日本独自の認知症早期発見・早期介入モデルの確立に向けた大規模実証研究を開始しました (J-DEPP研究)
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
2024年11月21日
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(理事長:荒井 秀典。以下 国立長寿医療研究センター)は、東北大学、鳥取大学、鹿児島大学、秋田大学、神戸大学、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所、札幌医科大学、東京都健康長寿医療センターと共同で、日本独自の認知症早期発見・早期介入モデルの確立に向けた大規模実証研究「J-DEPP研究(JAPAN DEMENTIA EARLY PHASE PROJECT)」を開始しました。
研究の背景
認知症は認知機能が正常な状態から徐々に記憶力や判断力が低下し、日常生活に支障をきたすようになる状態のことをいいます。現在、認知症に対する根本的な治療法はまだ確立されていませんが、認知症と診断される前段階あるいは初期の段階であれば運動習慣や食生活の改善などにより認知機能低下の進行を抑えることが可能です。また、最近ではアルツハイマー病に対する抗アミロイドβ抗体薬の臨床応用が進んでいます。このような薬物治療は早期のアルツハイマー病の人を対象としており、認知症のリスクをできるだけ早期に発見し、適切な医療やケア等の診断後支援につなげることの重要性がかつてないほど高まっています。初期のがんに対しては検診を通して早期の段階で発見する体制が広く普及していますが、認知症のリスクを発見する方法は未だ確立されていません。
研究の概要
J-DEPP研究(JAPAN DEMENTIA EARLY PHASE PROJECT)では日本独自の認知症早期発見・診断後支援までを含めた一貫した支援モデルの構築に向けて以下の3つの課題に取り組みます:
- 認知症リスク早期発見の大規模実証
- 認知症リスクを調べるための検査の基準値の設定
- 認知症リスク早期発見に向けた血液バイオマーカー※1の有用性の検証
これらの成果を統合し、最終的には各自治体に参考にしていただける「認知症リスク早期発見のための手引き」を作成します。
認知症リスク早期発見の大規模実証
認知症リスクの早期発見のために適切かつ効果的なスクリーニング検査受検の呼びかけ方法、スクリーニング検査の実施方法、病院受診を促す方法を検討します。
研究班は、全国41の自治体と協力し、計10,000名以上の高齢者の方にご参加いただいて各自治体の特性に合わせた様々な方法でスクリーニング検査を実施します。また、詳細な検査が必要と判断された方には病院での受診を促します。さらに数カ月後に追跡調査を行い、実際に病院を受診されたかどうかや、受診後の予防に向けた活動あるいは、地域包括支援センターや認知症カフェ等の地域資源との連携を含む診断後支援(本人・家族支援)の実態を調査します(図1)。これにより、日本のそれぞれの地域において適切なスクリーニング検査の実施方法、住民への呼びかけ方法を検討するとともに医療機関の受診、予防に向けた活動を妨げている原因を明らかにします。
図1.大規模実証の全体像
認知症リスクを調べるための検査の基準値の設定
研究班では愛知県と宮城県からおよそ500名ずつ、合計約1,000名の高齢者の方にご参加いただいて、複数の認知機能スクリーニング検査を実施し、検査間で認知機能低下の判定結果に差異が生じないような基準値を明らかにします。
これにより各自治体が地域の特性に合わせて異なる認知機能スクリーニング検査を選択しても、全国で統一的な基準で病院受診を推奨できるようになることを目指します。
認知症リスク早期発見に向けた血液バイオマーカーの有用性の検証
地域でスクリーニングされた認知機能低下の疑いのある方を対象に、認知症に関連した血液バイオマーカーの検査を行います(研究参加への同意が必要)。通常の診察や脳MRI等の検査で診断した場合と、これに血液バイオマーカーの情報を加えた場合の診断精度の違い、特にアルツハイマー病の抗アミロイドβ抗体薬(レカネマブ・ドナネマブ等)の治療薬使用の対象者選定にどの程度有用なのかを明らかにしていきます。
また、上述の1,000名を対象にした「認知機能のスクリーニング検査の標準化」の研究と血液バイオマーカーを組み合わせて、認知症のリスク保有者を早期、かつ高精度に発見する方法を開発していきます。
研究の意義
認知症リスクをできるだけ早い段階で発見し、適切な医療に繋げること、あるいは予防に向けて生活習慣を見直すことは、認知症の発症を抑制する鍵となります。本研究によって効果的な「認知症早期発見・早期介入モデル」を確立できれば、将来的に全国の自治体での事業として展開されることが期待されます。
認知症に対する抵抗感を軽減し、早期発見・早期治療の考え方が医療従事者や行政だけでなく、個々人に浸透することが本研究の成功における大きな目標です。これにより、認知症対策がさらなる進展を遂げると考えています。
用語解説
1. バイオマーカー: 病気の有無や進行の状態を客観的に示す指標のことで、体液(血液、脳脊髄液、尿等)の検査や、画像検査等で得られるデータをバイオマーカーといいます。近年、アルツハイマー病の原因と考えられているタンパク質(アミロイドβやリン酸化タウ)を血液中から検出する技術が飛躍的に向上しており、血液でこのような物質を調べることで、認知症の診断の補助や、将来認知症を発症するリスクを予測できると期待されています。
本研究は令和5年度厚生労働行政推進調査事業費補助金(認知症政策研究事業)の支援のもと実施されています。
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2024年11月21日
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(理事長:荒井 秀典。以下 国立長寿医療研究センター)は、東北大学、鳥取大学、鹿児島大学、秋田大学、神戸大学、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所、札幌医科大学、東京都健康長寿医療センターと共同で、日本独自の認知症早期発見・早期介入モデルの確立に向けた大規模実証研究「J-DEPP研究(JAPAN DEMENTIA EARLY PHASE PROJECT)」を開始しました。
研究の背景
認知症は認知機能が正常な状態から徐々に記憶力や判断力が低下し、日常生活に支障をきたすようになる状態のことをいいます。現在、認知症に対する根本的な治療法はまだ確立されていませんが、認知症と診断される前段階あるいは初期の段階であれば運動習慣や食生活の改善などにより認知機能低下の進行を抑えることが可能です。また、最近ではアルツハイマー病に対する抗アミロイドβ抗体薬の臨床応用が進んでいます。このような薬物治療は早期のアルツハイマー病の人を対象としており、認知症のリスクをできるだけ早期に発見し、適切な医療やケア等の診断後支援につなげることの重要性がかつてないほど高まっています。初期のがんに対しては検診を通して早期の段階で発見する体制が広く普及していますが、認知症のリスクを発見する方法は未だ確立されていません。
研究の概要
J-DEPP研究(JAPAN DEMENTIA EARLY PHASE PROJECT)では日本独自の認知症早期発見・診断後支援までを含めた一貫した支援モデルの構築に向けて以下の3つの課題に取り組みます:
- 認知症リスク早期発見の大規模実証
- 認知症リスクを調べるための検査の基準値の設定
- 認知症リスク早期発見に向けた血液バイオマーカー※1の有用性の検証
これらの成果を統合し、最終的には各自治体に参考にしていただける「認知症リスク早期発見のための手引き」を作成します。
認知症リスク早期発見の大規模実証
認知症リスクの早期発見のために適切かつ効果的なスクリーニング検査受検の呼びかけ方法、スクリーニング検査の実施方法、病院受診を促す方法を検討します。
研究班は、全国41の自治体と協力し、計10,000名以上の高齢者の方にご参加いただいて各自治体の特性に合わせた様々な方法でスクリーニング検査を実施します。また、詳細な検査が必要と判断された方には病院での受診を促します。さらに数カ月後に追跡調査を行い、実際に病院を受診されたかどうかや、受診後の予防に向けた活動あるいは、地域包括支援センターや認知症カフェ等の地域資源との連携を含む診断後支援(本人・家族支援)の実態を調査します(図1)。これにより、日本のそれぞれの地域において適切なスクリーニング検査の実施方法、住民への呼びかけ方法を検討するとともに医療機関の受診、予防に向けた活動を妨げている原因を明らかにします。
図1.大規模実証の全体像
認知症リスクを調べるための検査の基準値の設定
研究班では愛知県と宮城県からおよそ500名ずつ、合計約1,000名の高齢者の方にご参加いただいて、複数の認知機能スクリーニング検査を実施し、検査間で認知機能低下の判定結果に差異が生じないような基準値を明らかにします。
これにより各自治体が地域の特性に合わせて異なる認知機能スクリーニング検査を選択しても、全国で統一的な基準で病院受診を推奨できるようになることを目指します。
認知症リスク早期発見に向けた血液バイオマーカーの有用性の検証
地域でスクリーニングされた認知機能低下の疑いのある方を対象に、認知症に関連した血液バイオマーカーの検査を行います(研究参加への同意が必要)。通常の診察や脳MRI等の検査で診断した場合と、これに血液バイオマーカーの情報を加えた場合の診断精度の違い、特にアルツハイマー病の抗アミロイドβ抗体薬(レカネマブ・ドナネマブ等)の治療薬使用の対象者選定にどの程度有用なのかを明らかにしていきます。
また、上述の1,000名を対象にした「認知機能のスクリーニング検査の標準化」の研究と血液バイオマーカーを組み合わせて、認知症のリスク保有者を早期、かつ高精度に発見する方法を開発していきます。
研究の意義
認知症リスクをできるだけ早い段階で発見し、適切な医療に繋げること、あるいは予防に向けて生活習慣を見直すことは、認知症の発症を抑制する鍵となります。本研究によって効果的な「認知症早期発見・早期介入モデル」を確立できれば、将来的に全国の自治体での事業として展開されることが期待されます。
認知症に対する抵抗感を軽減し、早期発見・早期治療の考え方が医療従事者や行政だけでなく、個々人に浸透することが本研究の成功における大きな目標です。これにより、認知症対策がさらなる進展を遂げると考えています。
用語解説
1. バイオマーカー: 病気の有無や進行の状態を客観的に示す指標のことで、体液(血液、脳脊髄液、尿等)の検査や、画像検査等で得られるデータをバイオマーカーといいます。近年、アルツハイマー病の原因と考えられているタンパク質(アミロイドβやリン酸化タウ)を血液中から検出する技術が飛躍的に向上しており、血液でこのような物質を調べることで、認知症の診断の補助や、将来認知症を発症するリスクを予測できると期待されています。
本研究は令和5年度厚生労働行政推進調査事業費補助金(認知症政策研究事業)の支援のもと実施されています。
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(2024/11/21 10:00)
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