【イベントレポート】11/15開催Web講演会「病院『換気』~冬場のCOVID19対策のポイント~」
独立行政法人国立病院機構九州医療センター
冬を乗り越える クラスターを防ぐ病院の換気対策とは?
独立行政法人 国立病院機構 九州医療センター(所在地:福岡市中央区地行浜1丁目8番地1号、院長:岩崎 浩己 いわさき・ひろみ、以下「同センター」)は、2023年11月15日にWeb講演会「病院『換気』~冬場のCOVID19対策のポイント~」を開催しました。 同シンポジウムは、建築物の換気に知見のある先生方を交えて、COVID-19に限らない医療・介護における換気の重要性や具体的な対策方法について議論する場となりました。そのレポートをお届けします。
◆Web講演会「病院『換気』~冬場のCOVID19対策のポイントについて~」とは
・開催日時:2023年11月15日(水) 17:30~19:00(オンライン形式)
・対象者:医療・介護施設に勤務する職員
<目的>
5類感染症に移行後も医療施設ではクラスター発生が続いており、今後も「換気」はCOVID-19に対する院内感染対策として重要である。そこで、病院換気に関する最新の知識だけでなく、日頃の問題点や疑問点を解決するため建築物の換気に詳しい先生方にご講演頂き、今後の換気対策を考える機会とする。
<プログラム>
開会の挨拶 岩崎 浩己(同センター 院長)
総合司会 長崎 洋司(同センター 感染症内科医長)
1.COVID-19クラスター経験から学んだこと 小田原 美樹(同センター 感染制御部副部長)
2.COVID-19 疫学調査の経験より 島田 智恵(国立感染研究所実地症疫学センター 室長)
3.病院の空調・換気設備のしくみと感染対策 長谷川 麻子(宮城学院女子大学 生活科学部 教授)
4.病院・介護施設の空調換気とエアロゾル感染対策 林 基哉(北海道大学 工学研究院 教授)
5.Q&Aも含めたパネルディスカッション 討論者:講演者全員
閉会の挨拶 岩崎 浩己
◆講演会開催の背景
同センターが主催する新型コロナウイルスに関するWebシンポジウムは今回で4回目となります。第1回は各医療現場の対応状況を共有する「福岡地区での新型コロナウイルス対応のアップデート」、第2回はG-MIS を含めた全国レベルのデータ共有の方向性について議論する「G-MISと現場の調整機能をどうつなぐか?(https://infection.hosp.go.jp/info/info3.html)」、第3回目は福岡市と共催した「感染症対応シティー:未来の姿は?(https://infection.hosp.go.jp/info/info8.html)」を開催してきました。
COVID-19対策として換気の重要性が一般的にも認識されながら、換気量の不足が病院内クラスターの要因となっている可能性があると考えられるため、第4回は特に「換気」を取り上げることなりました。換気設備の老朽化や省エネルギーといった課題も踏まえながら、職員の病院換気に関する知識不足の解消にも繋がるよう、建築物の換気に詳しい方々からの講演会を企画しました。
◆講演会の内容
1.COVID-19クラスター経験から学んだこと 小田原 美樹(同センター 感染制御部副部長)
2021年5月に、同センターでは換気が感染伝播の要因のひとつと考えられるクラスターが発生しました。規模は5人でしたが、病棟見取り図中に赤色で示したエリアで陽性が判明しました。
この事例には、以下のような特徴がありました。
スタッフはひとりも感染を認めていない。
発端者である12号室の患者1.は咳症状がかなりひどかった。
患者1.と3.が同室である以外は、病室に出入り会話等患者同士の接触はなかった。
陽性患者5名はADLがほぼ自立しており、スタッフを介した感染は考えにくかった。
廊下を挟んだ病室で陽性となった患者は、すべて病室入口側のベッドだった。
病室の入口ドアは開けた状態で管理していた。
このような状況から、部屋の換気状況が悪く、病室内で発生した飛沫やエアロゾルが拡散した可能性が考えられます。
また、医療機関に対しては、厚生労働省から「新型コロナウイルス感染症の治療を行う場合の換気設備について」の通知が発出されています。この中では換気量が設計値に対して減少する要因として、換気設備の老朽化や省エネルギー・省コスト等のための換気量調整が挙げられるとしており、下記を検討するよう記載されています。
換気設備の換気量の測定等を行い、適切に機能していることを確認すること
適切な換気量が確保できていない場合は、換気設備の清掃や補修等を行うこと
以上のことから、同センターでは換気量測定やCO2濃度測定などを行い、換気対策に取り組んでいます。
事前に行ったアンケート調査においては、換気設備を24時間稼働している施設が90%であったものの、換気設備が無い施設や停止する時間帯がある施設も少数ありました。また、窓開け換気の実施状況を踏まえると、病院の換気に関する効果的な方法について、知識を深める必要があると感じました。
病院換気はコロナ対策として注目されましたが、院内感染対策として平時でもとても大切な対策であるため、以降の講演内容も含めて今後の換気対策の参考として頂ければと思います。
2.COVID-19 疫学調査の経験より 島田 智恵(国立感染研究所実地症疫学センター 室長)
エアロゾル感染については、コロナウイルスで初めて認識されたわけではなく、過去にもSARS(2003年)・新型インフルエンザ(2009年)・「次の新型」インフルエンザへの備えなど、度々議論されてきました。しかし、「エアロゾル」の定義はまだ定まっていません。コロナウイルスのエアロゾル感染に関しては、下図内の1.放出3.気流移動(赤丸内)がメインの経路だと現時点では考えられています。
次に、実際のクラスター事例のうち、飛沫感染や接触感染に加えてエアロゾル感染が拡大の一因となったと考えられる事例A・Bを紹介します。
まず事例Aでは、発生後の調査によって、上図のような空気の流れが確認されました。また、職員の陽性発症日別属性別流行曲線を見ると、一定の暴露の機会があったと推測される結果となりました。この事例に関して、空調・換気に関して以下のような事項で影響があったと考えられます。
省エネを目的に空調が自動でオンオフをする設定になっていた。
NHF(ネーザルハイフロー)使用中、患者の観察を容易にする目的で、ドアが常時解放されていた。
NHF使用中の個室に近接したナースステーションへの空気の流れが認められた。
次に事例Bは、3連休があったこと等が陽性者の速やかな隔離を難しくしており、クラスターに繋がっています。またそれに加えて、空調や換気に関する以下のような点も要因として考えられます。
冬場であり空調が完全にオフになる時間帯や日があった
病室や職員の休憩室において、換気状況が不十分になっていた(窓が開けられない等の構造上の問題)
空気清浄機を適切に配置できていなかった(換気に対する知識・認識の不足)
A・Bの事例とその調査を踏まえると、構造上の課題に加えて、職員側の認識不足も大きな影響があるとみられます。特に、病室の設計時にはドアを閉めている状態が前提となっていることを私を含めた医療従事者も認識していませんでした。現実には、迅速な医療行為・患者の観察のために病室ドアは解放されていることが珍しくなく、このギャップをどう埋めていくのか、分野横断的な関係者の議論が必要です。
3.病院の空調・換気設備のしくみと感染対策 長谷川 麻子(宮城学院女子大学 生活科学部 教授)
換気の重要性はナイチンゲールの時代から言われており、看護覚え書(1960年ナイチンゲール著)の書き出しは、「1.換気と保温 (看護の第一原則は)患者が呼吸する空気を、患者の身体を冷やすことなく、屋外の空気と同じ清浄さに保つこと」となっています。
つまり換気とは、ただ空気を外に出すことではなく、きれいな外の空気と室内の汚れた空気が入れ替わり「室内の空気がきれいになること」です。そのためには、外気取り込み口から排気口へ空気が流れるようにすることが必要です。
しかし誤解が多いのは、窓を開ける回数やエアコンの仕組みについてです。換気というのは、人がいる部屋では「常に」必要であり、窓を時々開けるだけではCO2濃度は下がりきりません。また、エアコンには「外気を取り込む」機能はなく、基本的には換気ができません。
さらに隔離等を行うためのゾーニングも空気の流れを考慮する必要があります。下記左図の場合、仮設隔離エリアの外(清浄区域側)に吸込口があるため、汚染された空気が清浄区域側に流れていくことになります。ゾーニングする場合は、下記右図のように清浄区域~汚染区域へと空気が流れるようにすることが重要です。
ただし、空気の吹出口・吸込口は一見区別がつきにくいため、空気の流れの確認が必要です。専門装置がない場合は、ティッシュ等を細く切って空中にかざすことで、確認が可能です。
今回のパンデミックやクラスター調査から、換気の重要性が再確認されました。私たち研究者も、研究に加えて、空気環境の改善や正しい知識の普及に努めることが必要だと考えています。内閣官房のHPには換気に関する動画も載っています。ぜひご確認ください。https://youtu.be/EMUm3lZ-1ec
4.病院・介護施設の空調換気とエアロゾル感染対策 林 基哉(北海道大学 工学研究院 教授)
1970年に建築物衛生法が定められ、室内空気環境管理が行われ始めたものの、病院・介護施設は定期的な空気環境の測定や保健所等の立入検査がある特定建築物の対象外となっています。そのため現時点では、個々の病院が測定等を実施し、対策を立てる必要があります。その参考となるような事例を取り上げたいと思います。
下図は、コールセンターで起きたクラスター事例についてエアロゾル濃度等をシミュレーションしたものです。空気を攪拌することでCO2等の濃度を薄めることを目的にサーキュレーターを設置していましたが、その気流によってエアロゾルによる2次感染が起きていました。この事例は、現在もより詳細の解析が行われているところです。
エアロゾル感染対策については、エアロゾルの粒経と感染の関係が明らかになっていないため、下図のAとB双方の対策が必要です。また、窓の数、位置、換気扇の有無によっても空気の流れが変わるため、環境に合わせた対策を考えることが重要です。窓開け換気の副作用等も含め、下図の「要点」をご参照ください。
また、病院・介護施設の換気対策の流れを、以下のようにまとめました。大きくは「CO2濃度計で換気量を確認」して、「換気設備を整えて換気量を確保」すること。そして、「スモークテスタ等で気流方向の確認」をして、これまで講演のあったような内容を元に「効果的な換気を行う」ことです。その際、病院では治療等のためドア開放が多いとの現状もありましたが、ドアが開いていると空気の流れはほぼ制御できないということもご理解頂けたらと思います。
内閣官房のHPに、換気対策に関する事例集も載っていますので、そちらもぜひご参照ください。
▶︎感染拡大防止に向けた取組|内閣感染症危機管理統括庁 (corona.go.jp)
5.Q&Aも含めたパネルディスカッション 討論者:講演者全員
Q1.市販の空気清浄機の使い方は?(実際の感染症対策としての効果や、必要台数、効果的な設置箇所等)
林:ウイルスに近い粒径のものを集められるものであれば、エアロゾルを取り除くことができます。ただし、同じ場所で空気を吸って出すことになるので、部屋中の空気を入れ替えることはできません。設置する場合は、エアロゾルが多く出る可能性のある場所のすぐ近くに置き、エアロゾルが部屋中に拡散する前に捕集する、という使い方が効果的です。
長谷川:エアロゾルのような小さな粒径のウイルスを集められるのは、「HEPAフィルター」が組み込まれた空気清浄機です。ただし、HEPAフィルターのあるものは、音が大きかったり目詰まりしやすかったりします。また、空気清浄機の性能試験にウイルスの項目はないため、実際にウイルス対策としてどこまで効果があるかというのは、断言は難しいです。
Q2.窓開け換気をするとしたら、どのように行うのが効果的ですか?
林:窓を2方向に開けるか1方向に開けるかで空気の流れが異なります。2方向にある場合は、風があれば、どちらも開けることで大きな換気効果を得られます。また、1方向の窓開けであれば風の影響を受けにくいため、開け方の調整で適度な換気が可能であり、夏場冬場でもエアコンの稼働と両立できる可能性があります。まずは室内の温度や湿度、CO2濃度等を確認することが重要です。室内環境をモニターしながら、必要な換気量を判断してみてください。
また、ドアを開けた状態で窓開け換気を行うと、臭気やウイルスが施設中に広がることになります。窓開け換気の際は、「ドアを閉めて、窓を開ける」ということが必要です。
長谷川:林先生監修の内閣官房HPの動画(https://youtu.be/EMUm3lZ-1ec)で、複数のパターンがわかりやすく紹介されていますので、そちらも確認してみてください。
Q3.CO2濃度計がない場合の確認方法はありますか?
長谷川:室内の風量だけではエアコン等の影響もあり空気が入れ替わっているか判断できないため、CO2濃度に関して濃度計以外での確認方法はありません。CO2濃度は換気において重要な指針のため、濃度計での確認をぜひ行っていただきたいところです。
まとめ
COVID-19に限らず、医療・介護における換気の重要性、機械換気の効果、窓開け換気の方法等を知ることができる内容となりました。今後の各施設で、必要な対策を効果的に行うための指針となれば幸いです。
また、当講演の動画データは、同センターのHPでも公開予定です。より効果的なチーム医療戦略に、ぜひご活用ください。
◆登壇者プロフィール
小田原 美樹
同センター 感染性制御部副部長
九州医療センターで勤務しながら、感染管理認定看護師資格を取得。
本講演では、病院や高齢者施設での換気方法を検討する。
島田 智恵
国立感染症研究所 実地疫学研究センター 室長
米国Emory大学公衆衛生大学院を修了し、WHO西太平洋地域事務局出向を経験。
本講演では、COVID-19クラスター対策班として関わった中で特徴的な事例を紹介する。
長谷川 麻子
宮城学院女子大学 生活化学科 生活文化デザイン学科 教授
新日本空調での勤務経験や建築学の修士・博士号取得により、建築と空調に造詣が深い。
本講演では、医療施設の空調・換気設備の解説と、現場で実践できる換気対策について考察する。
林 基哉
北海道大学 工学研究院 教授
積水ハウスでの勤務や、国立保健医療科学院の建築施設管理研究分野の統括研究者等を経て現職。
本講演では、空調換気に関する様々な視点の分析を紹介し、エアロゾル感染対策について考察する。
◆センター概要
名称 :国立病院機構 九州医療センター
院長 :岩崎 浩己
所在地 :福岡市中央区地行浜1丁目8番地1号
設立 :1994年7月
機能 :診療、研究、研修
病床数 :702床(一般650床・精神50床・感染症2床)
職員数 :1,353名
電話番号:092-852-0700(代表)
HP :https://kyushu-mc.hosp.go.jp/
企業プレスリリース詳細へ
PR TIMESトップへ
冬を乗り越える クラスターを防ぐ病院の換気対策とは?
独立行政法人 国立病院機構 九州医療センター(所在地:福岡市中央区地行浜1丁目8番地1号、院長:岩崎 浩己 いわさき・ひろみ、以下「同センター」)は、2023年11月15日にWeb講演会「病院『換気』~冬場のCOVID19対策のポイント~」を開催しました。 同シンポジウムは、建築物の換気に知見のある先生方を交えて、COVID-19に限らない医療・介護における換気の重要性や具体的な対策方法について議論する場となりました。そのレポートをお届けします。
◆Web講演会「病院『換気』~冬場のCOVID19対策のポイントについて~」とは
・開催日時:2023年11月15日(水) 17:30~19:00(オンライン形式)
・対象者:医療・介護施設に勤務する職員
<目的>
5類感染症に移行後も医療施設ではクラスター発生が続いており、今後も「換気」はCOVID-19に対する院内感染対策として重要である。そこで、病院換気に関する最新の知識だけでなく、日頃の問題点や疑問点を解決するため建築物の換気に詳しい先生方にご講演頂き、今後の換気対策を考える機会とする。
<プログラム>
開会の挨拶 岩崎 浩己(同センター 院長)
総合司会 長崎 洋司(同センター 感染症内科医長)
1.COVID-19クラスター経験から学んだこと 小田原 美樹(同センター 感染制御部副部長)
2.COVID-19 疫学調査の経験より 島田 智恵(国立感染研究所実地症疫学センター 室長)
3.病院の空調・換気設備のしくみと感染対策 長谷川 麻子(宮城学院女子大学 生活科学部 教授)
4.病院・介護施設の空調換気とエアロゾル感染対策 林 基哉(北海道大学 工学研究院 教授)
5.Q&Aも含めたパネルディスカッション 討論者:講演者全員
閉会の挨拶 岩崎 浩己
◆講演会開催の背景
同センターが主催する新型コロナウイルスに関するWebシンポジウムは今回で4回目となります。第1回は各医療現場の対応状況を共有する「福岡地区での新型コロナウイルス対応のアップデート」、第2回はG-MIS を含めた全国レベルのデータ共有の方向性について議論する「G-MISと現場の調整機能をどうつなぐか?(https://infection.hosp.go.jp/info/info3.html)」、第3回目は福岡市と共催した「感染症対応シティー:未来の姿は?(https://infection.hosp.go.jp/info/info8.html)」を開催してきました。
COVID-19対策として換気の重要性が一般的にも認識されながら、換気量の不足が病院内クラスターの要因となっている可能性があると考えられるため、第4回は特に「換気」を取り上げることなりました。換気設備の老朽化や省エネルギーといった課題も踏まえながら、職員の病院換気に関する知識不足の解消にも繋がるよう、建築物の換気に詳しい方々からの講演会を企画しました。
◆講演会の内容
1.COVID-19クラスター経験から学んだこと 小田原 美樹(同センター 感染制御部副部長)
2021年5月に、同センターでは換気が感染伝播の要因のひとつと考えられるクラスターが発生しました。規模は5人でしたが、病棟見取り図中に赤色で示したエリアで陽性が判明しました。
この事例には、以下のような特徴がありました。
スタッフはひとりも感染を認めていない。
発端者である12号室の患者1.は咳症状がかなりひどかった。
患者1.と3.が同室である以外は、病室に出入り会話等患者同士の接触はなかった。
陽性患者5名はADLがほぼ自立しており、スタッフを介した感染は考えにくかった。
廊下を挟んだ病室で陽性となった患者は、すべて病室入口側のベッドだった。
病室の入口ドアは開けた状態で管理していた。
このような状況から、部屋の換気状況が悪く、病室内で発生した飛沫やエアロゾルが拡散した可能性が考えられます。
また、医療機関に対しては、厚生労働省から「新型コロナウイルス感染症の治療を行う場合の換気設備について」の通知が発出されています。この中では換気量が設計値に対して減少する要因として、換気設備の老朽化や省エネルギー・省コスト等のための換気量調整が挙げられるとしており、下記を検討するよう記載されています。
換気設備の換気量の測定等を行い、適切に機能していることを確認すること
適切な換気量が確保できていない場合は、換気設備の清掃や補修等を行うこと
以上のことから、同センターでは換気量測定やCO2濃度測定などを行い、換気対策に取り組んでいます。
事前に行ったアンケート調査においては、換気設備を24時間稼働している施設が90%であったものの、換気設備が無い施設や停止する時間帯がある施設も少数ありました。また、窓開け換気の実施状況を踏まえると、病院の換気に関する効果的な方法について、知識を深める必要があると感じました。
病院換気はコロナ対策として注目されましたが、院内感染対策として平時でもとても大切な対策であるため、以降の講演内容も含めて今後の換気対策の参考として頂ければと思います。
2.COVID-19 疫学調査の経験より 島田 智恵(国立感染研究所実地症疫学センター 室長)
エアロゾル感染については、コロナウイルスで初めて認識されたわけではなく、過去にもSARS(2003年)・新型インフルエンザ(2009年)・「次の新型」インフルエンザへの備えなど、度々議論されてきました。しかし、「エアロゾル」の定義はまだ定まっていません。コロナウイルスのエアロゾル感染に関しては、下図内の1.放出3.気流移動(赤丸内)がメインの経路だと現時点では考えられています。
次に、実際のクラスター事例のうち、飛沫感染や接触感染に加えてエアロゾル感染が拡大の一因となったと考えられる事例A・Bを紹介します。
まず事例Aでは、発生後の調査によって、上図のような空気の流れが確認されました。また、職員の陽性発症日別属性別流行曲線を見ると、一定の暴露の機会があったと推測される結果となりました。この事例に関して、空調・換気に関して以下のような事項で影響があったと考えられます。
省エネを目的に空調が自動でオンオフをする設定になっていた。
NHF(ネーザルハイフロー)使用中、患者の観察を容易にする目的で、ドアが常時解放されていた。
NHF使用中の個室に近接したナースステーションへの空気の流れが認められた。
次に事例Bは、3連休があったこと等が陽性者の速やかな隔離を難しくしており、クラスターに繋がっています。またそれに加えて、空調や換気に関する以下のような点も要因として考えられます。
冬場であり空調が完全にオフになる時間帯や日があった
病室や職員の休憩室において、換気状況が不十分になっていた(窓が開けられない等の構造上の問題)
空気清浄機を適切に配置できていなかった(換気に対する知識・認識の不足)
A・Bの事例とその調査を踏まえると、構造上の課題に加えて、職員側の認識不足も大きな影響があるとみられます。特に、病室の設計時にはドアを閉めている状態が前提となっていることを私を含めた医療従事者も認識していませんでした。現実には、迅速な医療行為・患者の観察のために病室ドアは解放されていることが珍しくなく、このギャップをどう埋めていくのか、分野横断的な関係者の議論が必要です。
3.病院の空調・換気設備のしくみと感染対策 長谷川 麻子(宮城学院女子大学 生活科学部 教授)
換気の重要性はナイチンゲールの時代から言われており、看護覚え書(1960年ナイチンゲール著)の書き出しは、「1.換気と保温 (看護の第一原則は)患者が呼吸する空気を、患者の身体を冷やすことなく、屋外の空気と同じ清浄さに保つこと」となっています。
つまり換気とは、ただ空気を外に出すことではなく、きれいな外の空気と室内の汚れた空気が入れ替わり「室内の空気がきれいになること」です。そのためには、外気取り込み口から排気口へ空気が流れるようにすることが必要です。
しかし誤解が多いのは、窓を開ける回数やエアコンの仕組みについてです。換気というのは、人がいる部屋では「常に」必要であり、窓を時々開けるだけではCO2濃度は下がりきりません。また、エアコンには「外気を取り込む」機能はなく、基本的には換気ができません。
さらに隔離等を行うためのゾーニングも空気の流れを考慮する必要があります。下記左図の場合、仮設隔離エリアの外(清浄区域側)に吸込口があるため、汚染された空気が清浄区域側に流れていくことになります。ゾーニングする場合は、下記右図のように清浄区域~汚染区域へと空気が流れるようにすることが重要です。
ただし、空気の吹出口・吸込口は一見区別がつきにくいため、空気の流れの確認が必要です。専門装置がない場合は、ティッシュ等を細く切って空中にかざすことで、確認が可能です。
今回のパンデミックやクラスター調査から、換気の重要性が再確認されました。私たち研究者も、研究に加えて、空気環境の改善や正しい知識の普及に努めることが必要だと考えています。内閣官房のHPには換気に関する動画も載っています。ぜひご確認ください。https://youtu.be/EMUm3lZ-1ec
4.病院・介護施設の空調換気とエアロゾル感染対策 林 基哉(北海道大学 工学研究院 教授)
1970年に建築物衛生法が定められ、室内空気環境管理が行われ始めたものの、病院・介護施設は定期的な空気環境の測定や保健所等の立入検査がある特定建築物の対象外となっています。そのため現時点では、個々の病院が測定等を実施し、対策を立てる必要があります。その参考となるような事例を取り上げたいと思います。
下図は、コールセンターで起きたクラスター事例についてエアロゾル濃度等をシミュレーションしたものです。空気を攪拌することでCO2等の濃度を薄めることを目的にサーキュレーターを設置していましたが、その気流によってエアロゾルによる2次感染が起きていました。この事例は、現在もより詳細の解析が行われているところです。
エアロゾル感染対策については、エアロゾルの粒経と感染の関係が明らかになっていないため、下図のAとB双方の対策が必要です。また、窓の数、位置、換気扇の有無によっても空気の流れが変わるため、環境に合わせた対策を考えることが重要です。窓開け換気の副作用等も含め、下図の「要点」をご参照ください。
また、病院・介護施設の換気対策の流れを、以下のようにまとめました。大きくは「CO2濃度計で換気量を確認」して、「換気設備を整えて換気量を確保」すること。そして、「スモークテスタ等で気流方向の確認」をして、これまで講演のあったような内容を元に「効果的な換気を行う」ことです。その際、病院では治療等のためドア開放が多いとの現状もありましたが、ドアが開いていると空気の流れはほぼ制御できないということもご理解頂けたらと思います。
内閣官房のHPに、換気対策に関する事例集も載っていますので、そちらもぜひご参照ください。
▶︎感染拡大防止に向けた取組|内閣感染症危機管理統括庁 (corona.go.jp)
5.Q&Aも含めたパネルディスカッション 討論者:講演者全員
Q1.市販の空気清浄機の使い方は?(実際の感染症対策としての効果や、必要台数、効果的な設置箇所等)
林:ウイルスに近い粒径のものを集められるものであれば、エアロゾルを取り除くことができます。ただし、同じ場所で空気を吸って出すことになるので、部屋中の空気を入れ替えることはできません。設置する場合は、エアロゾルが多く出る可能性のある場所のすぐ近くに置き、エアロゾルが部屋中に拡散する前に捕集する、という使い方が効果的です。
長谷川:エアロゾルのような小さな粒径のウイルスを集められるのは、「HEPAフィルター」が組み込まれた空気清浄機です。ただし、HEPAフィルターのあるものは、音が大きかったり目詰まりしやすかったりします。また、空気清浄機の性能試験にウイルスの項目はないため、実際にウイルス対策としてどこまで効果があるかというのは、断言は難しいです。
Q2.窓開け換気をするとしたら、どのように行うのが効果的ですか?
林:窓を2方向に開けるか1方向に開けるかで空気の流れが異なります。2方向にある場合は、風があれば、どちらも開けることで大きな換気効果を得られます。また、1方向の窓開けであれば風の影響を受けにくいため、開け方の調整で適度な換気が可能であり、夏場冬場でもエアコンの稼働と両立できる可能性があります。まずは室内の温度や湿度、CO2濃度等を確認することが重要です。室内環境をモニターしながら、必要な換気量を判断してみてください。
また、ドアを開けた状態で窓開け換気を行うと、臭気やウイルスが施設中に広がることになります。窓開け換気の際は、「ドアを閉めて、窓を開ける」ということが必要です。
長谷川:林先生監修の内閣官房HPの動画(https://youtu.be/EMUm3lZ-1ec)で、複数のパターンがわかりやすく紹介されていますので、そちらも確認してみてください。
Q3.CO2濃度計がない場合の確認方法はありますか?
長谷川:室内の風量だけではエアコン等の影響もあり空気が入れ替わっているか判断できないため、CO2濃度に関して濃度計以外での確認方法はありません。CO2濃度は換気において重要な指針のため、濃度計での確認をぜひ行っていただきたいところです。
まとめ
COVID-19に限らず、医療・介護における換気の重要性、機械換気の効果、窓開け換気の方法等を知ることができる内容となりました。今後の各施設で、必要な対策を効果的に行うための指針となれば幸いです。
また、当講演の動画データは、同センターのHPでも公開予定です。より効果的なチーム医療戦略に、ぜひご活用ください。
◆登壇者プロフィール
小田原 美樹
同センター 感染性制御部副部長
九州医療センターで勤務しながら、感染管理認定看護師資格を取得。
本講演では、病院や高齢者施設での換気方法を検討する。
島田 智恵
国立感染症研究所 実地疫学研究センター 室長
米国Emory大学公衆衛生大学院を修了し、WHO西太平洋地域事務局出向を経験。
本講演では、COVID-19クラスター対策班として関わった中で特徴的な事例を紹介する。
長谷川 麻子
宮城学院女子大学 生活化学科 生活文化デザイン学科 教授
新日本空調での勤務経験や建築学の修士・博士号取得により、建築と空調に造詣が深い。
本講演では、医療施設の空調・換気設備の解説と、現場で実践できる換気対策について考察する。
林 基哉
北海道大学 工学研究院 教授
積水ハウスでの勤務や、国立保健医療科学院の建築施設管理研究分野の統括研究者等を経て現職。
本講演では、空調換気に関する様々な視点の分析を紹介し、エアロゾル感染対策について考察する。
◆センター概要
名称 :国立病院機構 九州医療センター
院長 :岩崎 浩己
所在地 :福岡市中央区地行浜1丁目8番地1号
設立 :1994年7月
機能 :診療、研究、研修
病床数 :702床(一般650床・精神50床・感染症2床)
職員数 :1,353名
電話番号:092-852-0700(代表)
HP :https://kyushu-mc.hosp.go.jp/
企業プレスリリース詳細へ
PR TIMESトップへ
(2023/12/12 11:00)
- データ提供
本コーナーの内容に関するお問い合わせ、または掲載についてのお問い合わせは株式会社 PR TIMES ()までご連絡ください。製品、サービスなどに関するお問い合わせは、それぞれの発表企業・団体にご連絡ください。