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がん患者におけるせん妄 
症状を理解し、落ち着いて対処を

 患者が突然、つじつまの合わない話を始める、家族のことが分からなくなる、治療していることを忘れて点滴のチューブ類を抜く―。このような状態はせん妄(意識障害)と呼ばれ、入院患者でしばしば見られる。がんの患者で起こりやすい精神症状だが、適切な治療をすれば良くなる例が多い。患者の様子がいつもと違うと感じたら、医師や看護師にすぐに伝えたい。

 ▽終末期の半数以上に出現

 国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)精神腫瘍科の小川朝生科長は、せん妄について「脱水、感染・炎症、痛み、貧血、薬物など、体に何らかの負担がかかったときに、脳の機能に乱れが生じて起こる状態」と説明する。ぼんやりしている、昼夜の区別がなくなる、家と病院を間違えるなど、時間や場所の感覚が鈍くなるといった症状が見られる。

 突然発症し、夜間に症状が強くなり、一日の中で変動があるのが特徴だ。症状の変化が少なく、時間の経過とともに進行する認知症と区別する際のポイントになる。

 高齢者、大量飲酒者、認知症患者、脳卒中の発症歴のある人、がん患者などでよく見られる。がん患者の場合、「抗がん剤や鎮痛薬による治療中に起きやすく、終末期の患者では半数以上に表れます。鎮痛薬は多過ぎても少な過ぎても、せん妄のリスクになります」と小川科長。カルシウムの代謝異常を起こす高カルシウム血症や、脳転移のあるがん患者でも生じやすいという。

 ▽原因を取り除いて薬で治療

 治療では、原因を取り除き、せん妄からの回復を目指す。小川科長は「脱水、感染・炎症などを治療し、せん妄に対する薬物療法を行えば、大半は良くなります」と話す。

 使用する主な薬剤は、クエチアピン、リスペリドン、オランザピンなどの抗精神病薬。「ベンゾジアゼピン系の抗不安薬、抗ヒスタミン薬のヒドロキシジンを使うケースもありますが、せん妄を悪化させる危険性があるため適切ではなく、積極的には使用していません」と言う。

 強い痛みがあると、せん妄を悪化させたり、長引かせたりしやすい。そのため痛みを軽減することが大切だという。さらに、便秘を予防する、睡眠リズムを整えるために日中起きている時間をつくる、積極的にリハビリを行うなどのケアが重要になる。こうしたケアは、せん妄の予防にも役立つのだという。

 患者の家族には、「患者がつじつまの合わない話をしても無理に訂正せず、いつも通り落ち着いた言葉を掛けてあげると安心します」とアドバイスする。(メディカルトリビューン=時事)

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