医学生のフィールド

ドクターヘリから診療船まで、見て感じて学ぶ地域医療
~東京女子医大「地域保健研究会」~


夏合宿で訪問した香川県直島町の診療所

夏合宿で訪問した香川県直島町の診療所

 ◇救急現場にも立ち会い

 ―夏合宿以外の活動についても教えてください。

 
宮城さん 春合宿は、千葉県八千代市に地域医療研究会OGの先生がクリニックを開業されたので、そこで働く看護師さんに同行して訪問看護を見学させていただきました。大学では、訪問診療、訪問看護はなかなか見学に行ける機会がありません。

 そのクリニックは高齢者施設が付設されていて、訪問診療は医師、訪問看護は看護師というように別々に行っていました。その両方を見学しました。

 夏と春の合宿以外に、ドクターヘリの見学に行きます。これは東海大学でお世話になっています。人気ドラマ「コードブルー」の影響で、ドクターヘリが見たくて、入会する人もたくさんいます。

 当日はヘリの内部の見学だけでなく、朝から夕方まで救急の現場に立ち会い、救急患者の処置を見学します。大学では5年生になると、病院実習で見ることはありますが、低学年から現場を知っておくというのは、イメージが湧きやすくなり、大学の授業の内容も理解しやすくなりました。

 ―地域によって提供する医療に違いがあるのは、興味深いですね。

 宮代さん それだけでなく、地域の特色と、住民性、特産物をひもときながら、かかりやすい疾患が何かを調べることができます。奄美だと、糖尿病の患者さんが多いのですが、原因を探っていくと、柑橘系の果物が特産品なので、収穫した物が売れなかったり、残ったりした物を自分たちで食べていることによるのではないかと推測できます。

 また、娯楽が少ない地域の場合、パチンコやアルコールなどに走る人が多くなります。香川も、うどんの消費が全国で一番多いことが関係しているのか、糖尿病の全国ワースト3になっています。さらに、自殺の名所として有名な橋がある地域では、新学期前になると、自殺者が増えるので、ドクヘリがよく飛ぶそうです。

前代表の宮城さん

前代表の宮城さん


 宮城さん 病院実習や病院見学に行くだけでは分からない地理や環境、文化、食べ物などの特産品等も含めて、その地域の特徴を頭に入れて医師に話を聞き、診療を見学するのは、本当に面白いです。夏合宿はそれをリポートにしています。

 ◇地域医療をきちんと学ぶ

 ―入部したきっかけは何ですか。


 宮城さん
 私は出身が沖縄県なので、大学を卒業したら、将来的には沖縄に戻ろうと思っています。ということもあって、地域医療について、きちんと学びたいと思いました。

 ドクターヘリの見学ができるというのも、ひかれました。見学に行った時の研究会の雰囲気が大変アットホームで、夏合宿では先輩方ともすぐ仲良くなれました。活動以外のプライベートな時間でも仲良くしてもらっています。

 宮代さん 地域住民にとっては当たり前となっていることが、第三者の視点から見ると、他の地域にはない特徴だったりすることがあります。昔からの慣習や文化、環境、食生活を知った上で、どういう疾患が多いかを推察することはとても大切です。現地に行ってみて、初めて分かることもいっぱいあります。

 また、地域医療の問題は過疎地域だけにとどまるわけではありません。過疎地域であっても、コミュニティがしっかりできていて、人の結び付きが強いところもあります。逆に、都会で医療者も人もいっぱいいても、結び付きがないところもあります。

 都市と地方を比較することで、新たな問題点や自分が何をしていけばいいのかを考えるきっかけになり、大変勉強になります。

 宮城さん 低学年のころは、医学的知識がない中で見学するので、医師と患者の関係を雰囲気から感じ取ることができます。低学年は臨床に接する機会が少ないので、実際、これから医師として働くときに目指したい像が湧きやすくなります。

 イメージができることで、勉強に対してのモチベーションも上がりました。自分自身が目指す医療は模索中ですが、患者さんとの医療面接がどれだけ重要かということを理解する上でも、よかったです。

 地域の医療機関では、一般的な疾患が多いので、初診の医療面接で、患者さんの言いたいことや不安なことを引き出すことがポイントだということを知りました。そこは、この研究会に入っていたからこそ、学べたものだと思っています。

 ◇他大学と情報交換したい

 ―今後の活動で取り組んでいきたいことはありますか。

 
宮城さん 兼部している人が多いので、積極的に活動に参加してもらえるよう、事前に合宿地のリサーチを行うなど、定期的に勉強会を開催していきたいと思っています。

前副代表の宮代さん

前副代表の宮代さん


 宮代さん 無医地区研究会発足当初の資料を調べてみて、地域の課題を行政任せにするのではなく、自分たちにできる小さな努力を積み重ねることで、少しでも地域保健に貢献しようとする先輩方の姿勢に感銘を受けました。当時とは医療を取り巻く環境も変わっていますが、今、自分たちができることは何かを考えていきたいと思っています。

 宮城さん 現在、地域医療の現場を見学することが主要な活動となっていますが、かつては住民のために公衆衛生の資料を作って配布していました。今後は訪問した地域の住民に対して、予防や健康についてリポートやイベントを行って、啓発していけるとよいと思います。また、全国の他大学の学生と連携して、情報交換をするなど、横のつながりもつくっていきたいです。(記事の内容、肩書などは取材当時のものです)


  • 1
  • 2

医学生のフィールド