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自殺率で長年、ワースト常連の秋田県。一方で、類を見ない民間主導の民学官連携が図られ、自殺対策の手本として注目されてきた。知人の自殺を機に立ち上がり、相談や各組織の連携を進めてきた、NPO法人「蜘蛛(くも)の糸」の佐藤久男理事長に取り組みや展望を聞いた。
佐藤久男さん
●NPO設立の経緯は。
「2000年に経営する会社が倒産した。数十人を解雇せざるを得ず、うつ病になった翌年に知人経営者が崖から飛び降りた。不況で支援団体もない中、相当の経営者が自殺するのではないかと知事に対策を嘆願すると、『法律がなく、行政ではできない。やってくれないか』と背中を押され、02年に設立した。今では弁護士や臨床心理士ら専門家も加わり、生活保護や家族トラブルなどさまざまな相談ができる体制を敷いている」
●他団体との連携について。
「自殺対策は1人ではできない。大事にしている言葉に、2016年改正前の自殺対策基本法にあった『関係者の相互の密接な連携の下に実施されなければならない』がある。どこにどんな手を打てばいいのか、データを基に大学が調査し、行政は財政面で協力する。秋田は自殺対策に取り組む民間団体が約50と多く、民間主導による民学官の『秋田モデル』がつくられた。
06年には県内の民間団体が集う『秋田・こころのネットワーク』をつくり、研修が開かれている。10年には、県の依頼で『秋田ふきのとう県民運動』を立ち上げ、全県を挙げての啓発活動を展開し、近所で悩みがある人がいれば相談先を教える、門番(ゲートキーパー)も養成している」
●自殺対策の課題は。
「若者の死因1位は自殺で、どう食い止めるか。8月からはLINE相談も始め、LINEから電話、面談と段階的に相談できる環境を目指している。60代以上の自殺割合も全体の5割を占め、減少率が低い。高齢者は、持病や後遺症の延長線上でうつ病を併発するケースも多い。特に農家は年金が月数万円ほどの人もいて、年を取って畑をやめても、田舎特有のスティグマから生活保護に抵抗感を持ち、貧困に陥りやすい。人を死なせないためには希望を持たせることが必要だ。希望は未来にあるが、高齢者は余命が短く、持病があり、収入も少ない。本人の苦しみを時間をかけて聴き、自分を支えてくれる人の存在を感じてもらう」
●新型コロナウイルス感染症を受けての展望は。
「全国から少しずつ相談が入っている。過去に山一證券やリーマン・ブラザーズの破綻で十分な対策を打てず、多くの人が亡くなった。来年の決算期に向けて手を打つ必要がある。メンタルを支えることがわれわれにできることの一つだと思う。自殺を自己責任と考える人が多い。私は相談者に『あなたの責任じゃない』と言う。人の財産はお金や物だけではなく、知識や体験は失われない財産だ。残ったものを使って復活すればいいと伝えたい」
●今後の活動は。
「苦しい人がいるのは県ではなく市町村だ。法改正で、すべての県、市町村で対策計画が策定されるようになった今、民間団体とともに、自治体の計画が実行できるモデルを目指したい」(了)
(時事通信社「厚生福祉」2020年10月27日号より)
(2021/02/16 05:00)
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