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可愛い犬と一緒、手術も平気
「勤務犬」が病院で活躍

 「ワンちゃんと一緒だから、手術も怖くないよ」。難しい手術を前に、小さな女の子が両親に言う。末期がんの患者のベッドに犬が寄り添う。患者はホッとしたような穏やかな表情を浮かべている―。患者の心をいやすために、犬が医療機関で活躍する時代が来ようとしている。

ベッドの上の患者に全身を抱きしめられているモリス=聖マリアンナ医科大学病院提供

 高齢者施設や難病の小児を治療する病院で、イベントなどで犬と触れあう「アニマルセラピー」と呼ばれる活動を目にする機会が多くなった。しかし、衛生管理が厳しく、治療としての成果が求められる医療機関で恒常的に実施するのは難しい。

 その中で、聖マリアンナ医科大学病院(川崎市)は週に2日、1匹のスタンダードプードル「モリス」が、緩和ケアチームの一員である「勤務犬」として、子どもだけでなく、成人の患者やその家族の精神的安定と不安の解消、治療意欲の向上に貢献している。

 ◇犬の体は清潔

 モリスの活動場所は、入院病棟の病室や談話室にとどまらない。手術やつらい治療を嫌がる患者に付き添って手術室や処置室まで、その患者に同行する。リードを手にした患者と共に病棟内を「散歩」したり、切迫早産の恐れで入院・出産した妊産婦や生まれた新生児を励ましたりしている。

子どもの患者に手術室まで付き添ったモリス=聖マリアンナ医科大学病院提供

 衛生管理や人畜感染症の問題が心配ではないのだろうか。勤務犬の導入に汗を流してきた北川博昭院長(小児外科)は「専門の医師にモリスに付着している細菌などを調べてもらった。多忙な研修医の白衣よりも清潔だと評価されている」と話す。

 「もちろん、がんの治療などで免疫が低下している患者については主治医とよく相談するし、犬アレルギーや犬が嫌いな他の患者さんのことも十分配慮している」

 ◇患者の精神的負担軽減

 モリスに期待されているのは、長くて苦しい入院生活の中で病気への不安を抱える患者と触れ合うことで、その精神的な負担を軽減することだ。北川院長は「モリスと触れ合ったり、抱きしめたりすることで不安や苦痛が解消するという患者は多い。さらに、これを続けることで患者とモリスの関係も密になり、それだけ効果も上がっている」と言う。

 「今の先端医療は効率と短時間で目に見える効果を追及する傾向が強い。本来の医療とは、同時に患者の安らぎや笑顔も同じように追い求めなければいけないのではないか。このためにモリスはこの大学病院に欠かせない存在だ」

 勤務犬の存在は、いわば医療機関の「ゆとり」と言えるだろう。

モリス(左)とミカ

 ◇職員が自宅で飼育

 同院が勤務犬による正規の動物介在療法を開始したのは、2015年4月。モリスの先代の「ミカ」を日本介助犬協会から貸与され、小児外科の医師と小児科病棟の看護師長がミカの管理役の「ハンドラー」を務め、看護師長の自宅で飼育した。

 勤務犬の活動の継続性や院内での連携の確保などを目指したもので、関係職員とその家族が協力する形で始まった。現在のモリスも、犬を愛する看護師2人が分担して自宅で飼育している。

 ミカの活動は小児病棟だけでなく、難産が予想されて入院する妊婦の多い産婦人科や、緩和ケアのニーズが多い腫瘍内科などに及んだ。活動開始から18年1月までに勤務犬としての活動は200件以上。そのほとんどで「情緒的安定」や「闘病意欲の向上」などの効果が認められた。ただ客観的評価が難しい分野なので、研究として効果を立証するのは難しい面があるという。

北川博昭聖マリアンナ医科大学病院長

 ◇小児がんの患者も笑顔に

 ミカの活動時間いっぱい、ミカを病床で抱きしめていた成人患者。長年手術を拒否していた小児患者が「ミカと一緒なら」と歩いて手術室に入っていった。抗がん剤治療による吐き気に苦しむ小児がんの子どもがミカと会い、笑顔を見せた。北川院長は当時を振り返って、その効果を強調する。

 ただ、嗅覚や聴覚が発達した犬にとって、病院は決して快適な環境とは言えないし、患者との接触によるストレスも無視はできない。週2日に活動を絞っているのもこのためだ。それでも、体調によっては、ハンドラーの判断で活動を中断したり、予定の一部を後日に延ばしたりするケースもある。

 「勤務犬用の専用控室はあるが、ミカはしょっちゅう院長室にやって来た。私が昼食を食べるのを見ながら、自分も食事をすることもあった。夏には食事の後、冷たいビニール生地のソファに寝転んで休憩していた」と、北川院長は目を細めた。(喜多壮太郎・鈴木豊)

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