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在宅療養高齢患者さんの在宅死の累積発生率と要因を多施設共同の追跡調査で明らかに! ~在宅療養患者さんと医療者、そして医療政策担当者への基礎的資料を提供~東京慈恵会医科大学 日本医療福祉生活協同組合連合会


2.詳細
 762 名中、全観察期間で368人が亡くなられました。このうち、133人(36.1%)が自宅で、235人(63.9%)がその他の場所で亡くなっていました。その他の場所の内訳は、病院にて215人(58.4%)、介護施設にて18人(4.9%)亡くなられています。(死亡場所不明が2人。) 在宅での死亡率は137.6/1,000人年(95%信頼区間:116.1~163.1)でした。(死亡場所不明の2人は計算から除外しています。) これは、たとえば1,000人を1年間追跡したとしたら、137.6人の方が亡くなられたことを示しています。

 図に示すように、在宅療養開始直後は、自宅での死亡が他の場所での死亡よりも多くなっています。その後、在宅での死亡の累積発生率は、他の場所での死亡の累積発生率よりも緩やかに増加していることがわかります。一方、他の場所、主に病院での死亡は、追跡期間終了まで比較的一定に増加することが特徴的です。したがって、在宅ケアの期間が長ければ長いほど、自宅での死亡の割合が低下することになります。 
在宅での死亡に在宅療養開始時のどのような項目が関連しているかを、多変量解析(多項ロジスティック回帰分析)で検討しました。その結果、年齢、Barthel Index score、酸素療法を受けているか、常勤介護者がいるかが独立して関連していることが示されました。

・年齢が高いと在宅死亡が(他の場所の死亡に比べて)増加する
・着替えや歩行などの基本的日常生活動作の指数が高い(自立度が高い)と在宅死亡が(他の場所の死亡に比べて)減少する
・酸素療法を受けていると在宅死亡が(他の場所の死亡に比べて)増加する
・常勤介護者がいると在宅死亡が(他の場所の死亡に比べて)増加する

3.今後の応用、展開

 今回の研究は、私たちの知る限り日本で医師主導の在宅訪問診療を受けている患者の在宅死亡の累積発生率を訪問診療開始時から評価し、生物心理社会的観点から患者の詳細な情報を分析した初めての研究です。

 自宅での死亡の累積発生率は、在宅療養開始後に急増したものの、やがて横ばいになりました。一方、他の場所での死亡は、追跡期間終了まで一貫して増加しています。在宅療養開始後、初期の段階で在宅死亡の累積発生率が急上昇したのは、在宅で亡くなることを前提に在宅療養を導入した終末期患者のためであると考えられます。在宅療養期間が長くなるにつれて、患者本人、家族、主治医の関係が強くなり、死への備えができるため、在宅死の割合が高くなると予想されましたが、しかし、在宅死の累積発生率は早期に横ばいになり、それ以上増加しない傾向があり、在宅療養導入時の患者の状態や環境が強く影響している可能性が示唆されました。

 私たちが今回報告した在宅死と関連する一連の変数は、患者とその家族の将来の死に対する準備に関連しているようにみえます。例えば、在宅医療導入時に基本的日常生活動作についての自立度が高い場合、患者本人や患者を取り巻く環境は、在宅死への備えが十分でないことを意味する可能性があります。

 今後、さらに在宅療養患者さんの実態について明らかにすべく解析を行っていく予定です。

注1.    Portal Site of Official Statistics of Japan website. [Number and percentage of deaths by year by location of death] [Available from: https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003411652.

注2.    Hasegawa K. et. al. End-of-life Care: Japan and the World, Research Report. International Comparative Study on Terminal Care System. International Comparative Study on Ideal Terminal Care and Death. Surveys with Professionals and Facilities. Interviews with Facility Representatives (Summary): International Longevity Center Japan; 2012 [Available from: http://www.ilcjapan.org/studyE/doc/End-of-life_Care2011.pdf.

注3.    Ikegami N, Aburaya Y, Ishii T, Obata Y, Shibasaki M, Okamoto M, et al. Study on medical services for the frail elderly at the end of life. Tokyo: Institute for Health Economics and Policy; 2002.

注4.    National Institute of Population and Social Security Research. Population Projections for Japan: 2016-2065  [Available from: https://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2017/pp29_ReportALL.pdf.

注5.    Ministry of Health, Labour and Welfare. [Promotion of long-term care and home care].  [Available from: https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/zaitaku/dl/zaitakuiryou_all.pdf.

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