こちら診察室 あなたの知らない前立腺がん

カギは健康診断! PSAで前立腺がんの早期発見 第3回

 前立腺では、PSA(Prostate Specific Antigen、ピーエスエー=前立腺特異抗原)というタンパク質が作られています。PSAの役割の全貌は明らかになっていませんが、精液中に含まれるゼラチン状の物質を分解し、精液を液状化する役割を担っていて、精子の運動性を向上させることが知られています。前立腺がんになると、PSAが多く産生され、血液中に入り込むPSAも多くなります。

前立腺がんの早期発見にはPSAを測ることが大切だ

前立腺がんの早期発見にはPSAを測ることが大切だ

 ◇優れた腫瘍マーカー

 PSAは、血液検査で簡単に測定できます。日本では、年齢ごとにPSA値の異常値が設定されていて、この数値を超えた場合には、泌尿器科専門医を受診することが勧められます。このように、がんの発見に役割を果たしている血液検査腫瘍マーカー検査と言います。肺がん大腸がん、膵臓(すいぞう)がん、肝臓がんなど、他のがんにも腫瘍マーカーはありますが、PSAのように前立腺がんを早期に発見できる能力を持つと同時に、一般的に普及している腫瘍マーカーはありません。

 かつて、「PSAを測定して前立腺がんを早期に発見しても、患者さんの寿命を延長させることはできない」「過剰な検査や治療に結び付くため、PSAの測定を検診に導入することは勧めない」などといった泌尿器科専門外の方のコメントが発表されたこともありました。今でも市区町村の中には、PSAを検診として実施できない地域もあるのは、とても残念です。

スウェーデン第2の都市イエテボリ

スウェーデン第2の都市イエテボリ

 ◇進行がん、死亡率減少

 最新の研究では、PSAを測定することが患者さんの寿命を延ばすだけではなく、医療に要する費用も縮小する効果があることが明らかにされています。スウェーデン第2の都市であるイエテボリ。ここで住民2万人を対象に大規模な研究が行われました。住民をPSAによる検診を行ったグループと、行わなかったグループにランダムに分け、その後の長期間の経過を記録しました。その結果、検診を行ったグループの方が、検診を行わなかったグループよりも転移が出てしまう進行がんの割合が10年間で49%低いという結果が得られました。さらに、14年後の死亡率を比較すると、検診を行ったグループの前立腺がんによる死亡率が、検診を行わなかったグループよりも44%低かったことも報告されました。ほとんどのがんは、転移が出てしまうと完全に治すことが難しくなってきます。そうすると、長期間にわたって薬物治療などが必要になるため、早期がんよりも医療に要する費用は多くなります。このように、前立腺がんの早期発見のために、PSAを利用した検診がとても意義のあることが明らかとなったのです。

 ◇自己判断は危険

 ただし、PSAが上昇する原因は、がん以外にもあります。その一つが、前立腺肥大症です。前立腺の中にできる良性腫瘍で、大きくなると尿道を圧迫して、尿の勢いを弱くしたり、うまく尿がためられずに、何回もトイレに行きたくなったりするなどの症状を生じさせます。他には、前立腺に炎症が起こった場合です。前立腺に細菌が感染し、熱が出たり、尿を出すに痛みがあったりします。症状があまりはっきりとしない場合があります。さらに、自転車やバイクに乗った後、乗馬の後、射精の後、便秘の時など、前立腺に刺激が加わるような場合にも数値が上昇します。読者の皆さんの中には、異常値が出ても、上記のような原因だと自己判断して専門医受診をしないという方がいるかもしれません。しかし、ご自身での判断は危険です。異常値が出た際には、早めに専門医を受診しましょう。(了)


 小路 直(しょうじ・すなお) 東海大学医学部腎泌尿器科学領域教授
 2002年 東京医科大学医学部医学科卒業、11年~13年 南カリフォルニア大学泌尿器科へ留学、東海大学医学部外科学系泌尿器科学准教授などを経て24年から現職、第7回泌尿器画像診断・治療技術研究会 最優秀演題賞。米国泌尿器科学会、日本泌尿器内視鏡学会:などに所属。著書に「名医に聞く『前立腺がん」の最新治療』(PHP出版)など。



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