米・University of North CarolinaのJay B. Lusk氏らは、メディケア受益者のデータを後ろ向きに解析した結果、心房細動(AF)と網膜中心動脈閉塞症(CRAO)発症リスク上昇との間に有意な関連を認めたJAMA Netw Open2025; 8: e2453819)に報告した。

CRAOの原因が頸動脈狭窄でない可能性

 AFは米国の高齢者に最も広く見られる慢性の心不整脈であり、AFによる脳卒中脳梗塞)は障害を残す率が高い。Retinal stroke(網膜発作)あるいはeye stroke(眼発作)とも呼ばれるCRAOは、まれな虚血性発作の一種であり、大半の例では隻眼の視力が大きく損なわれ、重症の場合は隻眼の失明に至る。カルシム/コレステロールプラーク形成による頸動脈狭窄が原因という考え方が一般的だが、CRAO患者の30%は頸動脈疾患を有さないとの報告もあり、AFがCRAOリスクと関連するかどうかについて明確な知見は得られていない

 Lusk氏らは2000~20年のメディケア受益者(66歳以上)の5%にあたる患者の保険請求データ(入院、外来患者、救急、介護施設を含む)を入手し、2023年7月~24年5月に解析を行った。

非AF群との発症率差は0.05例/1,000人・年

 合計109万144例(平均年齢76.92±7.09歳、女性54.3%)のデータを対象とした。半数の54万5,072例がAFを有しており(AF群)、残りはAFを有しないマッチングコントロール(非AF群)だった。

 中央値45カ月(四分位範囲18~90カ月)の追跡期間中、AF群の1,333例、非AF群の1,082例がCRAOを経験した。

 Overlap weightingで重み付けし、さまざまな変数を調整したCoxモデルで解析したところ、非AF群に対するAF群のCRAOハザード比(HR)は1.14(95%CI 1.02~1.28、発症率差 0.05例/1,000人・年、-0.01~0.11例/1,000人・年)と有意に高いことが判明した。

 AFと虚血性脳卒中リスクとの関連も認められた(HR 1.73、95%CI 1.69~1.76、発症率差 10.11例/1,000人・年、9.72~10.49例/1,000人・年)。


 また、AFは尿路感染症、白内障、上腕骨骨折のリスク上昇とは関連を認めたが、網膜中心静脈閉塞(CRVO)との関連は認められなかった。

関連の程度はそれほど大きくなく一般化可能性には限界

 以上の結果をまとめてLusk氏らは「66歳以上のメディケア受益者を対象とした今回のコホート研究では、程度は小さいものであったが、AFとCRAOリスクとの独立した関連が認められた」と結論。「ただし、メディケア受益者を対象とした検討であり一般化可能性には限界がある、評価されていない交絡因子の存在を除外することはできない、未診断のAF有病率は高いのでコントロール群(非AF群)の中にもAF患者が含まれていた可能性はある」など、複数の限界があることを付言している。

(医学ライター・木本 治)