治療・予防

長期の経過が明らかに
~結膜リンパ腫(岡山大学学術研究院 松尾俊彦教授)~

 結膜リンパ腫はまれな病気で、目の表面の結膜に腫瘍ができる。血液がんであるリンパ腫の一種だが、目の中に病変ができる眼内リンパ腫とは異なり、結膜から発生する結膜リンパ腫はがん細胞の増殖が遅いという。

 岡山大学学術研究院ヘルスシステム統合科学学域教授で、同大学病院(岡山市北区)眼科の松尾俊彦医師は「結膜リンパ腫の長期経過を見ると、切除できずに残った病変の多くは自然に消えることが分かってきました」と話す。

結膜リンパ腫は結膜円蓋部が赤みのあるピンク色に腫れる

結膜リンパ腫は結膜円蓋部が赤みのあるピンク色に腫れる

 ◇追加治療は必要か

 結膜はまぶたの裏から白目を覆っている半透明の粘膜で、目の表面を涙で潤し、ほこりや細菌などの異物から目を守る働きがある。結膜リンパ腫では、まぶたの裏から眼球へと折り返す「結膜円蓋(えんがい)部」が、サケの肉のような赤みがかったピンク色に腫れる。

 松尾医師は「リンパ腫は、白血球の中のリンパ球ががん化する病気で、全身のどこでも発生する可能性があります。結膜リンパ腫は、全身のリンパ腫が結膜に浸潤して起こす二次性と、結膜から発生する原発性に分かれます」と説明する。

 診断には、結膜よりも奥の眼窩(がんか)にも病変がないかを調べるためMRI検査を行う。また、局所麻酔で結膜病変を切除し病理検査を行う。リンパ腫と診断された場合は、全身の他の部位にリンパ腫がないかを調べるためPET(陽電子放射断層撮影)/CT検査を行う。

 「結膜リンパ腫を完全に切除すると視機能を維持できないため、病変が残ります。原発性結膜リンパ腫では、残存病変に対する放射線治療などの追加治療が必要かは不明でした」

 ◇経過観察か放射線を

 松尾医師らは1992~2023年の32年間、岡山大学病院で原発性結膜リンパ腫と診断された男女31人の経過を調査した。診断時の年齢は28~85歳で、現在までに結膜以外でリンパ腫が確認された患者やリンパ腫により死亡した患者はいなかった。

 残存病変に対して放射線治療を行ったのは、再発時の2人を含む7人で、残りの24人は追加治療を行わず経過観察した。「残存病変は自然に消えるケースが多いと分かりました。結膜病変が再発した場合、再度切除して病理診断を確認後、経過観察するか、病変部の放射線照射を行うとよいと考えられます」

 結膜だけでなく眼窩、眼球内にも病変が広がるリンパ腫は、目の治療に加えて、腫瘍内科などで全身治療を考慮する必要がある。松尾医師は「原発性結膜リンパ腫は、基本的に化学療法などの全身治療までは必要ないでしょう。患者さんの多くは経過観察を選択され、半年に1回程度の眼科受診を勧めています」と助言している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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