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鼓膜に穴が開いた状態になる鼓膜穿孔(せんこう)。穴の大きさなどによっては自然に閉じることもあるが、難聴の原因となるため、早めに穴を閉じる治療が必要だ。これまでは治療法は手術しかなかったが、鼓膜の再生を促して穴を閉じる薬が2019年に承認された。薬による治療のメリットと限界を専門家に聞いた。
鼓膜再生療法の特徴
▽自然に閉じない場合も
鼓膜穿孔の原因としては慢性中耳炎が最も多い。慶応大学病院(東京都新宿区)耳鼻咽喉科の神崎晶専任講師は「中耳炎になって炎症を繰り返すうちに膿(うみ)が耳の内部にたまり、鼓膜を突き破って外に流れ出て、鼓膜の穴が開いたままになります」と解説する。そのため、難聴や耳だれといった症状を伴うという。綿棒を耳の奥に突っ込んで起こる外傷も鼓膜穿孔の原因となる。
鼓膜には再生能力があり、穴の大きさや位置次第で1カ月ほどで自然に閉じることもあるが、閉じなければ難聴や耳だれも続く。神崎専任講師は「鼓膜穿孔を放置すると難聴が進むこともありますし、耳だれが増えて補聴器が故障する原因になるかもしれません」と注意を促す。
穴を閉じるための治療法はこれまでは手術に限られていた。手術には、患者の耳の後ろから皮膚組織を採取して鼓膜に移植するなどの方法がある。手術法や患者の状態にもよるが、「2~9日間程度の入院を必要とする場合が多いのです」と神崎専任講師。聴力回復が十分ではないといった課題もある。
▽手術せずに閉鎖可能
19年には鼓膜穿孔を薬で治療できるようになった。細胞を増殖させる働きのあるトラフェルミンという薬をゼラチンスポンジに染み込ませ、鼓膜穿孔部に留置する方法だ。薬の作用で鼓膜の再生が促されて穴が閉じるため「鼓膜再生療法」とも呼ばれ、難聴の改善も期待できる。
トラフェルミンによる治療を4週ごとに最大4回行った臨床試験では、20人中15人(75%)で鼓膜が閉鎖した。20人全員で聴力の改善が認められた。
神崎専任講師はこの治療法の利点として、皮膚組織を採取する手術が不要で入院の必要もなく、処置にかかる時間は20~30分程度と短時間であるなど、手術よりも患者の身体的、経済的負担が少ない点を挙げる。薬物治療の対象となる患者の例としては、「開いた穴が比較的小さく、鼓膜の中心部に開いている患者」とした。約4週ごとに通院ができることもこの治療法を選ぶ際のポイントだという。
一方で、「鼓膜穿孔が大きい人、耳だれが多量の人、手術後に再び鼓膜穿孔を来した人、鼓膜に石灰化とよばれる強い炎症変化のある人には、手術の方が適しているとも考えられます」と指摘する。その上で、「トラフェルミンに限らず、鼓膜穿孔の治療法は数十年前と比べて進歩しています。治療を諦めていた人も耳鼻咽喉科を受診してください」と話している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
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