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「座りすぎ」 がん予備軍に 
コロナ禍、早期発見の障害

死亡リスクは1.8倍=がん対策推進企業アクション資料より

 新型コロナウイルス感染症の拡大が止まらない。自粛や在宅勤務が続く中、「コロナ渦におけるがん対策、がん治療」と題したセミナーが都内で開かれ、東京大学付属病院の中川恵一放射線科准教授は「在宅勤務で座りすぎるとがん死亡が増える」「早期発見に不可欠な検診も減っている」と指摘。新型コロナ対策が、がん治療に弊害をもたらす事態への懸念を示した。

 ◇死者はコロナの300倍超

 新型コロナ感染者は、8月17日時点で約5万7000人、死亡者は約1100人。これに対して、昨年のがん患者は102万人。死亡者は38万人で新型コロナの約300倍以上だ。

 男性の3人に2人、女性の2人の1人が生涯で何らかのがんにかかる時代。中川准教授は「コロナ対策をあまり優先すると、がん対策がおろそかになり、全体としての健康が損なわれる」と語った。

 具体的には、在宅勤務により喫煙や飲酒の増加といった生活習慣の悪化も懸念されるが、最大のリスク要因となるのが「座る時間の増加」だと語った。

座りすぎ解消には立って会議=明治安田健康開発財団 健康増進支援センター提供

 ◇世界で極めて長い「7時間」

 中川准教授は米テキサス大学付属MDアンダーソンがんセンターが行った研究「座る時間とがん死亡リスクの関係」を紹介。それによると、「最も(長い時間)座るグループ」のがん死亡リスクは「最も座らないグループ」の1.8倍だった。特にリスクが高いのは前立腺がんと乳がん・卵巣がんだとしている。

 座っている時間。日本人は平均7時間で世界的に極めて長い。中川准教授は「在宅勤務によって座って仕事をする時間が増えた人は8割に上る」と指摘し、在宅勤務が将来的にがんが一段と増加する要因になるという。また、「座りすぎの健康リスク帳消には1日60分以上の運動が必要。座りすぎと運動不足は別問題」で、座る時間自体の削減が必要だと強調した。

 ◇検診が激減

 新型コロナは、がんの早期発見に不可欠な人間ドックや健康診断、がん検診にも影響している。

がん検診の推移=がん対策推進企業アクション資料より

 日本人間ドック協会の調査によると、新型コロナの感染拡大を受けて出された緊急事態宣言の期間中、全国473の健診施設のうち256施設(約54%)が「健診をすべて中止した」。245施設(約52%)は「6月意向も健診を行わない、あるいは一部制限する」と回答していた。

 加えて、がん検診の受診者数が激減している。日本対がん協会が肺がんなど五つのがん検診について32支部の実績を集計したところ、昨年と一昨年の4月にいずれも約20万人だった受診者が今年4月は約3万人、同じく5月は約45万人から約4万人に減少していた。

 ◇手術件数、減少

 同協会は今年度の受診者が約3割減り、これに伴ってがんの早期発見が4000人近く減少すると予想している。

 がんは日本人の死因トップだが、早期に発見すれば9割が完治する。中川准教授は「早期にがんを見つけるなら、元気なうちの検診しかない」と力説。しかし、健診や検診が減少しており、「(治療が難しくなる)進行がんと診断される患者が増える」と警鐘を鳴らす。

 検診に加えて、がん治療にも影響が出ている。がん専門医療機関で新型コロナ院内感染が発生するなどし、手術件数の減少が顕在化している。手術は濃厚接触が不可避で入院が必要。こうした実情も件数が減少した要因となっている。

講演する中川恵一准教授

 ◇放射線治療の選択肢

 手術だけではない。中川准教授は、肺がん患者に関する米国臨床腫瘍学会の研究から、抗がん剤治療にも注意が必要だと指摘する。同研究は、新型コロナと診断された肺がん患者400人を分析。400人のうち140人がある時期までに死亡したが、死亡者の47%は新型コロナと診断される3カ月以内に化学療法(抗がん剤治療)を受けていた。放射線治療を受けていたのは9%だった。

 中川准教授は「がん患者が治療の後に新型コロナに感染した場合、一番怖いのは抗がん剤だ」と指摘。抗がん剤治療に伴う免役力低下が新型コロナ感染の症状悪化につながる可能性があるためだ。手術も減少している中、中川准教授は通院治療が主体で副作用も少ない放射線治療の利用拡大を呼び掛けた。(舟橋良治)

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