて敬意を表したい。

●木谷宏教授 プロフィール

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