Dr.純子のメディカルサロン

医師のIFなんて存在しない 第18回

 研究者の間では、「Publish or Perish」 という有名な言葉があり、論文を学術誌に掲載できなければ研究者としての存続は困難であるという意味合いです。いくら学会発表したり、臨床現場で診療したりしても査読付きの学術書に論文を載せられなかったら意味がないということになります。

 話を元に戻しましょう。

 IFは学術誌のレベルを示す基準であり、医師や研究者を評価する物差しではありません。質問をした女性に「どうしてそんなことを聞くの」と尋ねたところ、テレビの医療ドラマで医学部の教授がインパクトファクターの点数を競うシーンを見たとのことでした。そこで私もそのドラマを見たのですが、確かに教授たちがインパクトファクター競争をしていました。驚きました。こういうことは現実にはありません。

 ドラマだから現実とは違う、と言ってしまえばそれまでですが、視聴者の中には事実に基づいていると誤解する人もいるでしょう。実際、このドラマに関しては、治験コーディネーターが実際にはあり得ないような接待などをする場面があり、それに対して、日本臨床薬理学会が抗議していました。治験については第三者を含む倫理委員会が厳しく審査しているのが現実です。

 特に2013年に大きく報じられたディオバン事件(降圧剤の治験データ改ざん)をきっかけに治験の研究計画やデータの管理はさらに厳しくなり、利益相反も入念に調べられるため、現状では接待などまず、あり得ません。ドラマは真実以上に真実らしく描かれてしまうことが多いだけに、誤解を与えないようにしてもらいたいと思います。

(文 海原純子)

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