教えて!けいゆう先生

先生ならどの治療を受けますか?
医師が答えるのは難しい理由

 患者さんに検査や治療を提案する時は、考えうる選択肢のメリット、デメリットを医師が丁寧に説明し、患者さんに十分な理解と同意を得た上で選ぶ、というのが一般的です。これを「インフォームドコンセント」と呼ぶこともあります。しかし、専門知識を持たない患者さんに対して、十分な説明をした後、「好きな方をお選びください」と言っても、すんなり一つを選べる方は多くありません。

 そこでよく患者さんがされるのが、「先生ならどうしますか」という質問です。ご家族の治療に悩んでいる場合は、「先生のお母さまならどうされますか」というように聞かれることもあります。

 実は、これは私たち医師にとって答えるのが少し難しい質問です。そう思う理由は、大きく分けて二つあります。

 ◇自分の答えの影響の大きさ

医師でも迷う難しい質問
 治療の選択に悩んだ時、「目の前の医師が自分の立場ならどうするか」という疑問を持つのは当然のことです。知識が豊富な専門家が、もし同じ立場に立たされたらどう考えるかを参考にしたい、と考えるのはごく自然なことでしょう。

 しかし、その悩ましい状況において、「自分ならこうする」という医師の回答は、患者さんに絶大な影響を与えてしまうことを私は意識します。特に「自分を信頼してくださっている」と感じる患者さんに対して、「私ならこれを選びますよ」と安易に答えると、自分が選んだ選択肢にほぼ完全に誘導することになります。

 患者さんは「治療の詳細はあまりよく理解できなかったが、先生がこれを選ぶと言っているのだから間違いないだろう」と思ってしまう可能性があるからです。こうして理解が不十分なまま治療を始め、何らかの合併症が起きた時、医師と患者さんとの間でトラブルに発展する恐れもあります。

 ◇「医師でも悩ましい」という現実

 むろん、医師の考えを聞きたいと考える患者さんに対して、「お答えできません」としか答えないのは誠意を欠く行為です。そこで私は、自分の立場であればどれを選ぶかを説明した上で、「治療から具体的にどんなメリットを享受でき、デメリットをどういう理由で許容するか」を丁寧に説明するようにしています。

 特に、デメリットを許容できない可能性があれば、自分の選択肢をお薦めすることはできません。非常に慎重な説明が必要になるポイントです。

 なお、もし「自分が患者さんの立場ならこれを選ぶ」という答えを容易に決められるなら、そもそも提示した選択肢は対等でないことになります。

 悩ましい局面においては、自分が患者さんの立場でも悩ましい。つまり、専門家がメリット、デメリットのバランスを考えても一方だけを選びにくい、といったものであるはずです。したがって、「医師でも悩ましい」という現実があることも十分ご理解いただきたいところです。

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