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卵巣がんは、卵巣表面の細胞にできる悪性腫瘍だ。初期には自覚症状がほとんどなく、有効な検診方法もないため、早期発見が困難で、半数近くが進行した状態で見つかる。近年は、手術法の進歩と抗がん薬の開発により、診断から5年後の生存率は大幅に改善した。しかし、再発率が高く、治療するうちに徐々に抗がん薬が効かなくなる。「10年、15年の長期生存率は必ずしも良くなっておらず、新しい治療法が求められています」と京都大学医学部付属病院(京都市)産科婦人科科長の万代昌紀医師は話す。
免疫チェックポイント阻害薬はがんの免疫逃避機構を解除する
▽がん細胞の「逃避」を阻止
新しい治療法には、がん細胞の表面にある特定のタンパク質などを狙い撃ちする分子標的薬のほか、免疫チェックポイント阻害薬を用いた免疫療法があり、注目されている。「免疫療法は、効果があれば長期生存を望めます」と万代医師。
人には、外部から侵入した細菌や体内で発生したがん細胞などの異物を攻撃・排除する免疫システムが備わっている。免疫システムではT細胞という免疫細胞の働きが重要な役割を担っているが、同時に過剰に働くのを防ぐPD―1やCTLA―4という物質も出ている。がん細胞はそこにつけ込んで、PD―1と結び付くPD―L1、CTLA―4と結び付くB―7という物質を出してT細胞が働くのを邪魔することで、免疫システムによる攻撃・排除から逃れて生き残り(免疫逃避機構)、無制限に増える。
そこで、これらが結び付くのをブロックして免疫システムを正常に働かせ、がん細胞を攻撃・排除する免疫チェックポイント阻害薬の開発が進められている。
▽1~2割の患者に有効
これまでに万代医師らは、化学療法後6カ月以内に再発した卵巣がん患者に、免疫チェックポイント阻害薬の一つである抗PD―1抗体による免疫療法を実施。20人中2人に効果が見られ、5年以上たった今も再発していないという。「他の臨床試験の結果も踏まえると、免疫チェックポイント阻害薬はすべての患者に効く夢の薬ではありませんが、1~2割の患者には非常に有効です」
今後は、2年前に保険適用となったゲノム診断を活用して、免疫チェックポイント阻害薬の効果を確認する指標(バイオマーカー)や、免疫チェックポイント阻害薬と既存治療の最適な組み合わせを検討していくという。万代医師は「卵巣がんの領域では、1~2年に1剤の割合で新薬が登場しており、再発しても長く生きられる可能性が広がっています。主治医と相談しながら、ベストな治療法を選択してください」とアドバイスしている。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2021/03/21 05:00)
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