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ガザ:紛争激化から1年、医療は壊滅状態に──今すぐ持続的な停戦を

国境なき医師団

破壊されたガザ南部・ハンユニスの建物=2024年5月15日 (C) MSF


2023年10月7日にイスラエルとハマスの紛争が激化してから、まもなく1年を迎える。全面攻撃と封鎖は今も続き、パレスチナ・ガザ地区の医療・人道状況は壊滅的だ。

この間、イスラエル、ハマス、そしてそれらの同盟国も、ガザでの持続的停戦に関する合意に到達できなかった。そして現在、紛争の危険性が地域全体で高まっている。イスラエルは、ガザの民間人の無差別殺害を直ちに停止し、国際司法裁判所の要請に従い、検問所を再開し援助物資の搬入を緊急に進めることが求められている。
4万人以上が犠牲に
2023年10月7日にハマスが行った残虐行為により、1200人近くが殺害され、およそ250人が人質となった。その後イスラエル軍はガザ地区を全面攻撃し、これまでに4万1500人の命が奪われ、9万6000人余りが負傷した(*1)。人びとは繰り返し避難を余儀なくされ、避難先も攻撃を受けますます狭い地域に押し込まれている。

国境なき医師団(MSF)の緊急対応コーディネーターとして8月から9月にかけてガザ地区での活動を統括した萩原健はこう語る。

「1年はあまりにも長い。ガザ地区は昼夜空爆にさらされ安全な場所はなく、移動も制限され、人びとは疲弊しきっています。医薬品や水など、生きるための命綱が他者の手に握られ、人間としての尊厳が奪われている状況です。ガザにはまもなく冬が到来します。この人道危機をこれ以上続けてはなりません。即時かつ持続的な停戦が必要です」
機能している医療施設は半数以下
人口密集地への空爆などで多くの人が大やけどや大けがを負っている。昨年10月以来、MSFは2万7500人余りの負傷者を治療してきたが、その80%余りが砲撃によるものであった。

MSFの医療オペレーション・マネジャー、アンバー・アリヤン医師は「物資が足りず、麻酔なしでの手術を余儀なくされることもありました。病院の床で子どもたちが死んでいく姿も目にしました。そのような中で、ガザの医療システムはイスラエル軍によって組織的に破壊されているのです」と憤る。

昨年10月の前からMSFは、イスラエルによる占領、および17年にわたる封鎖、度重なる攻撃による被害を受けた人びとの医療援助にあたってきた。長期にわたって体に影響を与える負傷や、心の不調、重度のやけどなどである。しかし、昨年10月以来、攻撃により医療ニーズは急増する一方で、人びとの医療へのアクセスは非常に限られてきた。

ガザ地区に36カ所あった病院のうち、現在、部分的に機能しているのは17カ所にとどまる(*2)。医療施設の近くでも戦闘が行われるため、患者や付き添い、医療スタッフにも危険は及ぶ。MSFでも、昨年10月7日以降、6人のスタッフの命が奪われた。また、これまでにMSFは、戦闘などのため14カ所の医療施設からの避難を余儀なくされた。医療施設から避難するということは、患者が救命医療を受けられなくなることを意味し、人びとの健康に長期にわたって影響を及ぼす危険がある。

ガザ南部・ラファの病院で負傷者のケアにあたるスタッフ=2024年1月28日 (C) MSF

届かない物資 膨大な医療ニーズに対応できず
医療を受けづらい状況に追い打ちをかけているのが、人道物資の不足だ。イスラエル当局は物資の搬入許可に関して、不明瞭で予測不可能な基準を課している。また、ガザ地区に物資を搬入できても安全な経路はなく、戦闘や略奪などによって目的地に届かないことが多い。

アリヤン医師はこう語る。「医療ニーズが高まる一方で、MSFの対応は限定的にならざるを得ません。ガザに十分な人道・医療物資を運びこめないからです。

MSFは最近ガザに仮設病院を2カ所設置しましたが、それは医療の破壊に対する応急処置にすぎません。資機材の調達が制限されることで、その準備さえも妨げられています。現状では、稼働中の医療施設で膨大なニーズに対応することは不可能です」

度重なる退避要求によって、住民の90%が「安全」とされる地域に避難させられたが、イスラエルはそこへも何度も空爆を繰り返してきた。避難所も食料も水も限られる中、人びとは41平方キロメートル(*3)という狭い場所に押し込められ、過密状態による病気のリスクが高まっている。

また、ガザ地区の約200万人のうち、少なくとも1万2000人が医療搬送を必要としている(*4)。そうした人びとの医療搬送と、安全を求めてガザ地区を離れることを希望するパレスチナ人の権利は、帰還の権利を損なうことなく、認められなければならない。
即時かつ持続的な停戦を
MSFインターナショナル事務局長のクリストファー・ロックイヤーはこう語る。

「この1年間、大勢の子どもが殺され、避難所が砲撃を受け、戦闘機がいわゆる『人道地域』を爆撃する中、イスラエルの同盟国はイスラエルへの軍事支援を続けてきました。これは、ガザの人びとから人間性をはぎ取るもので、軍事目標と民間人の命を区別しないものだと社会から評されています。これ以上命が奪われるのを止める唯一の方法は、即時かつ持続的な停戦です」

イスラエルの同盟国は、これまで何度も人命より政治的な忠誠を優先してきた。停戦の重要性やガザへの援助拡大の必要性を公言する一方で、イスラエルへの武器供与を続けている。特に米国は、停戦を呼びかける一方で国連安全保障理事会の場で停戦協議を妨害し続けてきた。

ガザでの紛争激化は地域の緊張をあおり、その緊張は悲惨なまでに高まっている。イスラエルの攻撃はヨルダン川西岸地区でも激化し、現在はレバノンでも民間人に壊滅的な打撃を与えている。
MSFが求めること
- 持続的な停戦を今すぐ行うこと
- 民間人の大量殺害を今すぐ止めること
- 医療と民間インフラの破壊を今すぐ止めること
- ガザの封鎖を解除すること
- ラファ検問所を含む主な陸路境界を開放し、大規模な人道・医療援助を、必要な人びとへ届けられるようにすること
- 専門治療が必要な人の医療搬送(ケアをする人も同行)と、ガザの外に安全を求める人の自由を認め、全ての人に安全かつ自発的、尊厳ある形でガザに帰還できるよう保証すること
- 国連安保理は世界の平和と安全を保証する役割を果たして停戦を実現させ、ガザの破壊が続く現状を終わらせること

*1 国際連合人道問題調整事務所(OCHA) 2024年9月30日
*2 国際連合人道問題調整事務所(OCHA) 2024年9月23日
*3 国際連合人道問題調整事務所(OCHA) 2024年8月26日
*4 世界保健機関(WHO) 2024年9月29日


ガザ南部・ラファのテントで避難生活を送る子どもたち=2024年1月28日 (C) MSF

【訂正】本文中で「昨年10月の前からMSFは、イスラエルによる17年にわたる占領、封鎖、度重なる攻撃による被害を受けた人びとの医療援助にあたってきた」と記載していましたが、「昨年10月の前からMSFは、イスラエルによる占領、および17年にわたる封鎖、度重なる攻撃による被害を受けた人びとの医療援助にあたってきた」に訂正しました。(2024年10月4日更新)
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