Dr.純子のメディカルサロン

ストーマって何? おなかにある“もうひとつの出口”
~オストメイトの声から生まれたやさしい装具~ 医療が届かない「その先」を支える

 ストーマは事故やさまざまな病気のために排せつが困難になった人のおなかに設ける人工のぼうこうや肛門のことで、ストーマを造設した人は「オストメイト」と呼ばれています。がんなどの病気のこともありますが、術後の腸の癒着でストーマを造設する人もいます。

 ストーマを造設した後に装着するパウチに関しては、日常生活を送る上で問題が多いと言われています。

 今回オストメイトの抱えるそうした悩みに向き合い、意見交換しながら二人三脚で快適な装具の開発をしている落合正行さんと、子宮内膜症の術後、腸の癒着がひどく、2016年に人工肛門を造設した同時通訳者の中島小百合さんに話を伺いました。

(聞き手・文 海原純子)

 海原 日本でのオストメイト人口は22万人以上ですが、オストメイトについて知らない人は多いと思います。外から見ても全く分からないので不便さや生きづらさは人に伝わりにくいと思います。

 おなかに排せつのための袋を装着しなければならないため、その管理に気を使ったり、さまざまな悩みがあったりすると思いますが、精神的に引け目を感じる人も少なくないと聞きました。中島さんは以前から「オストメイトでも気分を明るく保てるように」と装着のパウチをデザインして自分なりのパウチを作るなどの活動をなさっていますが、日常生活の不都合や不安などについて教えていただけますか?

パウチを持つ中島さん。「私のおなかの袋の先端は硬いことが多いです」。硬い先端をチューリップ型やたまご型の保護パットで包む

パウチを持つ中島さん。「私のおなかの袋の先端は硬いことが多いです」。硬い先端をチューリップ型やたまご型の保護パットで包む

 ◇止まらないかゆみ

 中島 そうですね。外見では分からないので生きづらさのようなことは伝わりにくいかもしれません。

 例えば、私の場合、日常生活では常に「三つの漏れ」におびえて暮らしています。通訳中に急に腸が活発に動きだしてトイレに駆け込むことになったらどうしよう(中身の漏れ)、クライアントと一緒の時に静かな部屋やエレベーターで急にガスが出たらどうしよう(音の漏れ)、狭い音楽スタジオでレッスン相手に「におい」が漏れたらどうしよう(におい漏れ)。

 漏れが起きないよう徹底的に準備しますし、今のところ仕事中にトラブルが起きたことはありませんが、不安が完全に消えることはありません。

 とはいえ、障害を公表して仕事をしているので、ご一緒する皆さんのちょっとした声掛けやサポートに助けてもらうことも多いです。

 海原 2021年に日本オストミー協会の行ったオストメイトの悩みのアンケートによると、悩みの第3位に上がっているのは、装着部周辺の皮膚のただれやかゆみで36.8%の方が悩んでいることが分かりました。確かに異物となるパウチを24時間装着しなければならないので皮膚のトラブルが起こりやすくなりそうです。

 中島 私の皮膚トラブルは、排せつ物の侵入、乾燥、じんましんの三つです。パウチの粘着面はハイドロコロイド素材(キズパワーパッドのようなもの)なので、パウチを貼っている皮膚は健康です。ただ、皮膚とパウチの間にちょっとでも排せつ物が侵入すると、すぐ赤くなってかゆみが出ます。また、数年前からじんましんが出始め、袋の端の硬い部分やシリコンの部品など、ちょっとした刺激でかゆみを感じるようになりました。じんましんの薬も飲んでいるのですが、物理的な刺激があるとかゆみが止まりません。

 海原 そうした問題を解決するのは難しいですね。医療の面では、命に別条はないから「かゆみを止める薬を使ってください」というようなことになりそうです。


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