【武蔵野大学】ユーグレナ社との共同研究で、エルゴチオネインが神経細胞保護作用により、パーキンソン病の発症と進行に対する予防効果を有する可能性を示す研究結果を確認
学校法人武蔵野大学
武蔵野大学薬学部薬学科(東京都西東京市、学長:西本 照真)の田中 健一郎准教授と株式会社ユーグレナ(本社:東京都港区、代表取締役社長:出雲 充)は、共同研究により、抗酸化作用※1をもつ化合物であるエルゴチオネイン※2が、パーキンソン病※3の発症と進行に対する予防効果を有する可能性を示す研究結果を確認しました。なお、本研究成果は、2024年1月25日に国際学術雑誌『Cells』のオンライン版に掲載されました(https://www.mdpi.com/2073-4409/13/3/230)。また、2024年3月28日~31日に開催された日本薬学会第144年会※4にて発表を行いました。 今後は、エルゴチオネインの神経細胞保護に関する更に詳細な分子メカニズムの解明や、エルゴチオネインを高含有する食品の開発や商品化を推進し、 パーキンソン病をはじめとする病気の予防やヒトの健康維持の実現に資するよう取り組んでいきます。
※1 抗酸化作用:活性酸素種(通常の酸素分子よりも反応性が高い酸素化合物種)による有害な作用を減弱または除去する作用のことで、酸化力の高い活性酸素種が体内で過度に作用してDNAやタンパク質が傷つくと、老化の促進や疾患のリスクが高まるとされている
※2 エルゴチオネイン:キノコ類や一部の微生物に含まれる強い抗酸化作用をもつアミノ酸誘導体の一種
※3 パーキンソン病:進行性の神経変性疾患で、手の震えや動作・歩行の困難などの運動障害をきたす
※4 日本薬学会第144年会:https://confit.atlas.jp/guide/event/pharm144/top
【本件の内容】
■ 研究の背景と目的
パーキンソン病とは、高齢になるほど発症率が増加する神経変性の難病です。日本では、その患者数が増加の一途を辿っており、2022年度の調査によると患者総数は約14万人にのぼります※5。本疾患について、症状を緩和したり進行を遅延させる治療法はありますが、根本的な治療法はまだ存在せず、その発症メカニズムの精緻な理解や予防・治療法が求められています。
パーキンソン病の発症や増悪※6に関与する重要なメカニズムの一つとして神経細胞死が知られており、活性酸素種の過剰産生によって引き起こされる酸化ストレスは、神経細胞死の主な原因となります。そのため、酸化ストレスによる神経細胞死を予防できる化合物は、パーキンソン病の予防法として有望だと考えられています。
ユーグレナ社では、2020年10月に「エルゴチオネイン・セレノネイン研究会」を発足し、エルゴチオネインの機能性について研究を行ってきました。一般に、エルゴチオネインは硫黄原子と炭素原子が二重結合したチオン基の分子構造(図1)を有し、熱やpHの変化に対して比較的安定な化合物です。
また、ヒドロキシラジカルのような毒性の高い活性酸素種と反応して、これを消去することが可能なため、高い抗酸化作用があります。エルゴチオネインは、肝臓、腎臓、脳、赤血球など、ヒトの体内に広く存在していますがヒトは生合成することができないため、食品やサプリメント等から摂取する必要があります。近年、エルゴチオネインを細胞内に取り込む機能を持つ細胞膜タンパク質としてOCTN1が発見され、体内におけるエルゴチオネインの生物学的機能が注目されるようになりました。例えば、マウスの海馬におけるアミロイドβ依存性の神経細胞傷害がもたらすアミロイドβの蓄積や脂質過酸化、更には記憶力や学習能力の低下作用について、エルゴチオネインの経口投与による抑制効果が示されています。また、ラットの脳卒中モデルの試験では、エルゴチオネインの脳室内投与または腹腔内投与が、脳梗塞容積の減少や神経保護の効果を発揮することが示されています。これらの研究事例以外にも、エルゴチオネインの効果・効能に関わる多様な研究データが集積しつつあり、ヒトの健康の維持や促進に大きく貢献する有益な成分と考えられています。しかし、パーキンソン病をモデルとした実験系におけるエルゴチオネインの細胞保護機能に関する知見はありませんでした。
そこで本研究では、不死化視床下部神経細胞※7において、パーキンソン病様症状を誘発する神経毒である6-ヒドロキシドーパミン(以下「6-OHDA」)依存の神経細胞死に対する保護効果として、エルゴチオネインの有効性を解析および検証しました。
※5 「令和4年度(2022年度)衛生行政報告例」における「第10章 難病・小児慢性特定疾病の特定医療費(指定難病)受給者証所持者数,年齢階級・対象疾患別」中の「パーキンソン病」の該当者数より推計(政府統計)
※6 増悪:症状が悪化すること
※7 不死化視床下部神経細胞:遺伝子導入技術を用いてほぼ無限の増殖能を獲得したマウス由来視床下部神経細胞株であり、培養で増殖させることが可能な点と、神経細胞としての性質も保持している点から、神経細胞のモデル実験系において広く使用される
■ 研究の内容と結果
シャーレにて不死化視床下部神経細胞を培養し、そこに6-OHDAを添加すると、活性酸素種の過剰産生と神経細胞死の誘導が確認されました。一方、エルゴチオネインも同時に添加した場合には活性酸素種の過剰産生が抑制され、6-OHDA依存の神経細胞死も顕著に抑制されることが明らかになりました(図2)。
図2. エルゴチオネインの神経細胞保護作用.
不死化視床下部神経細胞をエルゴチオネイン(0.06-1.0 mmol/L)で前処理し、6-OHDA(40 μmol/L)の非存在下(コントロール)または存在下で24時間インキュベートした。細胞生存率(%)データを平均値±標準誤差で表す(n =4)。**; t 検定でp値 < 0.01 (対コントロール)。##; Dunnett検定でp値 < 0.01 (対6-OHDA(40 μmol/L)のみ)。
また、このようなエルゴチオネインの神経細胞保護作用は、OCTN1(エルゴチオネインを細胞内に取り込む機能をもつ細胞膜タンパク質)の阻害剤※8であるベラパミル※9を添加した場合には弱まることも明らかになりました(図3)。よって、上記のエルゴチオネインの神経細胞保護作用にはOCTN1が重要な役割を果たしていることが示唆されました。
※8 阻害剤:タンパク質の機能や活性を阻害する物質
※9 ベラパミル:不整脈、狭心症、心筋梗塞などの治療に使用される薬剤であり、ジヒドロピリジン系の化合物
図3. エルゴチオネインの神経細胞保護効果におけるOCTN1の関与.
不死化視床下部神経細胞をベラパミル(100 μmol/L)で前処理した。培地交換後、細胞をエルゴチオネイン(0.5または1.0 mmol/L)で前処理し、6-OHDA(40 μmol/L)の非存在下(コントロール)または存在下で24時間インキュベートした。細胞生存率(%)データを平均値±標準誤差で表す(n = 4)。n.s.; 有意ではない。** ; Dunnett検定でp値 < 0.01 (コントロール対ベラパミル(100 μmol/L))。
以上の結果から、エルゴチオネインは、神経細胞保護作用をもち、パーキンソン病の発症と進行を予防する効果的な方法の1つになる可能性があると考えられます。
今後は、エルゴチオネインの神経細胞保護に関する更に詳細な分子メカニズムの解明や、エルゴチオネインを高含有する食品の開発や商品化を推進し、 パーキンソン病をはじめとする病気の予防やヒトの健康維持の実現に資するよう取り組んでいきます。
【武蔵野大学について】
1924年に仏教精神を根幹にした人格教育を理想に掲げ、武蔵野女子学院を設立。武蔵野女子大学を前身とし、2003年に武蔵野大学に名称変更。2004年の男女共学化以降、大学改革を推進し13学部21学科、13大学院研究科、通信教育部など学生数13,000人超の総合大学に発展。2019年に国内私立大学初のデータサイエンス学部を開設。2021年に国内初のアントレプレナーシップ学部を開設し、「AI活用」「SDGs」を必修科目とした全学共通基礎課程「武蔵野INITIAL」をスタートさせる。2023年には国内初のサステナビリティ学科、2024年には世界初のウェルビーイング学部を開設。2024年の創立100周年とその先の2050年の未来に向けてクリエイティブな人材を育成するため、大学改革を進めている。
武蔵野大学HP:https://www.musashino-u.ac.jp/
【株式会社ユーグレナについて】
2005年に世界で初めて微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の食用屋外大量培養技術の確立に成功。「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」をユーグレナ・フィロソフィーと定義し、微細藻類ユーグレナ、クロレラなどを活用した食品、化粧品等の開発・販売、バイオ燃料の製造開発、遺伝子解析サービスの提供、未利用資源等を活用したサステナブルアグリテック領域などの事業を展開。2014年より、バングラデシュの子どもたちに豊富な栄養素を持つユーグレナクッキーを届ける「ユーグレナGENKIプログラム」を、継続的に実施している。(HP:https://euglena.jp)
―報道機関からのお問合せ―
■学校法人武蔵野大学
経営企画部 広報課:上別府・右原
TEL:(03)5530-7403
E-mail:kouhou@musashino-u.ac.jp
■株式会社ユーグレナ
広報宣伝部:芦田・本間
TEL:(03)3454-4907
E-mail:press@euglena.jp
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武蔵野大学薬学部薬学科(東京都西東京市、学長:西本 照真)の田中 健一郎准教授と株式会社ユーグレナ(本社:東京都港区、代表取締役社長:出雲 充)は、共同研究により、抗酸化作用※1をもつ化合物であるエルゴチオネイン※2が、パーキンソン病※3の発症と進行に対する予防効果を有する可能性を示す研究結果を確認しました。なお、本研究成果は、2024年1月25日に国際学術雑誌『Cells』のオンライン版に掲載されました(https://www.mdpi.com/2073-4409/13/3/230)。また、2024年3月28日~31日に開催された日本薬学会第144年会※4にて発表を行いました。 今後は、エルゴチオネインの神経細胞保護に関する更に詳細な分子メカニズムの解明や、エルゴチオネインを高含有する食品の開発や商品化を推進し、 パーキンソン病をはじめとする病気の予防やヒトの健康維持の実現に資するよう取り組んでいきます。
※1 抗酸化作用:活性酸素種(通常の酸素分子よりも反応性が高い酸素化合物種)による有害な作用を減弱または除去する作用のことで、酸化力の高い活性酸素種が体内で過度に作用してDNAやタンパク質が傷つくと、老化の促進や疾患のリスクが高まるとされている
※2 エルゴチオネイン:キノコ類や一部の微生物に含まれる強い抗酸化作用をもつアミノ酸誘導体の一種
※3 パーキンソン病:進行性の神経変性疾患で、手の震えや動作・歩行の困難などの運動障害をきたす
※4 日本薬学会第144年会:https://confit.atlas.jp/guide/event/pharm144/top
【本件の内容】
■ 研究の背景と目的
パーキンソン病とは、高齢になるほど発症率が増加する神経変性の難病です。日本では、その患者数が増加の一途を辿っており、2022年度の調査によると患者総数は約14万人にのぼります※5。本疾患について、症状を緩和したり進行を遅延させる治療法はありますが、根本的な治療法はまだ存在せず、その発症メカニズムの精緻な理解や予防・治療法が求められています。
パーキンソン病の発症や増悪※6に関与する重要なメカニズムの一つとして神経細胞死が知られており、活性酸素種の過剰産生によって引き起こされる酸化ストレスは、神経細胞死の主な原因となります。そのため、酸化ストレスによる神経細胞死を予防できる化合物は、パーキンソン病の予防法として有望だと考えられています。
ユーグレナ社では、2020年10月に「エルゴチオネイン・セレノネイン研究会」を発足し、エルゴチオネインの機能性について研究を行ってきました。一般に、エルゴチオネインは硫黄原子と炭素原子が二重結合したチオン基の分子構造(図1)を有し、熱やpHの変化に対して比較的安定な化合物です。
また、ヒドロキシラジカルのような毒性の高い活性酸素種と反応して、これを消去することが可能なため、高い抗酸化作用があります。エルゴチオネインは、肝臓、腎臓、脳、赤血球など、ヒトの体内に広く存在していますがヒトは生合成することができないため、食品やサプリメント等から摂取する必要があります。近年、エルゴチオネインを細胞内に取り込む機能を持つ細胞膜タンパク質としてOCTN1が発見され、体内におけるエルゴチオネインの生物学的機能が注目されるようになりました。例えば、マウスの海馬におけるアミロイドβ依存性の神経細胞傷害がもたらすアミロイドβの蓄積や脂質過酸化、更には記憶力や学習能力の低下作用について、エルゴチオネインの経口投与による抑制効果が示されています。また、ラットの脳卒中モデルの試験では、エルゴチオネインの脳室内投与または腹腔内投与が、脳梗塞容積の減少や神経保護の効果を発揮することが示されています。これらの研究事例以外にも、エルゴチオネインの効果・効能に関わる多様な研究データが集積しつつあり、ヒトの健康の維持や促進に大きく貢献する有益な成分と考えられています。しかし、パーキンソン病をモデルとした実験系におけるエルゴチオネインの細胞保護機能に関する知見はありませんでした。
そこで本研究では、不死化視床下部神経細胞※7において、パーキンソン病様症状を誘発する神経毒である6-ヒドロキシドーパミン(以下「6-OHDA」)依存の神経細胞死に対する保護効果として、エルゴチオネインの有効性を解析および検証しました。
※5 「令和4年度(2022年度)衛生行政報告例」における「第10章 難病・小児慢性特定疾病の特定医療費(指定難病)受給者証所持者数,年齢階級・対象疾患別」中の「パーキンソン病」の該当者数より推計(政府統計)
※6 増悪:症状が悪化すること
※7 不死化視床下部神経細胞:遺伝子導入技術を用いてほぼ無限の増殖能を獲得したマウス由来視床下部神経細胞株であり、培養で増殖させることが可能な点と、神経細胞としての性質も保持している点から、神経細胞のモデル実験系において広く使用される
■ 研究の内容と結果
シャーレにて不死化視床下部神経細胞を培養し、そこに6-OHDAを添加すると、活性酸素種の過剰産生と神経細胞死の誘導が確認されました。一方、エルゴチオネインも同時に添加した場合には活性酸素種の過剰産生が抑制され、6-OHDA依存の神経細胞死も顕著に抑制されることが明らかになりました(図2)。
図2. エルゴチオネインの神経細胞保護作用.
不死化視床下部神経細胞をエルゴチオネイン(0.06-1.0 mmol/L)で前処理し、6-OHDA(40 μmol/L)の非存在下(コントロール)または存在下で24時間インキュベートした。細胞生存率(%)データを平均値±標準誤差で表す(n =4)。**; t 検定でp値 < 0.01 (対コントロール)。##; Dunnett検定でp値 < 0.01 (対6-OHDA(40 μmol/L)のみ)。
また、このようなエルゴチオネインの神経細胞保護作用は、OCTN1(エルゴチオネインを細胞内に取り込む機能をもつ細胞膜タンパク質)の阻害剤※8であるベラパミル※9を添加した場合には弱まることも明らかになりました(図3)。よって、上記のエルゴチオネインの神経細胞保護作用にはOCTN1が重要な役割を果たしていることが示唆されました。
※8 阻害剤:タンパク質の機能や活性を阻害する物質
※9 ベラパミル:不整脈、狭心症、心筋梗塞などの治療に使用される薬剤であり、ジヒドロピリジン系の化合物
図3. エルゴチオネインの神経細胞保護効果におけるOCTN1の関与.
不死化視床下部神経細胞をベラパミル(100 μmol/L)で前処理した。培地交換後、細胞をエルゴチオネイン(0.5または1.0 mmol/L)で前処理し、6-OHDA(40 μmol/L)の非存在下(コントロール)または存在下で24時間インキュベートした。細胞生存率(%)データを平均値±標準誤差で表す(n = 4)。n.s.; 有意ではない。** ; Dunnett検定でp値 < 0.01 (コントロール対ベラパミル(100 μmol/L))。
以上の結果から、エルゴチオネインは、神経細胞保護作用をもち、パーキンソン病の発症と進行を予防する効果的な方法の1つになる可能性があると考えられます。
今後は、エルゴチオネインの神経細胞保護に関する更に詳細な分子メカニズムの解明や、エルゴチオネインを高含有する食品の開発や商品化を推進し、 パーキンソン病をはじめとする病気の予防やヒトの健康維持の実現に資するよう取り組んでいきます。
【武蔵野大学について】
1924年に仏教精神を根幹にした人格教育を理想に掲げ、武蔵野女子学院を設立。武蔵野女子大学を前身とし、2003年に武蔵野大学に名称変更。2004年の男女共学化以降、大学改革を推進し13学部21学科、13大学院研究科、通信教育部など学生数13,000人超の総合大学に発展。2019年に国内私立大学初のデータサイエンス学部を開設。2021年に国内初のアントレプレナーシップ学部を開設し、「AI活用」「SDGs」を必修科目とした全学共通基礎課程「武蔵野INITIAL」をスタートさせる。2023年には国内初のサステナビリティ学科、2024年には世界初のウェルビーイング学部を開設。2024年の創立100周年とその先の2050年の未来に向けてクリエイティブな人材を育成するため、大学改革を進めている。
武蔵野大学HP:https://www.musashino-u.ac.jp/
【株式会社ユーグレナについて】
2005年に世界で初めて微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の食用屋外大量培養技術の確立に成功。「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」をユーグレナ・フィロソフィーと定義し、微細藻類ユーグレナ、クロレラなどを活用した食品、化粧品等の開発・販売、バイオ燃料の製造開発、遺伝子解析サービスの提供、未利用資源等を活用したサステナブルアグリテック領域などの事業を展開。2014年より、バングラデシュの子どもたちに豊富な栄養素を持つユーグレナクッキーを届ける「ユーグレナGENKIプログラム」を、継続的に実施している。(HP:https://euglena.jp)
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TEL:(03)5530-7403
E-mail:kouhou@musashino-u.ac.jp
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(2024/06/04 15:30)
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