(第1回)見えない医療業界の現実
機能分化、山積する課題
2016年6月聖路加国際病院への中央労働基準監督署の立ち入り調査は、病院を取りまく医療業界関係者にとって、ひとごととは思えない大きな出来事でした。一般の人たちにとってもそのしわ寄せは少なからずあったと思います。事実、聖路加病院はいち早く、勤務医の長時間労働を抑制するために、土曜日の外来の診療科目の縮小を打ち出しましたが、医師の長時間労働や残業代未払いの是正効果への期待とは裏腹に、一般の人たちにとっては不便さへの理解を求める結果となりました。
私たちは、医療過誤のニュースをたびたび見聞きします。ですがその一方でいかに患者は、医師や医療関係者のサービスの恩恵にあずかってきたのかを十分に知る機会が、極めて少なかったように思います。特に「機能分化」によって患者を取り巻く各プロフェッショナルの役割が、以前にも増して細分化、限定化したことで、実態がさらに見え難くなってきました。
こうしたことは、医療業界関係者と一般の人たちの間だけに生じるものではなく、病院の関係者間でもたびたび目にします。例えば医師と看護師や、同じ医師でも院長と診療科部長など挙げればきりがありません。少し畑が違うだけにもかかわらず実態を全然知らない、理解しきれていないといったことが日常的にあるのが病院を取り巻く医療業界なのです。
◇あふれる情報、万事良いとは限らず
17年6月の通常国会で成立した改正医療法では、新たに医療機関サイトの虚偽、誇大なども医療の広告規制の対象とすることが盛り込まれました。18年6月ごろまでに施行される見込みです。この改正は、医療情報の格差是正に逆行するように思うかもしれませんが、個人的には非常に望ましい改正だと捉えています。
患者にとって医療機関のサイトは、もはや必ず見るチャンネルの一つです。これまでは、そうした特性を悪用したサイトやブログが野放しの状況にありました。ある特定のブロガーが、口コミサイトやサイトに体験談を書き込み、医療機関から報酬が支払われるケースも有り得たのです。
今後は医療機関以外のサイトも、広告規制の対象とするか検討する段階にありますが、個人的には、ぜひ規制対象とすべきだと思っています。
「○○ランキング」といった手術件数だけで評価する傾向やバイアスがかかっていることがうかがえる評価を、一般の人たちがうのみにしてしまうことが既に起こっています。さらに言えばそうした傾向を逆手にとって、ランキング上位を目指すことに躍起になってしまう医療機関も見受けられる始末です。
医療業界は「見えない」事実のもとに成り立っており、その弊害を述べたわけですが、知らないままで良いこともあります。
(2018/02/10 16:00)