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500万人に上るとされる認知症は、いわば「普通の病気」になったと言ってもよいかもしれない。認知症になったとしても、その人らしい人生を送ることができる。問題は、心配する家族の行為が患者を追い詰めてしまうことがあることだ。専門家は「家族や周囲が症状を引き起こし、悪化させることがあることを知ってほしい」と強調する。
周囲が認知症の症状悪化招くことも
◇困難な定義
今は、認知症という言葉を知らない人は少ないだろう。だが、認知症の定義は何だろう。東京慈恵会医科大学の繁田雅弘教授は「認知症とは症状の総体を指すと考えてほしい。脳内に異常な物質が沈着するアルツハイマー型、レビー小体型は病気として明確に定義できるが、認知症全体を定義するのは実は難しい」と説明する。
高齢者が「財布が見つからない」と一日中探し回るようになる。これは本人にとってもつらい。60歳くらいでも、それまでなかった書類など仕事関係のミスをしばしば侵すようになる。
「年齢を考慮した平均的な能力からみて、認知症かどうかを判断する。認知症の場合はある時期を境に能力が低下する。うつ病や一時的な体調不良などの可能性を否定できれば、認知症と診断する。その次に、原因となる病気を見極める」と言う。
◇患者を追い込まない
認知症には、物忘れや時間、場所の感覚があいまいになる「中核症状」と、これが基になる「行動・心理症状(BPSD)」がある。抑うつや不安、幻覚、妄想などといったものだ。抑うつや不安、それが高じた興奮や攻撃性など感情面の症状は家族や周囲が原因となったり、悪化させたりすることも多い、と繁田教授は指摘する。
「日記をつけなさい」「計算をしてみましょう」「散歩しましょう」「体を動かしなさい」…。家族が認知症の症状を受け入れられず、心配のあまり不安を患者にぶつけてしまい、患者にとってはかえってマイナスになる。繁田教授は「例えば、車椅子に乗っている人に『歩け』と強要することはない。それは認知症も同じ。家族は口を出さずに、黙って助けてあげたり、見守ったりすることが大切だ」とアドバイスする。
「悲しんだり、怒ったりするのは人として当たりまえで、それなりの理由がある。感情面では正常だ。財布や鍵が見つからないことで、本人は自分を責めている。そこに加えて周囲が責めるのは本人を追い込むだけだ」
ゲームを楽しむ高齢者(イメージ)
◇「だまし討ち」はやめよう
「病院で検診を受けてみようね」などと言って、家族が本人に隠して医療機関に連れて行くことも少なくない。家族は本人がいない所で、相談して決めている。しかし、「患者本人は分かっているし、理解している。一種の『だまし討ち』に等しい。結果的にBPSDになることもある」と繁田教授は指摘する。
ケアマネジャーや民生委員ら第三者の助言の方が、有益なことも多い。「病気かどうか分からないけれど、一度病院に行ってみましょうか」と持ち掛けてみたり、「認知症かもしれません。つらいかもしれませんが、診断を受けませんか」と正直に話してみたりすることが大事だからだ。「ポイントは、本人を物事が分からない人と決めつけて、周囲で結論を出してしまわないことと誠実さだ」と繁田教授は話す。
(2019/07/25 06:00)
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