治療・予防

関心高まる遺伝性乳がん
発症前に乳房の予防的切除も

 米国人女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが両乳房の予防的切除を受けたことで関心が高まった「遺伝性乳がん」。聖路加国際病院(東京都中央区)副院長・乳腺外科部長・ブレストセンター長の山内英子医師に、この病気の発症原因や治療法、発症を減らすための予防治療とその意義について聞いた。

遺伝性乳がんの簡単問診票

 ▽遺伝子変異でリスク上昇

 国内では年間推計9万人が新たに乳がんと診断されるが、そのうち7~10%が遺伝性乳がんだ。このうち最も患者数が多いのが、「BRCA1」「BRCA2」という遺伝子に異常があるタイプで、乳がんの3~5%を占める。どちらかの遺伝子に変異があると、乳がんだけでなく、卵巣がんを発症するリスクも高まり、「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」と呼ばれる。

 変異があると、女性が70歳までに乳がんになるリスクは49~57%、卵巣がんは18~40%と、一般の女性(9%、1%)に比べて格段に上昇する。山内医師は「誤解してほしくないのは、仮に遺伝子変異があっても必ずがんを発症するわけではないということです」と説明する。

 ▽発症リスクを減らす治療法

 同病院では、2006年にいち早く遺伝カウンセリングと遺伝子検査を導入し、11年から検査結果が陽性の希望者に対し、乳房の予防的切除が受けられる体制を整えた。この遺伝カウンセリングを16年には209人が受診し、うち126人が遺伝子検査を受けたという。

 検査で陽性だった場合、乳がんの発症リスクを減らすにはどんな手だてがあるのか。現時点では〔1〕MRIなどの画像検診を6~12カ月に1回継続する〔2〕薬物療法を行う(タモキシフェンを5年間服用)〔3〕手術で乳房を摘出する―の三つの対応策がある。

 山内医師は「遺伝子変異のある人が予防的に乳房切除を行うと、乳がんの発症リスクを90%近く減らせます。低減効果が50%とされる薬物治療より予防効果が大きく、当院では遺伝子変異のあった約200人のうち、約60人が予防的切除を受けています」と話す。

 ただし、健康保険の適用外のため、検査費用の約25万円以外に、片側の乳房切除に25~50万円、再建を含めると100万円以上自己負担になるのが問題だという。

 山内氏は「将来乳がんになるに違いないと不安を抱えている人に、さまざまな選択肢があることを知ってもらい、ベストな選択を一緒に考え、寄り添うことが大事だと思っています」と語る。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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