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フレイルにならない鍵
~変形性膝関節症の予防法~ 【第2回】健康寿命を延ばす

 「いつまでも元気に過ごし、寝たきりを避けたい 」ー。これは多くの人が願うことです。

 厚生労働省のデータ(2022年)によると、日本の健康寿命は男性72.57歳、女性75.45歳。一方、平均寿命は男性81.05歳、87.09歳とされており、健康寿命との間には約8~12年の差があります。この期間、多くの人が介護を受けながら過ごしているのが現状です。

 膝の健康は、この健康寿命に深く関わっています。変形性膝関節症は特に中高年の女性に多く、同省の推計では潜在的な患者を含めると、約3000万人に上るとされています。「フレイル」(加齢により筋力や体力が低下した状態)にならないためにも、早期の予防が重要です。

 今回は、変形性膝関節症の予防法について膝の専門医が詳しくご紹介します。

 すでに変形性膝関節症と診断された方にも役立つ情報をお届けします。日々の生活を見直し、膝の健康を守りましょう。

 変形性膝関節症はこんな病気〜予防が大切な理由〜

 変形性膝関節症とは、加齢や肥満などの影響で膝関節の軟骨がすり減ることで、周囲の軟部組織(滑膜など)に炎症を伴い、膝に痛みが生じる病気です。危険因子には上記の他にもあり、高齢者の全員が変形性膝関節症というわけではありませんが、50代以降に急激に有病率が増加します。年齢を重ねることで筋肉や軟骨などが衰えることからも、加齢との関係は大きいと考えられます。

変形性膝関節症は適切に対処しないまま放置すると、どんどん進行していく(ひざ関節症クリニック作成)

変形性膝関節症は適切に対処しないまま放置すると、どんどん進行していく(ひざ関節症クリニック作成)

 ◇初期から末期の状態へと進行する変形性膝関節症

 変形性膝関節症は、適切に対処しないまま放置すると、どんどん進行していきます。膝の軟骨がすり減ると、半月板が変形したり、滑膜に炎症が起こったりして、膝の痛みがだんだん強くなります。進行すると、関節の隙間がほとんどなくなり、最終的には骨自体が変形してしまいます。

 そうなると、歩くことが難しくなり、日常生活に大きな支障が出てきます。そして、健康寿命にも大きな影響を与えるため、早めの予防や進行を防ぐことがとても大切です。

 ◇予防のために変形性膝関節症の原因を知ろう

 先ほど、50代から有病率が急増するとお話ししました。つまり、予防するなら40代がターニングポイントになると言えるかもしれません。変形性膝関節症の原因は2種類に分けられ、前出の加齢や肥満、筋力やO脚、性別などといった原因が不明確な一次性のものと、スポーツや事故などのけがや病気が影響する二次性のものがあります。

 中でも変形性膝関節症を予防する上でも知っておいていただきたい危険因子は以下の7項目です。予備軍になっていないかチェックする上でも確認してみてください。

 1、生活動作

 しゃがんだり、立ったり、階段の昇降などの膝に負担のかかる行動が多い人は要注意です。

 2、遺伝子

 遺伝的因子と環境因子の相互作用で発症し得るということは、理化学研究所も公にしています。

 3、スポーツ歴

 サッカーやバスケットボールなど膝を酷使するほど行っている人は、予備軍かもしれません。

 4、既往歴

 関節リウマチや半月板損傷、前十字靭帯損傷などの既往歴がある人は、今すぐ予防のための行動を。

 5、性別

 日本整形外科学会によれば、変形性膝関節症の男女比は1:4とのことです。

 6、肥満

 膝には体重の2〜3倍もの負荷がかかっていると言われています。

 7、筋肉量

 膝周辺の筋肉には、膝の負荷を軽減する役割が。筋肉量が落ちれば、それだけ負荷が大きくなります。

 ◇こんな行動に心当たりはありませんか?

 膝に負担のかかる生活動作についてですが、上記の他にも日常にはたくさん潜んでいます。例えば、次のような行動です。

 ・満員電車での無理な体勢

 ・バッグをいつも同じ側の手で持つ

 ・長時間のデスクワーク

 変形性膝関節症になりやすい女性のための予防法

 変形性膝関節症は女性に多く、男女比は1:4です。女性は①筋肉量が少ない②体重が増えやすい③O脚が多い④女性ホルモンが骨に影響を与えるーなどの理由からリスクが高くなります。

 予防には、筋トレ後にウオーキングなどの有酸素運動を組み合わせることや、運動を前提に食事を見直すことが効果的です。特に、摂取カロリーの15〜35%をタンパク質にすることを意識しましょう。また、基礎代謝は冬にピークを迎えるため、冬が予防に適した時期かもしれません。

変形性膝関節症の原因にもなり得る危険因子の一つにO脚がある(ひざ関節症クリニック作成)

変形性膝関節症の原因にもなり得る危険因子の一つにO脚がある(ひざ関節症クリニック作成)

 ◇O脚矯正は変形性膝関節症の予防につながる

 変形性膝関節症の原因にもなり得る危険因子の一つにO脚があります。日本人女性だと8〜9割がO脚とも言われていますが、O脚で変形性膝関節症のリスクが高まるのはなぜでしょう? それは図をご覧いただければ分かるように、体重などの負荷が膝関節の内側に集中してしまうからです。これが、内側型(ないそくがた)の変形性膝関節症を発症させる引き金になりかねないのです。

 ◇O脚の矯正におすすめしたいマッサージ法

 O脚の人に効果的なマッサージ法をご紹介します。お尻の筋肉である大殿筋、中殿筋にアプローチをしていきます*。

 1. 背骨の延長に位置するお尻の骨、仙骨の際からお尻全体にかけてテニスボールを使いマッサージする

 2. 上記の状態から、骨盤を左右に揺らすように行う

 3. 上げて痛い場所があれば念入りに

 ◇膝の健康を守り、元気に歩き続けるために

 健康寿命を延ばし、寝たきりの期間を短くするためには膝の健康が重要です。特に変形性膝関節症は中高年に多く、進行すると日常生活に支障を来します。

 予防のためには、運動食事、姿勢の改善が大切です。運動では、筋力トレーニングと有酸素運動を組み合わせることで膝周りの筋力を維持できます。食事では、適切なタンパク質の摂取を心掛け、無理なダイエットを避けることが重要です。姿勢の面では、O脚を矯正することで膝への負担を減らすことができます。

 早い段階からの予防が大切です。歩けなくなる前に、日々の生活を見直し、膝の健康を守りましょう。(了)

尾辻正樹理事長

尾辻正樹理事長

 尾辻正樹(おつじ まさき) 医療法人社団活寿会理事長。05年鹿児島大学病院初期臨床研修、07年同大学病院整形外科入局、11年埼玉県内の整形外科にて勤務、18年東京ひざ関節症クリニック銀座院入職、18年横浜ひざ関節症クリニック院長就任、22年から現職。

 札幌ひざ関節症クリニックと仙台ひざ関節症クリニックの院長を兼任。日本整形外科学会認定専門医、再生医療学会認定医。

 *マッサージ法の動画( https://www.youtube.com/watch?v=Hiu8nY5PHbM

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