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早期胃癌の異所性異時性再発の原因の一端を解明 ピロリ菌除菌後の背景胃粘膜の炎症の継続が関与

国立大学法人千葉大学
早期胃癌に対して内視鏡的治療後にピロリ菌除菌を行っても、異所性異時性の再発(注1)を来すことがありますが、このメカニズムは明らかにされていません。今回、千葉大学大学院医学研究院 長島有輝特任助教、中川良特任准教授、加藤直也教授、千葉大学医学部附属病院 沖元謙一郎助教 他17名の研究グループは、胃癌を再発した患者の背景胃粘膜の内視鏡所見と遺伝子発現の統合的な解析を行い、背景粘膜のIFN-α(注2)等の炎症に関わるパスウェイ(注3)の亢進が、早期胃癌治療後の異所性異時性再発に関与していることを明らかにしました。本研究成果により、早期胃癌内視鏡治療後かつピロリ菌除菌後の患者における、より適正なフォロー方法や、再発予防の創薬につながることが期待されます。 本成果は、2023年11月11日(現地時間)に国際学術誌Scientific Reportsに掲載されました。


研究の背景


胃癌は生命を脅かす疾患の1つであり、世界中で毎年100万人以上の死亡者を出しています。近年は内視鏡技術が普及し、早期の状態で発見され、内視鏡治療で治癒が得られる機会も増えてきました。また胃癌の主な原因は、ピロリ菌感染によって引き起こされる慢性の胃粘膜障害であり、ピロリ菌を除菌することで新しい胃癌の発生リスクを低減させることができます。しかし、早期胃癌に対して内視鏡治療で治癒が得られ、ピロリ菌の除菌に成功した場合でも、5~15%程度の人が胃癌の異所性異時性再発を来すことがあります。この再発のリスクは、背景胃粘膜の内視鏡所見や病理所見などから、ある程度は予想可能ですが、メカニズムの詳細は未だ不明です。本研究では、このメカニズムを解明するため、早期胃癌内視鏡治療後にピロリ菌除菌を行った患者さんの背景胃粘膜を採取し、そのRNA注5を用いて網羅的に遺伝子発現解析を行いました。
研究成果の概要


千葉大学医学部附属病院において、早期胃癌内視鏡治療後かつピロリ菌除菌成功後でフォローを受けている患者さんのうち、胃癌を再発した患者さん5名(再発群)と、再発していない患者さん5名(コントロール群)を対象としました。内視鏡検査時に得られた所見と採取した背景胃粘膜の遺伝子発現をそれぞれ統計的に解析し比較しました。その結果、内視鏡所見の比較では、背景胃粘膜において再発群では大弯襞(だいわんひだ)(注4)の腫大が多く見られることが示されました。通常、大弯襞の腫大はピロリ菌により誘導され、その除菌によって改善します。しかし、再発群ではその腫大が継続していました。次に行った遺伝子発現解析では、両群のmRNAやmiRNA(注5)の発現パターンに違いがあることが分かりました(図)。このパターンの違いの詳細を知るためにパスウェイ解析(注3)を行うと、再発群の胃粘膜では免疫や炎症にかかわる複数のパスウェイが亢進していました。今回はこの中でも代表的な経路としてIFN-αシグナル伝達経路について解析を行い、この経路を制御している複数のmiRNAの存在が示唆されました。

本研究により、再発群はピロリ菌除菌後であっても、内視鏡所見的にも遺伝子発現的にも背景粘膜に炎症像が見られることが示されました。さらにその炎症の制御機構を、IFN-αシグナル伝達経路が担っている可能性が示されました。これにより、胃癌の異所性異時性再発の新たな機構が示されました。
今後の展開


本研究成果により、早期胃癌内視鏡治療後かつピロリ菌除菌後の患者さんにおける、より適正なフォロー方法や、再発予防の創薬につながることが期待されます。
論文情報


論文名:Investigation of Risk Factors for Metachronous Recurrence in Patients with Early Gastric Adenocarcinoma by miRNA-mRNA Integral Profiling(miRNA-mRNA統合的プロファイリングによる早期胃腺癌患者の異所性異時性再発リスク因子の検討)
雑誌名:Scientific Reports
著者:Ariki Nagashima, Kenichiro Okimoto, Ryo Nakagawa, Naoki Akizue, Tomoaki Matsumura, Hirotaka Oura, Ryuta Kojima, Chihiro Goto, Satsuki Takahashi, Ryosuke Horio, Akane Kurosugi, Tsubasa Ishikawa, Wataru Shiratori, Tatsuya Kaneko, Kengo Kanayama, Yuki Ohta, Takashi Taida, Keiko Saito, Tetsuhiro Chiba, Jun Kato, Naoya Kato
DOI: 10.1038/s41598-023-47000-3

用語の解説


注1) 異所性異時性再発:
胃癌の治療をした後、1年以上経過してから、新たに別の場所に胃癌が発生すること。本文ではこのことを“再発”と記載。
注2) インターフェロン(IFN):
ウイルスなどの微生物に感染した際、免疫応答を活性化するために、免疫系の細胞から産生されるタンパク質のこと。
注3) パスウェイ、パスウェイ解析:
代謝経路やシグナル伝達など、様々な生命現象を制御している生物学的過程や経路のことを、パスウェイと言う。パスウェイ解析とは、発現が変動した遺伝子がどのようなパスウェイに多く含まれているかを調べる解析。
注4)  大弯襞(だいわんひだ):
胃は左右非対称の曲がりくねった臓器であり、外側の大きな弯曲部を大弯、大弯にある襞を大弯襞という。
注5) 遺伝子発現、RNA、mRNA、miRNA:
細胞が遺伝子の情報を基に蛋白質を作るまでの過程を、遺伝子発現と言う。これにはRNA(リボ核酸Ribonucleic acid)が深く関与しており、例えば転写という段階では、遺伝情報が保存されたDNAから、必要な情報がコピーされたメッセンジャーRNA(mRNA)が産生される。また、マイクロRNA(miRNA)は、この遺伝子発現の調節に関与している。
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