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便秘改善で肛門も快適!
~腸内環境を整える簡単メソッド~ 【第5回】

 便秘は痔の最大の敵です。便秘が続くと腸内の内容物が硬くなり、排便時に強い力を入れる必要が生じます。便秘による息みは肛門に過剰な負担をかけ、痔核の悪化や裂肛の原因となります。しかし、適切な腸内環境の整え方を知れば、便秘は防ぐことができます。

 今回は、腸内環境を整えるための簡単な方法を紹介し、痔の予防に役立つ食事や生活習慣について詳しく解説します。

便秘の改善は痔の予防につながる(イメージ)

便秘の改善は痔の予防につながる(イメージ)

 便秘と痔の深い関係

 便秘とは、排便の回数が少ない・便が硬い・排便時に強い息みが必要とされる状態を指します。この便秘が痔の発症や悪化にどのように関与しているかを理解することが、予防の第一歩です。

 (便秘が痔を引き起こすメカニズム)

 便秘状態が続くと、便は腸内での滞留時間が長くなり、水分を失って硬くなります。硬い便を排出するために、私たちは自然と力を入れます。しかし、この息みが肛門の血管に圧力をかけ、血行不良や静脈のうっ血を引き起こします。その結果、痔が発生するリスクが高まるのです。

 ・硬い便が肛門を傷つける:裂肛(切れ痔)の直接的な原因になります。

 ・息みによる圧力:内痔核が押し出され、悪化する要因となります。

 ・便秘と血流障害:長時間の息みは肛門周囲の血流を悪化させ、外痔核の腫れや痛みを引き起こします。

 つまり、便秘を改善することは、痔の予防にもつながります。腸内環境を整えて便の状態を軟らかく保つことが重要です。

 では、具体的にどのようにして腸内環境を整えればよいのでしょうか。ここからは、日常生活の中で行える腸内環境の改善方法を解説します。

 腸内環境を整える4つのステップ

 1. 食物繊維をしっかり摂取

 腸内環境を整えるためには食物繊維が欠かせません。食物繊維は腸の働きを助け、便通を改善するだけでなく、腸内の善玉菌を育てる重要な役割を果たします。食物繊維には水溶性と不溶性の2種類があり、どちらも腸の健康を保つ効果があります。

 ・水溶性食物繊維~オートミール、海藻、果物(キウイ、リンゴ)など

 ・不溶性食物繊維~ゴボウ、サツマイモ、豆類、ナッツなど

 急激に摂取量を増やすとガスがたまりやすくなるため、少しずつ増やしていきましょう。

 2. 十分な水分補給

 便秘の多くは水分不足が原因です。一日1.5〜2リットルの水分摂取を目指しましょう。朝起きたらコップ1杯の水で腸を刺激し、食事中にも小まめに水分補給しましょう。

 3. 発酵食品で腸内環境を改善

 腸内の善玉菌を増やすことで、便通がスムーズになります。例えば、朝食にヨーグルトを加えたり、納豆を夕食に取り入れたりすることで自然と発酵食品を摂取できます。また、料理にみそやキムチを使うことで消化吸収を助けながら腸内環境を改善できます。

 4. 適度な運動

 運動不足は腸の蠕動(ぜんどう)運動を低下させます。毎日20〜30分でよいのでウオーキングしたり、難しければストレッチや腹筋運動をしたりするだけでも効果的です。

食事は腸内環境を整える大きなカギ(イメージ)

食事は腸内環境を整える大きなカギ(イメージ)

 ◇日常生活での工夫

 日常生活の中でのちょっとした工夫によっても便秘を改善することが可能です。腸内環境を整えるために取り入れやすい方法をご紹介します。

 1. 朝の「排便ルーティン」

 朝食後は「腸のゴールデンタイム」。この時間帯にトイレへ行く習慣を。便意がなくても座ることで、排便反射が促されます。

 2. 水分摂取の工夫

 さゆや温かいお茶で腸を温めると、便意が出やすくなります。カフェイン飲料は利尿作用があり、過剰摂取は逆効果になります。

 3. 食事の見直し

 朝食は必ず摂取する:腸を目覚めさせ、便意を促します。

 高脂肪・高糖質の食事便秘を悪化させるため控えめに。

 (便秘対策におすすめのレシピ)

 食事は腸内環境を整える大きなカギとなります。ここでは、便秘改善に効果的な食材を使用した、お勧めのレシピを幾つかご紹介します。簡単に作れるものばかりなので、ぜひ試してみてください。

 ・発酵食と食物繊維たっぷりのサラダ

 材料:納豆、アボカド、海藻、オリーブオイル、レモン汁

 効果:食物繊維と発酵食品の組み合わせで腸内環境を改善

 ・野菜たっぷりみそスープ

 材料:キャベツ、ニンジン、玉ねぎ、みそ、豆腐

 効果:温かい汁物は腸の動きを活発化させます。

 (便秘薬についての正しい知識)

 便秘薬は「最後の手段」として使うべきですが、正しい知識が必要です。

 ・腸を強制的に動かす薬(例:センナ、大黄)

 長期使用は腸の働きを鈍らせ、「薬なしでは出ない体」に依存することも

 ・お勧めは「非刺激性下剤」

 酸化マグネシウム:便に水分を引き込んで軟らかくする

 ラクツロースシロップ:善玉菌を増やす作用があり、自然な便通を促進

 便秘薬の使用は短期間にとどめ、根本的な生活改善を目指しましょう。

 便秘が続く場合の対処

 次のような症状がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

 ・便秘が2週間以上続く

 ・強い腹痛や吐き気がある

 ・便に血が混じる、急激な体重減少

 ・便意があるのに出ない(直腸に便が詰まっている可能性)

 これらは重大な疾患(腸閉塞、大腸がんなど)のサインであることもあります。

 ◇まとめ

 便秘は痔の大きなリスク要因。日々の生活習慣が予防のカギ

 食物繊維、水分、発酵食品、適度な運動で腸内環境を整える

 便秘薬は正しい知識で使用し、根本的な生活改善を目指す

 便秘は生活の質を大きく左右します。しかし、毎日の小さな積み重ねが腸内環境を改善し、痔の予防にもつながるのです。焦らずコツコツと便秘解消を目指していきましょう。(了)

鈴木隆二医師

鈴木隆二医師

 鈴木隆二(すずき・りゅうじ) 医療法人社団筑三会理事長、消化器外科専門医(筑波胃腸病院、千葉柏駅前胃と大腸肛門の内視鏡日帰り手術クリニック・健診プラザ)。聖マリアンナ医科大学卒業。東京女子医科大学消化器病センター助教を経て、20年現理事長に就任。日本消化器内視鏡学会専門医、日本外科学会専門医、麻酔科標榜医、産業医、難病指定医。経営では医療DXに注視し、多数の取材・本を出版している。


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