アレルギー疾患に関連するゲノム領域の重要性を解明~気管支ぜんそくの新規治療法の開発に期待~
国立大学法人千葉大学
千葉大学医学部附属病院の岩田有史講師/診療准教授、大学院医学薬学府博士後期課程4年熊谷崇氏(研究当時)、古矢裕樹医員(研究当時)、幡野雅彦教授(研究当時)、金田篤志教授、中島裕史教授らの研究チームは、気管支ぜんそく発症との関連が報告されている特定のゲノム領域を欠損させたマウスが、チリダニ誘発性ぜんそくを発症しなくなることを明らかにしました。この成果は、気管支ぜんそくの遺伝メカニズムの一部を解明し、その予防と治療に繋がる可能性があります。 本研究成果は、2024年6月25日(日本時間)に、学術誌Proceedings of the National Academy of Sciences, USAで公開されました。
■研究の背景:
気管支ぜんそくは世界中で数億人の人々が苦しんでいる慢性的な呼吸器疾患です。最近の研究では、遺伝的要因がぜんそくを含むアレルギー疾患の発症リスクに大きな影響を与えることが明らかになっています。
単一塩基多型(SNPs)注1は遺伝子配列中の1塩基が他の塩基に置き換わる変異で、これらのSNPsは遺伝子の量や機能に影響を与えることで、疾患のリスクに関連することがわかっています。そして多くのゲノムワイド関連解析(GWAS)注2により、気管支ぜんそくに関連するSNPsはヒト第10番染色体の短腕(10p14)に集中していることが報告されています。この領域は「遺伝子の砂漠」と呼ばれる、遺伝子を持たない領域のため、それがどのように気管支ぜんそくの発症に影響するかは不明でした。研究チームはこのSNPsの集中する領域を詳しく解析することで、気管支ぜんそくにおける遺伝のメカニズムの解明を目指しました。
■研究の成果:
気管支ぜんそくでは、GATA3という転写因子により誘導されるTh2細胞注3が疾患の発症・増悪に重要な役割を果たすことが知られています。研究チームは、複数のGWAS解析の統合解析により、気管支ぜんそく疾患感受性SNPsが10p14の中でも、GATA3の転写が開始する点より900kbp下流に位置する領域に集中していることを明らかにし、この領域をG900領域と名付けました。さらにG900領域の活性化は、ヒト末梢血中のヘルパーT細胞のGATA3の発現量と強く相関することを発見し、G900領域がGATA3発現の調節を担っていると考えました。そこでヒトのG900領域に対応する領域を欠損したマウス(mG900KOマウス)を作製し、気管支ぜんそく発症に対するG900領域の影響を調べました。その結果、mG900KOマウスでは、チリダニ誘導性ぜんそくモデルにおいてTh2細胞への分化が消失し、ぜんそくが誘導されないことを確認しました。さらにmG900KOマウスのTh2細胞では、GATA3遺伝子周囲のゲノムの高次構造が形成されないことが明らかとなりました。これはG900領域がGATA3遺伝子周囲のゲノムをまとめることでGATA3の発現量を調節していることを示しています。すなわち10p14に遺伝的素因がある患者さんでは、GATA3遺伝子周囲のゲノムが過剰にまとまることでGATA3の発現量が増え、その結果Th2細胞に分化しやすくなると考えられます。
■今後の展望:
この研究により、気管支ぜんそく発症に関与するG900領域の役割が明らかになりました。今後、この領域を標的とすることで、気管支ぜんそくの予防や、新規治療法の開発に繋がることが期待されます。
■用語解説
注1)単一塩基多型(SNPs):遺伝子配列中の1塩基が他の塩基に置き換わる遺伝的変異。集団内で1%以上の頻度で見られるものを指します。
注2)ゲノムワイド関連解析(GWAS):特定の形質(例:気管支ぜんそく)に関連する遺伝的変異を全ゲノムに渡って探索する研究手法。疾患のリスク要因となる領域を特定することが出来ます。
注3)Th2細胞:アレルギー反応において中心的な役割を果たすヘルパーT細胞の一種。試験管内ではナイーブT細胞にIL-4/STAT6経路の刺激が入ることでGATA3が誘導され分化します。
■研究プロジェクトについて
本研究は以下の事業の支援を受けて実施されました。
・AMED 免疫アレルギー疾患実用化研究事業 2019年度~2021年度 (JP19ek0410043h0003)
「スーパーエンハンサー関連遺伝子群の時間・空間的動態解析によるアレルギー性気道炎症誘導における細胞間相互作用の解明」
・JSTムーンショット型研究開発事業 2020年度~2025年度 (JPMJMS2025)
「ウイルス-人体相互作用ネットワークの理解と制御」
・日本アレルギー学会 基礎研究支援プログラム2020
■論文情報
タイトル:A distal enhancer of GATA3 regulates Th2 differentiation and allergic inflammation
著者:Takashi Kumagai†, Arifumi Iwata†, Hiroki Furuya†, Kodai Kato, Atsushi Okabe, Yosuke Toda,
Mizuki Kanai, Lisa Fujimura, Akemi Sakamoto, Takahiro Kageyama, Shigeru Tanaka, Akira Suto,
Masahiko Hatano, Atsushi Kaneda, and Hiroshi Nakajima (†equally contributed)
雑誌名:Proceedings of the National Academy of Sciences, USA
DOI:https://doi.org/10.1073/pnas.2320727121
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千葉大学医学部附属病院の岩田有史講師/診療准教授、大学院医学薬学府博士後期課程4年熊谷崇氏(研究当時)、古矢裕樹医員(研究当時)、幡野雅彦教授(研究当時)、金田篤志教授、中島裕史教授らの研究チームは、気管支ぜんそく発症との関連が報告されている特定のゲノム領域を欠損させたマウスが、チリダニ誘発性ぜんそくを発症しなくなることを明らかにしました。この成果は、気管支ぜんそくの遺伝メカニズムの一部を解明し、その予防と治療に繋がる可能性があります。 本研究成果は、2024年6月25日(日本時間)に、学術誌Proceedings of the National Academy of Sciences, USAで公開されました。
■研究の背景:
気管支ぜんそくは世界中で数億人の人々が苦しんでいる慢性的な呼吸器疾患です。最近の研究では、遺伝的要因がぜんそくを含むアレルギー疾患の発症リスクに大きな影響を与えることが明らかになっています。
単一塩基多型(SNPs)注1は遺伝子配列中の1塩基が他の塩基に置き換わる変異で、これらのSNPsは遺伝子の量や機能に影響を与えることで、疾患のリスクに関連することがわかっています。そして多くのゲノムワイド関連解析(GWAS)注2により、気管支ぜんそくに関連するSNPsはヒト第10番染色体の短腕(10p14)に集中していることが報告されています。この領域は「遺伝子の砂漠」と呼ばれる、遺伝子を持たない領域のため、それがどのように気管支ぜんそくの発症に影響するかは不明でした。研究チームはこのSNPsの集中する領域を詳しく解析することで、気管支ぜんそくにおける遺伝のメカニズムの解明を目指しました。
■研究の成果:
気管支ぜんそくでは、GATA3という転写因子により誘導されるTh2細胞注3が疾患の発症・増悪に重要な役割を果たすことが知られています。研究チームは、複数のGWAS解析の統合解析により、気管支ぜんそく疾患感受性SNPsが10p14の中でも、GATA3の転写が開始する点より900kbp下流に位置する領域に集中していることを明らかにし、この領域をG900領域と名付けました。さらにG900領域の活性化は、ヒト末梢血中のヘルパーT細胞のGATA3の発現量と強く相関することを発見し、G900領域がGATA3発現の調節を担っていると考えました。そこでヒトのG900領域に対応する領域を欠損したマウス(mG900KOマウス)を作製し、気管支ぜんそく発症に対するG900領域の影響を調べました。その結果、mG900KOマウスでは、チリダニ誘導性ぜんそくモデルにおいてTh2細胞への分化が消失し、ぜんそくが誘導されないことを確認しました。さらにmG900KOマウスのTh2細胞では、GATA3遺伝子周囲のゲノムの高次構造が形成されないことが明らかとなりました。これはG900領域がGATA3遺伝子周囲のゲノムをまとめることでGATA3の発現量を調節していることを示しています。すなわち10p14に遺伝的素因がある患者さんでは、GATA3遺伝子周囲のゲノムが過剰にまとまることでGATA3の発現量が増え、その結果Th2細胞に分化しやすくなると考えられます。
■今後の展望:
この研究により、気管支ぜんそく発症に関与するG900領域の役割が明らかになりました。今後、この領域を標的とすることで、気管支ぜんそくの予防や、新規治療法の開発に繋がることが期待されます。
■用語解説
注1)単一塩基多型(SNPs):遺伝子配列中の1塩基が他の塩基に置き換わる遺伝的変異。集団内で1%以上の頻度で見られるものを指します。
注2)ゲノムワイド関連解析(GWAS):特定の形質(例:気管支ぜんそく)に関連する遺伝的変異を全ゲノムに渡って探索する研究手法。疾患のリスク要因となる領域を特定することが出来ます。
注3)Th2細胞:アレルギー反応において中心的な役割を果たすヘルパーT細胞の一種。試験管内ではナイーブT細胞にIL-4/STAT6経路の刺激が入ることでGATA3が誘導され分化します。
■研究プロジェクトについて
本研究は以下の事業の支援を受けて実施されました。
・AMED 免疫アレルギー疾患実用化研究事業 2019年度~2021年度 (JP19ek0410043h0003)
「スーパーエンハンサー関連遺伝子群の時間・空間的動態解析によるアレルギー性気道炎症誘導における細胞間相互作用の解明」
・JSTムーンショット型研究開発事業 2020年度~2025年度 (JPMJMS2025)
「ウイルス-人体相互作用ネットワークの理解と制御」
・日本アレルギー学会 基礎研究支援プログラム2020
■論文情報
タイトル:A distal enhancer of GATA3 regulates Th2 differentiation and allergic inflammation
著者:Takashi Kumagai†, Arifumi Iwata†, Hiroki Furuya†, Kodai Kato, Atsushi Okabe, Yosuke Toda,
Mizuki Kanai, Lisa Fujimura, Akemi Sakamoto, Takahiro Kageyama, Shigeru Tanaka, Akira Suto,
Masahiko Hatano, Atsushi Kaneda, and Hiroshi Nakajima (†equally contributed)
雑誌名:Proceedings of the National Academy of Sciences, USA
DOI:https://doi.org/10.1073/pnas.2320727121
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(2024/06/27 08:56)
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