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COVID-19パンデミックによる原発性および転移性肺がんの治療の変化が明らかに

公益財団法人ちば県民保健予防財団
~レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB:National Database)を解析~

 公益財団法人ちば県民保健予防財団の藤田美鈴主席研究員および羽田明調査研究センター長らは、千葉大学、慶応義塾大学、藤田医科大学と共同で、厚生労働省が管理するレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB: National Database)(注1)のサンプリングデータセット(注2)を利用し、Coronavirus disease 2019 (COVID-19) パンデミック前後の原発性非小細胞肺がんおよび転移性肺がんの治療数を調べました。その結果、原発性非小細胞肺がんの外科的切除は、一部、定位放射線治療で置き換えられたことが示唆されました。また、外科的切除と定位放射線治療を合わせた全治療数は、観察期間中減少が続いていました。一方、転移性肺がんの外科的切除は、一部は延期され、または、定位放射線治療で置き換えられたことが示唆されましたが、観察期間全体でみると、全治療件数は維持されていました。本研究成果は、2024年3月6日に、学術誌Cancer Epidemiologyにオンラインで掲載されました。


研究の方法
 厚生労働省から2015年1月~2021年1月のNDBのサンプリングデータセット(年4回作成:1、4、7、10月)の提供を受けました。原発性非小細胞肺がんおよび転移性肺癌の治療について、各月の診療報酬明細書(レセプト)(注3)の件数をカウントし、時系列分析(注4)という手法を用いて、パンデミック前の件数の推移から、パンデミック中の件数を予測するとともに(パンデミックがなかったと仮定した場合の件数の予測値)、パンデミック中の件数の変化量を推定しました。

調べた治療
外科的切除、光線力学療法またはレーザーアブレーション、定位放射線治療
外科的切除については、種類別(「開胸による縮小手術 (部分切除と区域切除を含む)」、「開胸による肺葉切除または肺全摘除」、「胸腔鏡による縮小手術」、「胸腔鏡による肺葉切除または肺全摘除」)の解析も実施

研究の結果とコメント
 原発性非小細胞肺がんの外科的切除件数は、2020年4月および7月に有意に減少しましたが、定位放射線治療の件数は、同時期に有意に増加しました。外科的切除と定位放射線治療を合わせた全治療数は、有意ではないものの観察期間を通して減少が認められました(図1)。一方、転移性肺がんの外科的切除件数は、2020年4月に有意に減少しましたが、同年7月に有意に増加しました。また、定位放射線治療の件数は、2020年4月および10月に有意に増加しました。これらの結果から、転移性肺がんの外科的切除は、一部延期され、または、定位放射線治療に置き換えられたことが示唆されました。外科的切除と定位放射線治療を合わせた全治療数は、観察期間全体でみると、維持されているようでした(図2)。
 観察期間中、原発性非小細胞肺がんの全治療数の減少が観察されたことから、今後の予後の悪化が懸念されます。また、原発性非小細胞肺がんと転移性肺がんでは、全治療数の変化に違いが認められました。原発性の肺がんは、がん検診や症状のある患者が医療機関を受診することで発見されます。パンデミックの発生直後には、がん検診が停止され、さらに、がん診断のための検査数(肺CT検査や肺生検など)も減少しました。その結果、がんの診断数の減少が報告されています。原発性非小細胞肺がんの治療数の減少は、この診断数の減少を反映していると思われます。一方、転移性肺がんは、主に原発性のがんの治療経過観察中に発見されます。本研究では、パンデミック発生直後に、転移性肺がんの外科的切除が延期されたり、定位放射線治療に置き換えられたりしたことが示唆されましたが、治療全体の数は維持されているようでした。この結果から、転移性肺がんの原因となった原発性のがんの治療管理や転移性肺がんの治療は維持されていたことが示唆されます。パンデミック発生直後の混乱した状況の中であっても、がんが診断されていれば、外科的切除を定位放射線治療に置き換える等の対応により、肺がんの治療が維持されていたことが示唆されました。



図1.原発性非小細胞肺がんの治療件数の推移
年に4時点(1月、4月、7月、10月)を観察
実線:観察された治療件数、点線:パンデミック前の推移から予測されたパンデミック中の件数(パンデミックがなかったと仮定した場合の予測値)、灰色の網掛け:95%信頼区間(観察された件数が網掛けの外の場合、統計学的に有意に変化していると判断する)



図2.転移性肺がんの治療件数の推移
年に4時点(1月、4月、7月、10月)を観察
実線:観察された治療件数、点線:パンデミック前の推移から予測されたパンデミック中の件数(パンデミックがなかったと仮定した場合の予測値)、灰色の網掛け:95%信頼区間(観察された件数が網掛けの外の場合、統計学的に有意に変化していると判断する)


用語の説明
注1)レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB: National Database):NDBは、「高齢者の医療の確保に関する法律」に基づき、厚生労働省が蓄積管理しているデータベースで、我が国のレセプト情報と特定健診・特定保健指導情報が蓄積されています。
注2)サンプリングデータセット:NDB情報は、研究等が利活用するために、一定の条件の下、第三者に提供されています。提供形式は3種類あり、そのうちの一つがサンプリングデータセットです。サンプリングデータセットは、年に4回(1月、4月、7月、10月)、NDB情報からレセプト情報を一定の確率で抽出したものです。
注3)診療報酬明細書(レセプト):医療機関が健康保険組合などの公的医療保険者に対して、保険医療に要した費用を請求するために発行する明細書のことです。毎月、患者ごとに作成されます。
注4)時系列分析:Interrupted time-series analysis using seasonal autoregressive integrated moving average (SARIMA) modelsを用いて解析を行いました。この方法を用いることで、自己回帰、移行平均、トレンド、季節変動を調整したうえでの変化量を推定することができます。

論文情報
タイトル:Impact of the coronavirus disease 2019 pandemic on primary and metastatic lung cancer treatments in Japan: A nationwide study using an interrupted time series analysis
著者:Misuzu Fujita1,2, Takehiko Fujisawa1, Kiminori Suzuki1, Kengo Nagashima3, Tokuzo Kasai1, Hideyuki Hashimoto1, Kazuya Yamaguchi1, Yoshihiro Onouchi2, Daisuke Sato4, Akira Hata1
1公益財団法人ちば県民保健予防財団、2千葉大学大学院医学研究院公衆衛生学、3慶應義塾大学病院 臨床研究推進センター 生物統計部門、4藤田医科大学大学院医学研究科
雑誌名:Cancer Epidemiology
DOI: https://doi.org/10.1016/j.canep.2024.102549
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