一流のレジリエンス~回復力~Dr.純子のメディカルサロン

入院・ホテル隔離で感じたこと、考えたこと
~新型コロナ感染から回復した40代男性の場合~

◆別の部屋から叫び声

 ホテルでの食事は1日3回、午前8時から9時、正午から午後1時、午後6時から7時の間に、ロビーまで取りに行くのですが、これがなかなか大変です。

 時間が決められていて、エレベーターが混まないように乗ろうとするのですが、結構、混んでいました。

 お弁当を温める電子レンジが3台あり、これも人がたまる状態。ただ、お弁当を提供していたのが、演舞場などにも卸しているお弁当屋さんで、おいしいお弁当が出て、ほっとすることができました。本当に有り難かったです。

 検温は朝7時と午後5時にします。この結果確認のため、部屋に電話がきます。また看護師さんからは1日1回、午後2時から3時の間に電話が来て、様子を話すという状態でした。

 精神的には、やはり隔離された感じが強くありました。テレビでは、再感染とか、いろいろな報道があり、かかった人が謝っているのを見るのはつらいし、有名人の悲報を聞くと気持ちが落ち込むし、不安になるので、テレビは見ないことにしました。

新型コロナウイルスの感染が拡大する中、臨時休業中のびわ湖大津プリンスホテル(大津市)で「ガンバロウ 日本」の文字を描くライトアップが行われた=2020年4月29日、滋賀県草津市より撮影(本文と直接関係はありません)【時事通信社】

 それで、ひたすら音楽を聴きました。別の部屋から叫んでいる人の声なんかも聞こえてきたりしていました。気持ちは分かります。叫びたくなる感じも。音楽がなかったら、どうなるかという感じでした。

 ◆心がけた五つのこと

 人と話をせず、たった一人で部屋にいる環境の中で、気持ちが落ち込まないために、心がけていたことが五つあります。

 生活リズムを崩さないために、まず、朝は必ず同じ時間に起きました。二つ目は、起きたら必ず着替えをして、パジャマで過ごさないこと。身だしなみを整えることで、気分を保つようにしました。

 三つ目は、昼間、絶対にベッドに横にならないこと。とにかく、生活のリズムを狂わせないことで、気分を保とうとしました。

 四つ目は、筋力が低下しないように、時間を決めて身体を動かしました。五つ目は、家族と毎日、話をすることでした。

 若い頃から音楽を聴いてきたので、これまで聴いてきた音楽をずっと聴き返して、過去を振り返りました。どちらかと言えば、歌が入らず、楽器の演奏の作品を多く聴いていました。

 東日本大震災の時、被災者の方々を支援する音楽の制作にも関わりましたが、今考えると、本当に被害に遭われた人を支援することができたのだろうか。被害に遭わない自分に、被害に遭った人の気持ちや必要とするもの、求める音楽が分かっていたのだろうか、ということを考えたりしました。

 こういうことは、コロナにかからなければ、考えなかったと思います。

 ◆老後の模擬体験

 もう一つ、コロナにかからなければ、しなかっだろうことがあります。それは、老後の自分を想像することでした。

 この生活は、想像上の自分の老後の模擬体験でした。行動範囲が狭くなる、できることが少なくなる、体の自由が思うようにいかなくなる中で、いかに自分が自分らしく生きられるか。

 行動範囲が狭い中で、自分を保ち、できることをしたり、楽しみを見つけるには、どうすればいいのか。そんなことを想像していました。多分、コロナ後の自分は何かが変わっていると思います。

 【後記】Aさんのお話は以上です。その後、在宅勤務で仕事に復帰したAさん。淡々と語ってくれましたが、孤独な環境で、死への恐怖や今後の不安を感じていたことは想像できます。別の部屋から叫び声が聞こえてきて、気持ちを保つのが、どんなに大変だったかと思います。症状が少しずつ改善していく中で、まず自分が集中できることに意識を向け、情報を限定し、家族や支援者との関わりを持つ、生活リズムを崩さないなど、ご自分で作られたルールがストレスからの回復に役立ったのだと思いました。また、病院での看護師や医師との関わり、ホテルの部屋に着いた時の飲み物の差し入れ、お弁当などから感じられる周囲からの気遣いなど、一見、ささやかに見えることが、心の支えにつながるように感じました。

(文 海原純子)

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