口の中の異常感覚-口腔内セネストパチー
歯科治療きっかけに発症も
セネストパチー(体感異常症)は、実際には異常がないのに異常な感覚を訴える病態で、口腔(こうくう)内に症状が表れるのを「口腔内セネストパチー」と呼ぶ。「口の中から白いドロドロとした物が出てくる」「詰め物をした歯に舌先がへばり付く」など症状の訴えは現実離れして奇妙だが、患者自身は生々しい感覚として捉えているのが特徴だ。いしはた歯科クリニック(埼玉県久喜市)の石幡一樹院長は「口腔内セネストパチーは、歯科治療をきっかけに発症することがあります」と話す。
口の中に非現実的な異常感覚が続く
▽持続する異常感覚
口腔内セネストパチーは、抜歯やかぶせ物など、歯科治療を受けた後に発症することが多く、単一の異常感覚が持続的に口腔内に表れる。「歯に糸が巻き付いている」「口の中で虫が動いている」「歯の間から金属片が出てくる」など、はっきりとした感覚があるのが特徴だ。
石幡院長は「健康志向で真面目な人に多い印象で、異常はないと伝えても、症状に固執して受け入れない傾向があります」と説明する。症状を理解してもらえないといって歯科医院を転々とする患者も多く、あまり知られていない病気のため、1人で悩んでいる患者も少なくないという。
なぜ、こうした症状が口腔内に表れるのかは分かっていない。石幡院長は「ストレスや精神的な要因が、歯科治療をきっかけに症状として表れるのではないか」とみている。
▽話を聞いてくれる歯科へ
治療は、患者の症状を否定せずに耳を傾けることから始める。口腔内の病気が異常感覚を生み出している例もあるため、歯周病やドライマウスなど他の病気がないかを調べることも重要だという。
「詰め物の交換や歯を削ってほしいなどの要望を受ける場合もありますが、新たな歯科治療は症状を悪化させる要因になるので避けるべきだと思います」と石幡院長。マウスピースの装着で症状が改善することもあるが、もともと口腔内ではなく脳が感じている症状のため、精神科や心療内科とのスムーズな連携が必要になる。カウンセリングや認知行動療法、向精神薬の服用などを併せて行い、定期的な受診が望まれるという。
石幡院長は「口腔内セネストパチーの症状に悩まされている人は、まず話をよく聞いてくれる歯科医院を受診し、症状によっては心身両面から歯科治療を行う医療機関を紹介してもらうといいでしょう」と助言している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2019/04/11 18:25)