学校法人 日本女子大学
家庭外で作られた食品や料理はその質と不足栄養素の補完が鍵となる
日本女子大学(東京都文京区、学長:篠原聡子)を中心とする研究グループは、油脂を使ったそのまま食べられる加工食品や調理済み食品、外食料理を多用する人では、栄養素の摂取バランスが偏り、脂質代謝に異常が生じ、がんや動脈硬化性疾患のリスクとなる工業由来のトランス脂肪酸*1が血中に多いことを明らかにしました。
総菜や弁当を買って食事を済ませたり、菓子を食事代わりにしたりする人が増えています。本研究により、便利さを優先して加工食品に依存した食生活は健康リスクが高いことを日本で初めて明らかにしました。
【発表のポイント】
・外食やファストフード、調理済みのテイクアウト料理、冷凍食品、フリーズドライ食品などの加工食品の利用は世界的に増加し続けており、食事を簡便に用意できるようになっています。しかし、高度に加工された食品には、元来使わなかった材料や成分が添加されており、がんをはじめとしたさまざまな疾患の発症や死亡率と関連することから、これらの食品摂取に警鐘が鳴らされています。
・日本ではこれらの食品の摂取と健康状態との関連を検討した研究がありませんでした。
・本研究グループは首都圏在住成人の食事調査と採血を行い、血液検査と血中脂肪酸濃度測定を行い、加工食品や中食、外食の料理の摂取状況と健康状態の関連について検討しました。
・その結果、油脂を使った加工食品や調理済み食品、外食料理(fatty-RTE 食品)を多用する人では、動脈硬化予防に有用なThe Japan Diet*2で摂取を推奨する食品の摂取が少なく、食物繊維、ビタミン、ミネラルや、魚に多いEPA*3、DHA*4の摂取も少ないことが分かりました。血液検査からは、fatty-RTE 食品の摂取が脂質代謝異常と関連し、工業由来のトランス脂肪酸濃度が高いことを明らかにしました。また、食物繊維と魚の摂取量がリン脂質中脂肪酸組成に反映されていることを確認しました。
・本研究の結果から、家庭外で作られた食品や料理は、その質に注意しなければ健康リスクが高まること、利用する場合は不足する食品を補う必要があることが明らかになりました。
【概要】
日本女子大学の丸山千寿子(まるやま ちずこ)名誉教授(元日本女子大学大学院家政学研究科教授)、同家政学研究科2019年卒の内山美弥(うちやま みや)、同家政学部食物学科梅澤愛理子(うめざわ ありこ)助教、同食物学科2019年卒の徳永葵(とくなが あおい)、安田朱里(やすだ あかり)、同2017年卒の千葉井奏子(ちばい かなこ)、福田智恵子(ふくだ ちえこ)、市来りな(いちき りな)、同講師の亀山詞子(かめやま のりこ)、神戸大学大学院医学研究科の篠原正和(しのはら まさかず)教授による研究グループは、油脂を使ったそのまま食べられる加工食品や調理済み食品、外食料理(fatty-RTE 食品)を多用する人では、栄養素摂取バランスが偏り、脂質代謝に異常が生じ、がんや動脈硬化性疾患のリスクとなる工業由来のトランス脂肪酸が血中に多いことを明らかにしました。
本研究成果は、Nutrients誌(論文名:A Cross-Sectional Pilot Study on Association of Ready-to-Eat and Processed Food Intakes with Metabolic Factors, Serum Trans Fat and Phospholipid Fatty Acid Compositions in Healthy Japanese Adults)にて、2024年4月2日にオンライン掲載されました。
(1)これまでの研究で分かっていたこと
食生活が多様化した今日、外食や中食・加工食品の利用が高まっています。家庭の外で作られた食べるときに手を加えることなくそのまま食べられるレディトゥイート食品ready-to-eat (RTE) food*5や超加工食品(ultra-processed food)*6を多く食べている人は、飽和脂肪酸*7やトランス脂肪酸の摂取が多い反面、たんぱく質、ビタミン、ミネラルなどは摂取不足になるなど栄養素摂取バランスが悪く、生活習慣病(肥満、2型糖尿病、心血管疾患、がん、炎症性腸疾患、うつ、フレイルなど)のリスクと心血管疾患や総死亡率が高いことが世界中で報告され、これらの利用に警鐘が鳴らされていました。
日本でも特に若い世代でRTE食品や超加工食品の摂取が多いとされていますが、実態を調べた研究は極めて少なく、健康状態との関連についても僅かに体格との関連しか検討されていませんでした。
また、これまでの研究は加工食品や市販食品の工業的加工度に注目したものでしたが、日本では洋食、中華、エスニック、B級グルメや伝統的な和食など実に多様な食品や料理が売られています。和食の中にはほとんど油脂を使わない料理も多いので、日本人の場合は市販食品や外食料理を加工度でひとくくりにしてしまうと健康との関連が分かりにくいのではないかと疑問を持ちました。
さらに、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の過剰摂取は動脈硬化性疾患のリスクであることが知られており血中脂肪酸組成に反映されると推測されますが、これまでに市販食品や外食との関連を調べた研究はなく、特にトランス脂肪酸は測定が難しいために日本のデータがありませんでした。
(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと
我々は2016~2018年に首都圏在住20~50歳の213人(男性109人、女性104人)に研究参加を依頼し、食事調査と身体計測、血圧測定、空腹時採血を行い、洋食パターンの食事を食べている人で脂肪肝指標が高いことを明らかにしていました。本研究では、食事調査の結果を再解析して、加工食品のうち、RTE食品を油脂の使用の有無で分け、fatty-RTE食品(図1)由来エネルギー摂取量の総エネルギー摂取量に占める割合を算出しました。参加者全体の中央値で、総エネルギーの63%を加工食品から、36%をfatty-RTE食品から摂取しており、加工食品に依存した食生活であることが明らかとなりました。
さらに、参加者をfatty-RTE食品の摂取が少ないT1群、中間のT2群、多いT3群に三分割するとT3群は男性、若年者が多く、総エネルギーの55%もfatty-RTE食品から摂取していました。fatty-RTE食品の摂取が多いと、動脈硬化予防に有用なThe Japan Diet (図2)で摂取が推奨される魚、大豆、緑黄色野菜、その他の野菜、海藻・きのこ・こんにゃく、果物、乳や、卵、油脂を使わない調味料の摂取が少ない一方で、油脂、菓子類、甘い飲料を多く食べていました。その結果、たんぱく質、食物繊維、ほぼすべてのミネラルとビタミン、EPA・DHAの摂取が少ないという、隠れ栄養不足状態になっていました。
(3)新しく測定した血中成分
血液生化学検査では、fatty-RTE食品の摂取が多いと善玉のHDL-コレステロール濃度が低く、肝機能指標のアルカリフォスファターゼとロイシンアミノペプチダーゼ濃度が高かったことから、肝臓に脂質が蓄積し始めている状態であることが推察されました。
血中の主なトランス脂肪酸であるエライジン酸(工業由来)とバクセン酸(天然由来)濃度を共同研究者の篠原正和教授(神戸大学)が測定し、予想通りfatty-RTE食品の摂取が多いと、がんや動脈硬化のリスクを高めると言われているエライジン酸濃度が高い(図3)ことが分かりました。
本学で血清からリン脂質を抽出してガスクロマトグラフィーで脂肪酸濃度を測定すると、fatty-RTE食品の摂取が多いとEPA・DHAが少なく、動脈硬化の予測指標と言われているEPA/AA比*8が低い結果が得られました。最近、食物繊維は腸内細菌でプロピオン酸の産生を高め、肝臓で奇数酸のC15:0とC17:0を増やすことで脂肪酸合成を調整することが明らかにされています。我々はメタボリックシンドローム患者や脂質異常症患者で血中C15:0とC17:0の濃度が低いことを明らかにしていました。今回の研究でfatty-RTE食品の摂取が多いと血中C15:0とC17:0の濃度が低かったことから(図4)、食物繊維摂取不足の影響が確認できました。
(4)研究の波及効果や社会的影響
日本では1960年代の高度成長期から食の欧米化と外部化が進み、1990年には日本型食生活が崩壊し始めて多様になりました。加工食品やRTE食品の利用はさらに加速することが予測されます。本研究の結果から、食品業界や飲食店には安全な食品の製造や料理の提供が強く求められます。また、かつては女性が食生活を支えていましたが、今日ではすべての国民が自立して健康的な食事ができる力が求められています。加工食品に依存すると不足しがちな食品を補う食事を自分で作ることができるように、実践的な教育を早急に実施する必要があります。
(5)今後の課題
今回の調査は首都圏在住の20~50歳の実態を明らかにしたものです。加工食品の利用は年代を問わず増加することが予測され、成長期の子ども、高齢者、妊産婦やさまざまな疾患をもつ人などに対する影響を明らかにしなければなりません。
(6)研究者のコメント
これまで、生活習慣病の患者さんに栄養指導をする際、自分で料理が作れない方には止むを得ずコンビニやスーパーの商品をお勧めしてきました。今回の研究結果から、fatty-RTE食品を多食すると病態が悪化する恐れもあることが分かりました。推奨可能な市販食品情報を示すとともに、誰にでも簡単に美味しく作れるThe Japan Diet の料理の普及を通して、世界の人々の健康維持に貢献していきます。
(7)用語解説
*1 トランス脂肪酸:トランス型の非共役炭素―炭素二重結合を持つ脂肪酸で、工業的に作られた硬化油を用いたマーガリン、ショートニングなどや高温で揚げた油に含まれる工業由来のものと、反芻動物の肉や乳・乳製品に含まれる天然由来のものがあります。工業由来のトランス脂肪酸は、がんや動脈硬化症などのリスクを著しく高めるため、WHOは2023年までに世界からトランス脂肪をゼロに!という取り組みを展開してきました。
*2 The Japan Diet:日本動脈硬化学会が推奨する動脈硬化予防に役立つ食様式です。1.肉の脂身、動物脂、鶏卵、清涼飲料や菓子などの砂糖や果糖を多く含む加工食品、アルコール飲料を控え、2.魚、大豆・大豆製品、緑黄色野菜を含めた野菜、海藻・きのこ・こんにゃく、未精製穀類や雑穀を積極的にとり、3.精製した穀類を減らして、未精製穀類や雑穀・麦を増やし、4.甘味の少ない果物と乳製品を適度にとるように食材を取り揃え、5.減塩して薄味で食べます。
*3 EPA:イコサペントエン酸、植物由来のオメガ3系必須脂肪酸であるα-リノレン酸から体内で合成されますが僅かであるため、必須脂肪酸とみなされています。脂質合成を抑えトリグリセライド(中性脂肪)の分解を促進する作用があります。EPAから産生される生理活性物質には動脈硬化や炎症を予防する作用があります。青背の魚に多く含まれています。
*4 DHA:ドコサヘキサエン酸、EPAから体内で合成されますが僅かであるため、必須脂肪酸とみなされています。EPAと同様の作用のほかに、脳内の細胞膜に多く含まれるため認知症予防効果が注目されています。
*5 レディトゥイート食品ready-to-eat (RTE) food:ファストフード、持ち帰り食品・料理、飲食店の料理などのように、食事を用意する人が食材を洗う、切る、加熱、味付けなどの調理の手間を掛けずに、そのまま食べることができる調理済み食品や料理のことを指します。
*6 ultra-processed food ウルトラプロセストフード(超加工食品):食品を工業的加工の度合いで分類した場合に、最も加工程度が高いランクに入る食べ物を指し、砂糖、油脂、塩、酸化防止剤、安定剤、乳化剤、保存料などの他、家庭での料理には使わない添加物や成分・材料が多く含まれる食品のことをいいます。常温、冷蔵、冷凍で長期保存できる調理済み食品も含まれます。
*7 飽和脂肪酸:炭素鎖に二重結合がない直鎖状の脂肪酸で、同じ炭素数の不飽和脂肪酸に比べて、室温で溶けにくい性質があります。肉の脂身、バター、ラード、牛脂、チーズ、生クリーム、ヤシ油に多く含まれています。ヒトの体内では食事由来の他、余剰の糖質からアセチルCoAを経て飽和脂肪酸が合成されます。飽和脂肪酸の過剰摂取は高LDL-コレステロール血症の原因となり、心疾患の発症率を高めます。
*8 EPA/AA比:血中EPAとアラキドン酸(AA)濃度の比で、それぞれの脂肪酸から合成される生理活性物質が拮抗的に働くため、この比が低いと動脈硬化を発症しやすくなるとされています。
(8)論文情報
雑誌名:Nutrients
論文名:A Cross-Sectional Pilot Study on Association of Ready-to-Eat and Processed Food Intakes with Metabolic Factors, Serum Trans Fat and Phospholipid Fatty Acid Compositions in Healthy Japanese Adults
執筆者名(所属機関名):丸山千寿子1,2, 内山美弥1, 梅澤愛理子 2, 徳永葵2, 安田朱里 2, 千葉井加奈子 2, 福田千恵子 2, 市来りな 2, 亀山詞子 2, 篠原正和 3
(1日本女子大学家政学研究科食物・栄養学専攻、2日本女子大学家政学部食物学科
3神戸大学大学院医学研究科 質量分析総合センター / 未来医学講座分子疫学分野)
掲載日時(現地時間):2024年4月2日
掲載URL:
https://www.mdpi.com/2072-6643/16/7/1032
DOI: 10.3390/nu16071032.
(9)研究助成
研究費名:一般社団法人旗影会研究助成 2018T023
研究課題名:動脈硬化予防的鶏卵利用「日本食」の摂取パターン解析と食構成の提案
研究代表者名(所属機関名):丸山千寿子(日本女子大学)
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(2024/06/20 11:00)
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