Dr.純子のメディカルサロン

東日本大震災から8年の現状と国の復興体制を考える 久保田崇・立命館大教授(元陸前高田市副市長)

 8回目の3.11を迎える前日、うれしいニュースがありました。在学中からの復興支援活動が縁で、東京都出身ながら、福島県楢葉町に移り住んだ女性が、同町役場に勤める地元の男性と結婚したのです。男性は「あの日たくさんのものを失い、あの日からたくさんのものを得た」とSNS(インターネット交流サイト)で友人たちに報告していました。

 被災地では多くが失われましたが、決して失ったばかりではないでしょう。とはいえ、本稿で述べる通り、復興の現状は厳しいことも確かです。


 ◇様子が異なる「岩手・宮城」と「福島」

 私は2011年から15年まで、被災地の岩手県陸前高田市で復興の仕事に関わり、それ以降も年に数回は同市のほか、岩手県大船渡市、福島県浪江町、楢葉町などを訪問しています。

 住宅再建や商店街の再建状況を踏まえると、岩手県や宮城県においては、復興は終盤にきていると考えられますが、新しく出来上がった商店街が必ずしも、にぎわっているわけではありません。

 震災から時がたつにつれて、県外からの訪問者は確実に減っています。震災前から課題であった人口減少・高齢化が(震災の被害と相まって)よりクローズアップされてきています。

 また、福島県については、いまだ帰還困難区域が残っていることに加え、避難指示が解除された区域でも、住民が100%戻るわけではない中で、まちづくりは困難を極めます。

 ◇仮設プレハブがゼロにならないと

 下の表は4月以降のプレハブ仮設の入居者数を整理したものです。復興に明確な定義はありませんが、岩手県と宮城県では、この仮設住宅の入居者数が住宅再建の進展や生活の落ち着きを示し、また最終的にはゼロになるべきものであることから、復興の実態を示す数値として、個人的には重視しています。

 これを見ると、当初のプレハブ仮設建設戸数と比較すれば、1%ほどに減少しましたので、99%の方は仮設から出てマイホームを建てたか、公営住宅(賃貸)等に入居することによって住宅再建が完了したと分かります。

(注)岩手、宮城、福島3県の各「応急仮設住宅の供与期間の延長について」(2018年3月)、復興庁「全国の避難者数」2019年2月27日などから作成

(注)岩手、宮城、福島3県の各「応急仮設住宅の供与期間の延長について」(2018年3月)、復興庁「全国の避難者数」2019年2月27日などから作成

 他方で、福島県については、プレハブ仮設より、県外も含めたみなし仮設や知り合い宅に身を寄せるケースが多いため、避難者数や他の数値と併せて見なくてはなりません。全国の避難者約5万2000人の大半は福島の被災者であり、震災直後と比べても、まだ1割以上が残っている計算になります。

 実際、楢葉町が公表している数値を見ると、2019年2月28日現在の町内居住率は63%程度(世帯数ベース、人数では53%)であり、避難指示が解除されても、震災前の水準まで即座に住民が戻るわけではありません(これでもよく戻っている方と言えるかもしれません)。

 浪江町は居住率を公表していませんが、まだ帰還困難区域が残っていることもあり、数字はもっと低いと聞きます。住民が十分に戻っていない(しかも、これからどのくらい戻るかも不明確である)状況の中で、学校や公共サービスの提供範囲や水準を考えなければならず、まちづくりの前途は多難です。


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