治療・予防 2024/11/21 05:00
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日本人は温泉が大好きだ。それは、オストメイトといわれる大腸がんや膀胱(ぼうこう)がんなどの病気で、「ストーマ」という人工肛門や人工膀胱を装着する人たちも変わらない。他の客の反応を気にするホテルや旅館などの受け入れ先が二の足を踏む中で、旅行会社とストーマ装具製造メーカーが企画した画期的な「オストメイト・ツアー」に同行させてもらった。
温泉を楽しむ参加者
◇温泉はいいねえ
「温まった。やはり、温泉はいいもんだねえ」
千葉県木更津市にあるホテルの大浴場で、2020年に80歳を迎える男性がうれしそうに話した。ストーマ装具を付けてから15年近くになる。記者も、大浴場で隣にお邪魔した。装具の上に肌色の防水シールを貼っており、ほとんど目立たない。
「お風呂に入るのは週に2回。本当は毎日、入りたいね」
ストーマ装具=アルケア提供
健康な時は、旅行が好きで北海道から東北、四国四県、沖縄など全国の各地を回った。しかし、今回のような「温泉旅行」は初めてだという。一緒に温泉に漬かった後で感想を尋ねると、「生まれて初めて、男同士の裸の付き合いを体験させてもらった。また機会があれば、来たいよ」。記者よりも人生の大先輩が「初めて」と言うのは謙遜だろうが、体だけでなく心も温まった。
◇自信が付いた
東京から来た82歳の女性は、娘さん夫婦と共に参加した。ストーマの経験は2カ月だが、温泉に行きたかったという。娘さんによると、「母は好奇心が強く、打たせ湯も楽しんだ。他の皆さんも笑顔で、私もうれしい。ちょうど良い湯加減だった」と、温泉を満喫したようだ。娘さんは何より、「母が自信を持った表情に見えた」ことを喜んでいた。
◇これが普通の旅行に
「ストーマ7年目でだいぶ慣れたが、漏れることが気になるストレスは変わらない」と語る参加者の50代の女性(東京)は、車による家族旅行を楽しんできた。温泉旅館も訪れたが、部屋に備えてある風呂や入浴する客が少ない朝食の時間帯を選び、浴場に行った。気を使うことが多かった。今回は一人で参加。家族から「楽しんでおいで」と、送り出されたという。
製品作りを体験する参加者たち=アルケアの工場
「ちょうど良い湯加減だった。楽しかった。こんな旅行が普通になってほしい」
◇メーカーも励みに
ツアーの後半では、ストーマ装具製造で日本で一つしかないアルケアの工場(千葉市)を訪れ、製品が出来上がる工程を見学した。これが、温泉入浴と並ぶ、今回のツアーの目玉だ。参加者は興味津々で、ロボットが次々に工程を繰り返す様子に目を見張った。
同工場の責任者の1人は「私たちは日々、製品作りに心血を注いでいる。ただ、じかに利用者と接する機会がなく、大変励みになった」と語った。
◇海外旅行にも挑戦を
見学会には、自身もオストメイトである金沢大学名誉教授(歯科口腔外科学)の山本悦秀氏も駆け付け、「わが友オストメイトよ、旅に出よう!」と題して講演した。山本氏は2005年、60歳の時に大腸がんを発症し、計3回の開腹手術を受けた。「奇跡的」と本人が語る「5年生存」を機にストーマを「仮設」から「永久受容」に切り替えた。
「旅に出よう」と呼び掛ける山本悦秀氏
国内外の装具を実際に試してきた山本氏はマラソンが趣味で、装着後も走ることを続けてきた。「7年前ではフルマラソンを完走したが、今は10キロのマラソンを楽しんでいる」。人生に対して極めて前向きな山本氏は海外旅行の経験が60回に及び、このうち22回が装具装着の旅だった。
「通常の使用料の2倍程度をスーツケースと手荷物バッグに分けて入れることがこつ。空港でボディーチェックを受けたこともないし、海外のホテルには室内プールを持つ施設も多く、気兼ねするケースも少ない」。山本氏はこう述べ、海外旅行にも挑戦しようとエールを送った。
オストメイトに対応する手すり付き便座や流しなどを備えた公共施設の多機能トイレが増えている。山本氏は「最近の調査によると、約半数のオストメイトが利用している。堂々と多機能トイレを使おう」と呼び掛けた。
◇臭いが気になるときのレシピ
アルケアの管理栄養士の平野未咲都さんは「大前提として、基本的には何を食べても構わない」と言う。日本オストミー協会によると、排せつ物の漏れとともに臭いがオストメイトの悩みになっている。特に臭いが出やすい食品はニンニクやアスパラガス、ネギなどで、ガスが出やすい食品の代表はイモ類と炭酸飲料だ。
平野さんはそう説明した上で、「消化器の臭いが気になるときは『納豆キムチのチヂミ』と『ぬか漬けステーキ』を、泌尿器の臭いが気になるときには『ユズと甘酒のゼリー』『ブロッコリーの素揚げ・アンチョビみそマヨネーズ』がお勧め。とにかく食事は、笑顔でおいしく食べるのが一番だ」と語った。
参加者とスタッフが一緒に入浴
◇ユニバーサルツーリズム推進
近畿日本ツーリスト首都圏のユニバーサルツーリズム推進担当の伴流高志氏は「企画を立ち上げてから実現するまでに、約2年かかった。ただ、ホテルや旅館に電話で趣旨を説明するだけでは、理解は得られない。ストーマ装具の販売代理店やオストメイトに関わる医師や看護師らを通じて私たちの思いを伝えた」と振り返る。
「例えば、車椅子の身体障害者の方は周囲の人たちの理解が得られやすいが、オストメイトは事情が異なる。しかし、顧客の一人ひとりが抱える課題を解決することが、これからのユニバーサルツーリズムだ。今回はそのベースとなる『導入ツアー』で、継続することが重要だ」。伴流氏は、こう力を込めた。(鈴木豊)
(2019/12/12 08:39)
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