Dr.純子のメディカルサロン
西日本豪雨災害とハザードマップ 久保田崇・立命館大教授(元陸前高田市副市長)
(3)ハザードマップが作成されていない地域が安全とも限らない
静岡大学の牛山素行教授らの調査※によると、2004~17年に国内の風水害で死亡・行方不明になった819人のうち、被災場所が詳しく分かった人の中で、「土砂災害」犠牲者288人については危険区域などの「範囲内」73%、「範囲の近く」15%、「範囲外」12%であったが、「洪水」「河川」犠牲者116人については、「範囲内」18%、「範囲の近く」16%、「範囲外」66%でそれぞれ亡くなったとのこと。「洪水」「河川」は多くが「範囲外」で亡くなっているように見えるが、その85%は「低地」であることから決して想定外とは言えないとしている。※(出典)牛山素行(2018)「豪雨災害による人的被害と地形の関係について」日本地理学会発表要旨集, No.93, p.76
この調査結果からは、「土砂災害」はほぼ範囲内と重なり、「洪水」「河川」はハザードマップが作成されていないことによる「範囲外」も多いが「低地」であることから地形的にはある程度被害予測が可能であることが読み取れます。
ハザードマップについては、大きな河川付近では作成されていても、中小河川付近では作成の手が回っていないことも、この要因の一つとされています。
中小であっても河川や崖等の近くにお住いの場合には、ハザードマップが作成されていなくても、とりわけ「低地」の場合は、油断は禁物であると言えるでしょう。
本稿ではハザードマップの課題と注意点を述べました。ハザードマップをよく知る人の中にも、「マップは100%正しいとは限らないから、参考にならない」と考える人もいるようですが、私はそうは思いません。
仮にマップの「精度」に問題があったとしても、その地域に何らかのリスクがあることは間違いのないところだからです。
その意味では、まず自宅周辺地域にハザードマップがあるかどうかを確認し、マップの存在が確認できたなら(マップ以上の危険が差し迫る可能性も念頭に置いた上で)活用すべきですし、仮にマップがない場合であっても、河川や崖等が近くにある場合には、細心の注意を払うべきでしょう。
また、今後自宅を新たに購入する場合や引っ越す予定のある方も、物件近くのハザードマップをあらかじめ確認した上で行動に移すことをお勧めします。
今回の災害を契機に、ハザードマップなどを調べて、自宅周辺のリスクを認識する機会としたいものです。
※ハザードマップを調べたい場合には、「自治体の名前 ハザードマップ」などで検索してみてください
久保田 崇(くぼた・たかし)
1976年静岡県掛川市生まれ。京都大卒。内閣府に入り、英ケンブリッジ大でMBA取得。東日本大震災後の陸前高田市で副市長を4年間務めた(2011-15年)。日本心理カウンセラー協会正会員。16年から立命館大公共政策大学院教授。著書に「官僚に学ぶ仕事術」「官僚に学ぶ読書術」など。
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(2018/08/03 17:03)