「医」の最前線 感染症・流行通信~歴史地理で読み解く最近の感染症事情~

百日ぜきと麻疹には、かかりやすい年齢がある 東京医科大客員教授・濱田篤郎【第16回】

 4月に入ってから百日ぜきや麻疹(はしか)の流行が話題になっています。感染力の強い病原体なので、国民全員にリスクがあるように思われがちですが、かかりやすい年齢層があり、それに応じた対策を取ることが必要です。今回は年齢によりどの感染症に注意すべきかを解説します。

 ◇高齢者の感染者は少ない

 先日、70代の方から次のようなご質問を受けました。

 「ニュースで百日ぜきや麻疹が流行していると聞きました。予防のためにワクチン接種を受けた方がいいですか?」

 この質問にもあるように、今年は国内で百日ぜきや麻疹の患者数が増えています。いずれも感染力が強く、重症になる人もいるので、高齢の方は特に心配されているようです。しかし、患者数が増えていると言っても、今年は3月末までの累積患者数が、百日ぜきは4771人、麻疹は58人で、昨年よりも多くなっていますが、新型コロナインフルエンザのように何十万人もの患者が発生している状況ではありません。さらに、患者の年齢を見ると高齢者は大変に少なく、百日ぜきは10代、麻疹は20~40代が多い状況です。

 こうした情報を基に、先ほどのご質問には次のようにお答えしました。

 「あなたの年齢で百日ぜきや麻疹にかかるリスクは低いので、ワクチン接種を受ける必要はありません。それよりも、夏に新型コロナがまた流行する可能性があるので、そちらに注意してください」

 ◇百日ぜきはなぜ増えているのか

 百日ぜきは細菌による呼吸器感染症で、その名のように強いせきを長期間にわたり起こす病気です。患者がせきをした時に病原体が飛散し、それを吸い込むことで感染します。1歳未満の子どもが感染すると重症化することがありますが、一般的には3カ月ほどで改善します。

 2018年から百日ぜきは患者の全数が把握されており、年間1万人を超える数が報告されてきました。しかし、新型コロナの流行が始まった20年以降は患者数が少なくなり、1000人を下回る年もありました。これは他の呼吸器感染症と同様、コロナ対策が百日ぜきの予防にも効果を発揮したからと考えられています。このため、対策が緩和された24年は患者数が年間4000人まで増え、25年は3月末までに前年の年間患者数を超えてしまったのです。

百日咳の流行状況(東京都 2025年)=東京都感染症情報センターホームページより

百日咳の流行状況(東京都 2025年)=東京都感染症情報センターホームページより

 増加の原因として、コロナ対策で患者数が減っている間に、国民の百日ぜきへの免疫が低下してしまったことがあるでしょう。このメカニズムは他の呼吸器感染症の場合と同様です。その状態でコロナ前の流行レベルに戻ってきたわけです。

 海外では、コロナの流行が拡大した期間、百日ぜきワクチンの小児への定期接種が停滞した国もあり、患者数の増加を招いていますが、日本の接種率には大きな変化はありません。ただし、日本では百日ぜきワクチンの定期接種制度そのものに問題があります。

 ◇百日ぜきは10代 

 現在増加している百日ぜき患者の年代は、10代が最も多くなっています(図1)。これは、学校のような集団生活の場で流行しやすいとともに、ワクチンの有効期間が関係しているようです。

 日本の定期接種では、百日ぜきワクチンをジフテリア破傷風、ポリオなどとの混合ワクチンとして、生後2カ月以降から1歳までに4回接種します。これ以降は追加接種をしませんが、百日ぜきワクチンの有効期間は5~10年ほどしかないため、10歳近くなると効果が薄れてしまうのです。そこで、欧米などでは学童に定期的に追加接種をしています。このような状況から、日本小児科学会は、小学校入学前や11~12歳時に、任意接種で百日ぜきワクチンを受けることを推奨しています。

 こうしたワクチンによる予防が根本的には必要ですが、現状として、まず強いせきが続く場合、医療機関で百日ぜきの検査を受けるようにしましょう。診断が付けば抗菌薬による治療に入ります。また、患者が学童であれば、せきが続く間か抗菌薬治療が終了するまでは、学校を休むことが学校保健安全法で求められます。

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