CDIメディカル医療インサイト

(第1回)見えない医療業界の現実
機能分化、山積する課題

 ◇「鳥の眼」と「虫の眼」

 17年12月18日に「医師需給分科会」の第2次中間取りまとめが発表されました。これまでに17回(第1回は15年12月開催)の開催、議論を経ての発表でした。この分科会では、医師の需要推計をシナリオ別で試算していました。その試算では、24年ごろに医師需要が約30万人で均衡(中位推移)、もしくは33年ごろに約32万人で均衡(上位推移)し、いずれの推移においても均衡以降、医師需要が減少し供給が上回るというものでした。この結果自体に著者は、違和感は全くなく、今後は医師の供給過多の時代が来るのだろうと思っています。既にこうした兆候は、病院でも表れつつあります。

医師1人当たりの入院患者数指数と高齢者の割合(CDIメディカル試算)
 弊社の試算でも医師1人当たり1日平均在院(入院)患者数指数は、08年を100とした場合、85.6(14年)→82.1(16年)、医師1人当たり1日平均外来患者数指数は、85.1(14年)→81.0(16年)といずれの患者数指数も減少傾向にあります。

 では、医師の負担は以前に比べて減ったのかと言うと必ずしもそうとは言い切れません。グラフにもある通り全体の患者数に占める65歳以上の在院患者数の割合が66.7%(08年)→70.9%(14年)、外来患者数の割合が49.1%(08年)→53.9%(14年)といずれにおいても増加傾向にあり、患者数は減ったものの、高齢者の割合が増えたことによる患者対応の難しさや複雑性が増加したことで結果的には変わらず、もしくはこれまで以上に手間がかかる状況になっているようです。

医師1人当たりの外来患者数指数と高齢者の割合(CDIメディカル試算)
 医師需給分科会は、試算結果とともに、地域間や診療科間といった医師の偏在の是正や女性医師の労働環境整備、新専門医制度や医師の働き方改革への配慮などにも言及しています。

 全体を捉える「鳥の眼」とともに、現場の実態にも配慮した「虫の眼」は、医療業界を考える上では必須といっても過言ではありません。病院を取り巻く医療業界ほど専門職者、プロフェッショナルが複合組成されている組織体は他に類を見ません。だからこそ、あえてその垣根を越えてお互いや全体を理解すること、その隙間を理解することが求められるのです。(CDIメディカル・宇賀慎一郎)

【医療業界を多角的な視点で】
 弊社は「CDIメディカルの医療インサイト」を通じて、多角的な視点から日本の医療を考えてみたいと思います。他国の事例や医療に関わるさまざまな方の声などもお伝えしていく予定です。この連載が、医療関係者の相互理解、ひいては議論の活性化や生産性向上につながるように努力してまいります。どうぞよろしくお願いいたします。

 株式会社CDIメディカルは、国内初の独立系経営戦略コンサルティングファームであるコーポレイトディレクションが設立した、メディカル・ヘルスケアに特化した経営戦略コンサルティングファームです。 業界に関する専門的知見と、国内外医療関係者との密接なリレーションシップを基盤として、企業や医療機関の経営課題を解決すべく、さまざまなサービスを提供しています。
◇本社所在地 東京都品川区東品川2-2-4 天王洲ファーストタワー23階 電話03(5783)4130

宇賀慎一郎(うが・しんいちろう) 株式会社CDIメディカル最高執行責任者。関西外国語大学外国語学部卒、青山学院大学大学院国際マネジメント研究科修了(MBA)、ボストン・サイエンティフィック ジャパン、ジョンソン・エンド・ジョンソンを経て現在に至る。



→〔第2回へ進む〕注目されるイスラエルの医療システム 日本と違う国民皆保険制度


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